<内容>
霧の夜、弁護士のサイモンは事務所の共同経営者であり実の兄でもあるオリバーから突如事務所まで来てくれと電話で告げられる。兄の気まぐれになれているサイモンは事務所へと行くのであるが、そこで兄の死体を発見することに。ビルに入ったときに何者かとすれ違ったのだが、それが兄を殺害したものであったのだろうか!?
兄の死後、次々と明らかになるサイモンが知らなかった事実。別の共同経営者への恐喝、オリバーが生前巻き起こしていた不倫騒動、オリバーの妻が隠している件と、別居中のサイモンの妻との問題。頼りになる兄であったはずのオリバーは卑劣な恐喝者であったのか? 事件に隠された真相とは??
<感想>
もう50年も前に出た作品なので古典の部類に属する本。近年になってようやく知ったせいもあり、なんとなくディヴァインという作家については最近の人という気がしてならない。この作品は内容全体的にはそれほど古さを感じさせないものの、トリックに関しては古典らしさを感じさせる内容。
事件が起きた時にはトリック一辺倒の作品かと思ったのだが、話が進んでゆくにつれてそうでもないと感じることとなる。中盤はトリックよりもアリバイ重視。さらには、被害者の真の人間像や彼の周辺にまつわる恐喝事件の真相へと肉薄してゆく展開を見せる。
登場人物はそれほど多くないので、あれが怪しい、これが怪しいと色々と考えるものの、こちらが怪しいと思われるものは次々と疑いが晴れていくこととなる。そうしたなかで誰が残るのかと考えたところで、驚くべき真相が明かされる。何が驚くべきかといえば、誰が? ということよりは、真犯人とそれを取り巻く関連性に意外があると言えるであろう。
サスペンスとしても、本格ミステリとしてもデビュー作であるとは思えない十分な内容。今年もディヴァインが海外ミステリの話題は独占するのか!?
<内容>
開業医アラン・ターナーの共同経営者ギルバート・ヘンダーソンが死亡した。当初は事故と思われたが、警察は殺人事件とみなして捜査を進めてゆくことに! 容疑者と目されるのは、ヘンダーソンの妻・エリザベスと、アラン自身。しかもアランは婚約者がいるにも関わらず、エリザベスとの仲を周囲の者達から疑われており、厄介な状況に陥ってしまう。なんとか真犯人を見つけようとアランは聞き込みに回るのであったが・・・・・・
<感想>
医師であるアラン・ターナーが主人公となり、共同経営者であり、先輩ともいえる医師の死について調査していく。ただ、このアラン、あまり好感が持てる人物ではない。視点となる主人公が好感を持てない人物であると、結構物語が読み進めづらい。また、この主人公自身をどこまで信じて良いのかさえわからない始末。
さらには、他の登場人物も好感を持てない者たちばかり。死亡した医師もしかり。軽率な行動をとる医師の妻、アランに圧力をかける市長、借金を重ね続けるアランの友人、アランに好感を抱いていない婚約者の両親等々。ただ、こうして登場人物を並べてみると、単にアランが周囲から嫌われているだけのようにも・・・・・・
主人公の人柄は置いといて、感じのミステリとしての内容としては、オーソドックスでうまくできているといえる。地道に各関係者から話を聞き、アリバイや背景などといった外堀が埋められてゆき、最終的に犯人が浮き彫りになってゆくというもの。この作品で印象的なのは、謎解きよりも最後の場面。読み通してみると、なんとなく女性に受けそうなミステリ作品ではなかろうかと思えるほどドラマチックであった。
<内容>
ハーゲイト大学講師エドワード・ハクストンは横領の嫌疑をかけられ大学から追い出される寸前にあった。彼は唯一ともいえる年下の友人で同じく大学の講師をしているピーター・ブリームに助力を求める。また、ハクストンは大学側に対して、自分を大学から追い出したら、とんでもないことが起きると脅迫めいたことさえも口にした。しかし、そのハクストンは自室でガス中毒により亡くなってしまう・・・・・・
ハクストンの死は自殺なのか? 他殺なのか? また、彼が口にした脅迫めいたことは、8年前に大きなスキャンダルとなったピーター・ブリームの父親で大学教授であった故デズモンドに関することであったのか!? 事件はハクストンの死のみに終わらず、次々と大学を襲うこととなり・・・・・・
<感想>
