<内容>
深夜、人を轢いてしまったと、警察署に女性が飛び込んできた。死んだ男は泥酔して道の真ん中で寝込んでしまったらしい。土地のものではないと見当はつくものの、顔は潰れてどこの誰だか判らぬありさま。ただ奇妙なことにこの男、どの酒場にも寄った様子がなく、酒壜も持ってはいなかった。そこで、酒壜捜しを命じられた若い巡査が涙ぐましい捜索を続けていると、勝手にそれを手伝い始めた男が二人。この風変わりなよそ者は、その名をトビーとジョージといった・・・・・・
<感想>
フェラーズの出発点となる本書であるが、著者はその中に探偵の役としてトビーとジョージという二人のコンビを創作した。フェラーズの成功の要素のひとつとして、この探偵のコンビという存在は欠かせないのではないだろうか。正直いって、探偵役としてトビー一人だけであれば作品としてそれほど成功しなかっただろう。トビーに比べれば巷には他にいくらでもあくの強い探偵たちが控えている。ここで重要なのはジョージというトビーの相棒の役割であろう。このジョージというのが不可解な男で、ひょっとすると事件自体よりも大きな謎に感じられるのではないだろうか。この男が突然口をはさんだり、ふらっとどこかへいなくなってしまうという奇妙な行動が読者を惹きつけて止まなくさせる。そんな異色の探偵コンビが成功するべくここから出発したのである。
本書の事件は、事故か謀殺か? というところから始まり、被害者の身許は? この男が死んだ時の周りの人たちの行動は? と目まぐるしく展開されていく。軽いタッチで書かれているものの、なかなかまじめな本格ミステリが存分に取り組まれている。そしてラストにトビーが犯人を指摘し・・・・・・といった結末はなかなか圧巻といったものを感じさせてくれる。さすがにフェラーズ、さらっとは終わらせてくれないといったところだ。
余談ではあるが、本書の表紙の絵はじつによくできていると思う。犯人についての言及とかそういったものは含まれていないが、この絵ひとつによって内容のほとんどが網羅されているといってもよいのだから。
<内容>
トビー・ダイクの住む家に知人であるルー・ケイプルが訪ねてくる。理由はいえないが15ポンド貸してほしいと。トビーはルーに15ポンド貸し、家に泊めてやることに。しかし次の日、ルーが殺害され死亡したとの報がトビーのもとにもたらされる。トビーとジョージはルーが死亡したウィルマーズ・エンド邸へと駆けつける。そこは元は出版社社長であるロジャー・クレアが住んでいた家で、妻と離婚した後、その元妻イヴ・クレアが現在住んでいる邸であった。そこには現在、一癖二癖ある人々が滞在しており・・・・・・
<感想>
感想を書いていなかった作品の再読。この作品はエリザベス・フェラーズ描く、“トビー&ジョージ”シリーズの2作品目。トビーが気にかけていた、お人好しの娘が殺害されるという事件。トビーは彼女が死亡した邸へと乗り込み、警察を丸め込んで独自の捜査を開始する。
事件後にその屋敷に乗り込んで、そこで徐々に登場人物の紹介が始まる故に、わちゃわちゃしたような感じで物語が流れてゆく。何しろ事件前の落ち着いた雰囲気ではなく、事件後それぞれが動揺した状態のところから始まる故にちょっと独特。しかも、登場する人々が一風変わっているゆえに妙な雰囲気のなかでの捜査となってゆく。
ルー・ケイプルは何故殺されたのか、彼女の生前の奇妙な行動の理由は、屋敷の当主であるロジャーとイヴがそれぞれ抱え込んでいる問題とは、屋敷に仕掛けられた妙な罠の目的は、二人の植物生理学者の奇妙な言動に隠されているものは、ルーの同居人であるドルーナは何か隠しているのか、イヴの伯父夫婦さらにはイヴの娘らの言動の意味は、等々。といった様々な謎を抱えつつ、物語は展開してゆく。
そして今回はトビーが活躍するのか? それともジョージの活躍が光るのか? といったところも注目点。個人的には、事件の真相については微妙であったかなと。それぞれの被害者が殺害される理由について、少々弱いように思われた。それよりもルーがトビーから借りたお金が何に使われるものであったのかという理由の方がミステリ的には面白かったような。
<内容>
嵐の夜、ジョアンナの父が身投げを図った。偶然通りかかった青年たちに取り押さえられ、その場は事なきを得たものの、彼は一切動機を語らぬまま、翌朝、秘蔵の拳銃によってこの世を去った。突然の父の死に思い悩む娘に対し、警察は他殺の可能性があることを告げる。彼女は妄想のように脳裏を離れぬ疑惑に苦しみ、前夜父を助けてくれた青年、トビー・ダイクに助けを求めた。はたして、これは自殺に見せかけた他殺なのか、それとも、その反対なのか?
<内容>
ゆるやかな丘の広がるダウンズ地方の片田舎、イースト・リート。異邦人からの助けを求める手紙に応え、連続誘拐未遂事件を解決するため、トビーとジョージはロンドンから遠く離れたこの地まで遠路はるばるやってきたのだ。だが、想像以上の寒村で彼らが出くわしたのは、前代未聞の誘拐殺害事件であった。たしかに、嫉妬に遺産に保険金と、動機にも容疑者にも困らない状況なのだが、誘拐されて死体となって見つかったのは、なんと、チンパンジーだったのだ!
<内容>
トビー・ダイクは旧友のジョンから請われて彼の家を訪れる。しかし訪ねてみたものの、家の中には全く人の気配がない。不審に思い家の中へ入ってみたトビーが発見したのは旧友ジョンの死体であった。家の中は荒らされ、弾丸や血痕の跡があるものの、ジョンの死体には暴行されたような形跡はない。これらの状況は何を示しているのか?
不審な行動をとる女出版社、ジョンとの不仲であった夫人、その夫人と不倫の関係にあった隣人、世話焼きの下宿屋の夫人とその子供達・・・・・・彼らの不審に思える行動はこの事件において何を指し示すものなのか??
<感想>
久々の“トビー&ジョージ”シリーズである。大変満足な出来であるのだが、トビーの相棒のジョージがいつもに増して登場の機会がへっていたのが残念であった。そして、これがこのシリーズの最終作というのもさらに残念な事である。
今回は死体が発見されるものの、死因が心臓麻痺のようであるにも関わらず、部屋には何者かが銃で撃たれたような形跡があるというもの。それならばその死体はどこに? そして数々の登場人物の不自然な行動は何を意味するのか? というところにスポットが当てられた内容となっている。
徐々に動機となる背景があらわにされ、それにより容疑者達の不審な行動が少しずつ明かされ、最後の最後に犯人と目される者の存在が浮き彫りになっていく構成はなかなかのもの。一見、ドタバタ劇かのようなミステリではあるのだが、物語の奇抜さとトビーのなりふりかまわぬ捜査がうまくマッチして、それなりの推理小説として出来上がっているのだから不思議なものである。
と、これまでこのシリーズを読んできて、ここで終わってしまうというのも何か名残惜しい。フェラーズ初期の作品にも関わらず、何ゆえ5冊で終わりにしてしまったところが気になるところである。ひょっとして、当時はこういう作風はあまり人気がなかったとか??
<内容>
ロンドンの安アパートにはさまざまな人が住んでいた。画家、秘書、評論家、建築家、その他怪しい者たちも含め色々と・・・・・・。そんなある日、このアパートに引っ越してきたばかりの秘書の部屋でガス工事が行われた際、一丁の拳銃が発見された。そしてその後、以前その部屋に住んでいた女性が、射殺死体として発見され・・・・・・
<感想>
ハヤカワポケミスで出版された作品が文庫により復刊された。フェラーズの数少ない翻訳作品なのではあるのだが・・・・・・。
文庫の装丁からすると、コージー・ミステリーとかライト系な軽い本というような売り方をしているみたいのなのだが、実際読んでみると雰囲気はそれとは異なるものとなっている。ひとつのアパートに住む住人達の話であるのだが、その雰囲気は決して明るくなく、それどころかどろどろとした暗さをまとったものとなっている。
そして肝心のミステリーとしての内容なのだが、それも特に目を引くようなものはなかった。終始、凶器が隠されたときの物音にこだわる形で話が進んでいくようなのだが、結局それが解決に直接関与していたようには思えない終わり方をしている。また、犯人の正体が明らかにされる場面でも決定力不足が感じられた。
フェラーズという作家はかなりの数の作品を残している。しかし、そのほとんどが今だ訳されずに終わっている。その理由の一つとしては、本書「私が見たと蝿は言う」が先に訳されたために、あまり面白くない作家というイメージが付きまとってしまったせいなのではないだろうか。「猿来たりなば」のような面白い作品がまだ眠っていそうな気がするのだが・・・・・・
<内容>
灯火管制が敷かれる戦時中、刺繍作家セシリーの家に招かれたアリス・チャーチ。そのパーティーで、ひきこもりがちで表に出てこなかった劇作家オーブリー・リッターが久々に皆の前に姿を現すという。しかし、いつまでたっても部屋から出てこないオーブリー。その後、彼は撲殺死体となって発見される。パーティーにきていたジャネット・マークランドは、自分が殺したと告白し、容疑者として警察に拘留される。アリスはジャネットとは、そのパーティーで初めて会ったのだが、彼女が殺人を犯したということに、どこか違和感を覚えることに。アリスはパーティーの参加者に話を聴き、事件の真相をつかもうと試みるのであったが・・・・・・
<感想>
全体的に退屈な作品であった。今年同じく論創海外ミステリから刊行されたフェラーズの「カクテル・パーティー」も前半はやや退屈であったが、後半はそれなりに見どころがあったと思う。しかし、本書は最初から最後までずっと盛り上がりにかけたような。
一応、起きた殺人事件について調査をしていくという内容ではある。ただ、事件を検証していくというよりは、被害者やその周辺の人たちの性格や心情に迫るというおもむきが強すぎて、ミステリとしてあまり楽しめない。なんとなくゴシップものの物語という感触が強かった。
<内容>
ジャスティン・エマリーは友人のグレース・ダロングに呼ばれて、イギリスの田舎町へとやって来た。すると、グレースの不安が的中するかのように、彼女の友人であるサイン夫人の夫でデザイナーのアーノルド・サインが何者かに射殺される。事件当日、何人かの人物が彼を訪ねてきたようなのだが、その誰も彼もが本当のことを語ろうとしない。嘘で塗り固められた状況の中で、真犯人を見つけ出すことができるのか??