これは良い作品であった。もっと早めに読んでおくべきであった。そうすれば、ランキングの投票にも間に合ったのに・・・・・・少し後悔している。
本書は訳が新しいせいか、40年前に出版された地味な内容のガチガチのミステリであるにも関わらず、かなり読みやすかった。
内容はひとりの老講師の死の謎を解くということと、8年前に起きたスキャンダルの真相を探るというもの。登場人物らがそれらの謎を探っていると、何者かがそれを妨害(ときには殺人によって)しようとする。
その登場人物が結構多く、多視点にも関わらず、読んでいるほうは混乱することなく話を読み進めることができるようになっている。多視点であっても、うまく描かれているということをとっても、作品の完成度の高さがうかがえる。また、この多視点というものが読者のミスリーディングをうまく誘うようにもなっているのだ。
本書は“象牙の塔”ともいえる閉鎖された大学内での事件をうまく扱ったミステリといえよう。過去のスキャンダルにまつわる事件と現在進行しつつある事件をうまく関連付けて描いている。また、クライマックスの殺人を予告された中での式典の場面も緊迫したサスペンス・タッチで手に汗握る展開となっている。そうして事件はスピーディーに進む中、真相が暴かれてゆくのである。
これはもう見事としか言いようのない作品。本書は今年一番の収穫といえるかもしれない。たぶん、来年以降はディヴァインの作品がどんどん訳されることであろう。
<内容>
スコットランドの地方都市にて、女教師が深夜の帰り道で何者かに襲われるという事件が起きた。幸いにも女教師は一命をとりとめたものの、彼女のそばには不吉な8つの取っ手のある棺の絵が描かれたカードが落ちていた。その後、街で次々と殺人事件が起こることに。被害者のそばには不吉なカードが必ず置いてあった。犯人はいったい誰を狙っているのか? そして真犯人の正体とは!?
<感想>
今回のディヴァインの作品も実に面白かった! と言いつつ、実はかつて社会思想社の出版で紹介された事のある作品。
町で起こる連続殺人事件を主人公の新聞記者が追いつめていくという内容。実は最初の被害者に関わる件から、犯人の正体はある程度に絞ることができ、そこから論理的に犯人を推測していくという内容である。
被害者の共通項もありそうでなさそうなもの、さらには犯人の動機がどこにあるのか? さまざまな理由がありすぎてなかなか絞り込めないというのが実情。そういった中、主人公は心理的な面から犯人を特定することとなる。
全体的に、論理的でなおかつサスペンスフルで実に楽しめる内容。最後の最後まで真犯人の策略によって、うまくだまされてしまったという気がする。やや、ネタバレ気味かもしれないが、それぞれの章の冒頭に設けられている“殺人者の告白”というものがミステリ小説としても、真実を惑わすという面でもうまく成功しているといえよう。これは今年読み逃してはならない海外ミステリの一冊と言って過言ではないだろう。
<内容>
周囲から軽んじられているタイピストのルースは、職場でとあるメモを拾い、自分は重要な秘密を知ったと皆に言いふらす。そしてそのメモの内容を恋人である警官のクリスに知らせようと考えていた。ルースがクリスとデートしようとした矢先、ルースは家で何者かに殺害されてしまう! 町が町長選出によるいざこざが持ち上がるさなか、町の副書記官であるジェニファー・エインズレイはルース殺害の件で窮地に立たされることとなり、事件について調査する羽目となり・・・・・・
<感想>
話の始まりは、周囲からその存在を軽んじられているタイピストのルースが、会社で拾ったメモにより重要なことを知ってしまったと皆に言いふらし、それが元(?)で殺害されてしまう。その後、物語の主人公は副書記官ジェニファーに移り、彼女の視点が主となり犯人探しが始まってゆく。
困ったことに全体的に話が面白くない。事件の犯人を見つけるというよりも、町会議員の仕事についてあれやこれやと語られるのが主であり、内容にあまり興味を持てなかった。その町会議員の仕事の中で、汚職が発見されたり、当のジェニファーが上司と不倫していたり、出世争いが行われていたりと、そうした事柄が語られる中で、殺人事件がこれらに関係しているのかということが焦点となる。