<感想>
パズラーのようでパズラーではないミステリ小説。
とある男が殺害される。その男を訪ねて来た者たちがいる。それらの状況から見て、殺人犯は誰? というような小説であるが、容疑者達が嘘をつくことにより、状況自体が容易に明らかにされないのである。そんなわけで、内容だけを取ってみればパズラーっぽい小説なのだが、実際に読んでみるとそんな気は全くしなかった。
さらにいえば、登場人物たちの個性が乏しい。乏しいというよりも、退屈な人物達ばかり集まっていると言ったほうがよいかもしれない。ゆえに、物語自体も退屈にならざるを得ない。少なくもと探偵役であるジャスティン・エマリーの人物造形だけでも何とかならなかったものかと思わずにはいられない。
そんなこんなで話が進み、驚愕の真相が待ち受けてはいるものの、唐突としか感じられないところが残念なところ。また、蛇足であり、本書の内容には関係ないのだが、冒頭の“読者へのささやかな道案内”というのは不必要であると思える。どうしても付けたいというのであれば、せめて2、3ページくらいにまとめてほしいものである。
<内容>
アンティークショップを営むファニー・ライナムの家で近隣の人々を招いたパーティーが行われた。そのパーティーには、ファニーの顧客ではあるのだが、今まであまり付き合いのなかったピーター・ポールターという男を呼んでいた。ファニーの友人であり作家のクレアが彼に興味を持っていたからだ。そしてパーティーは、ロブスターのパイの味がおかしかったという事以外は、特に問題もなく進められた。しかし、翌日ピーター・ポールターが毒により死亡したという知らせが報じられた。彼だけがパーティーの夜、ロブスターのパイを食べていたのだったが・・・・・・
<感想>
久々に読むフェラーズの作品。ノン・シリーズのミステリ作品であるが、なかなか読み応えのある内容であった。
ライナム夫妻の家でパーティーが開かれる。パーティーの次の日、参加者の一人が毒により死亡したという報がもたらされる。その事件が起こるまでに、パーティーで集まった人、集まらなかった人たちの人間関係が描かれる。お節介なファニー・ライナムともの静かな大学講師である夫。ファニーの異母弟であるキットは婚約者のローラを連れてくる。またキットはその婚約以前にスーザンと付き合っていた。そしてパーティーの直前、スーザンの家のモーデュ家とグレゴリー家が仲たがいをして、グレゴリー家はパーティーに来なかった。というような人間関係が語られる中で、それらの相関図に全く関係のない男性が死亡するという事件が起こってしまうのだ。
注目すべき点は、上記に書いた、何故一連の人々と関係のない男が死ぬこととなったのか? そして死亡した男はパーティーの際、まずくて皆が手を付けなかったロブスターのパイを何故かひとり気にせず食べていた。ロブスターのパイに対して、皆は苦みを感じていたが、男が死ぬこととなった毒は苦みとは無縁のものであった。こうした矛盾点や起きた出来事のなかから真相を見出していくこととなる。
途中、奇妙に思ったのは、中途半端に語られ続ける推理。ノン・シリーズゆえに誰が探偵役となるのかがよくわからないのだが、数名の者が各自それぞれの推理を展開していくこととなる。ただ、どれもが中途半端できっちりとした検証が行われないまま話が進んでゆくこととなる。こうしたおかしな点をはらみつつ、最後の最後ので真相が語られることとなるのだが・・・・・・なるほどと、感心させられてしまった。真相が明らかにされることにより、起きた事件やその後のさまざまな不可解なことがきっちりと解明されることとなる。思いもよらぬ意外な動機が明らかにされることにより、物語全体にかかっていた靄が全て取り払われたという感じ。
<内容>
休暇を利用して、スコットランドのマル島へと出かけたロビンは、殺人事件に巻き込まれる。殺されたのは、旅先で知り合った個性的な有閑マダム四人組の一人。はたして、本当に狙われていたのは誰だったのか? 犯人は友人か、息子か、夫か、それとも・・・・・・