最終的に明らかになる犯人については驚かされたものの、よく考えてみると、主人公と数名以外はほとんど印象に残らないような人々のため、誰が犯人であっても意外と思えたかもしれない。ミステリとして面白いとかいう以前に、その背景となる町議会の部分に全く興味を抱けなかったので何とも言いづらい作品。
<内容>
ジゴロ家業を生業とするネヴィル・リチャードソンは今回はアルマ・ヴァランスという女性をターゲットに決める。彼女は有名作家の娘であり、家庭は裕福である。しかも、恋人と喧嘩別れしたばかりで、ネヴィルはその隙をついて徐々にアルマと親しくなってゆく。そうして二人の距離は狭まっていくのだが、ネヴィルはどうやら何者かからの計画によりアルマをだましているようで・・・・・・
<感想>
それなりに面白く読めたのだが、意外性は乏しく、普通のサスペンス・ミステリの範疇の中に納まってしまう作品という印象。
ジゴロの詐欺師ネヴィルが何者かからの指示により、資産家の娘をだましていくという内容。しかし、当然のことながら事態は計画通りにいかず、思わぬ展開が待ち受けることとなる。
序盤の主人公はこのネヴィルといってもいいはずなのだが、これがまた気の毒なくらい“小物”扱いされている。他の登場人物たちから、そんなたいそれたことを考えるような人物ではないとか、それほど頭がよさそうではないとか、さんさんたるありさま。そうして彼には、いかにも小物らしい結末が待ち受けている。
また、本書のもうひとりの主人公は、アルマの姉でしっかりもののサラ。彼女は資産家である家庭を切り盛りするごく普通のしっかりものの主婦であるのだが、疑問に思った事は突き詰めずにはいられない性格であり、単独で妹のアルマを守ろうと奮闘する。
このサラ自身は決して小物とはいえないのだが、普通の主婦であるがためか、周囲からの評価はそれほど高くはない(主婦としての評価は高いが)。その普通の人物が家庭内の不和や悩みなどを抱えながらも事件に正面から向かって行こうとするさまには、非常に真摯なものを感じ取る事ができる。
結局のところ、本書は普通のサスペンス・ミステリというよりも、家庭を守ろうとする主婦の強さを見せ付けられた作品といった印象のほうが強かったようにも感じられる。タイトルからすると何やら不穏なものを感じ取れるのだが、その実、本当の内容は主婦が活躍するミステリ作品といったところ。
<内容>
小さな町で13歳の少女が殺害されるという事件が起きた。少女はゴルフ場にて暴行の跡はないものの全裸の状態で遺棄され、死因は絞殺であった。その後、容疑者として有力視されていた者が崖から転落するという事件が起きる。これで事件は解決したかに思われたのだが、さらに別の少女が最初の被害者と同じように殺害されるという事件が続くこととなり・・・・・・
<感想>
タイトルの意味が読んでいる途中ではよくわからなかったのだが、どうやらマザーグースの歌のタイトルのよう。物語の後半で、ようやくタイトルを示唆する記述が現れることに。
多人数の主観から語られる作品であり、そのうちの多くが13歳の少女の視点である。そのように聞くとごちゃごちゃした物語のように感じられるかもしれないが、実際には読み易くライト系の内容とさえ感じられたくらいである。
語り口は軽いのだが、物語中で起きている事件はかなり重たいもの。実際は町中がパニックになってもおかしくないくらいのものであるのだが、そのわりには登場する人々はやけに落ち着いていたように思える。
本書はミッシング・リンク系ミステリとでも言えばよいだろうか。被害者をつなぐ共通点とは何なのかということがメインとして話が進められていく。13歳の少女たちが次々と狙われていく理由は何なのか? 容疑者と見られるものが数多く存在し、絞り込みにくく見える中、論理的に真犯人が絞り込まれていき、真相を得るためにひとつの実験が行われる。
結末もきちんとしていて本格ミステリとしてよくできていると思われる。ただ、当たり口が軽く感じられてしまう分、重みに欠ける作品ともとられてしまうかもしれない。
<内容>
小都市シルブリッジの区役所にて、ジャージー島からやってきたというルース・ケラウェイがタイピストとして働くこととなった。彼女は、自分の出生の秘密を知ることを目的とし、区役所で自分の父親が誰なのかを探っていた。そんなルースの行動が、スキャンダルや不正を掘り起こすこととなる。彼女が町にやってきたことにより起きた騒動は、やがて殺人事件へと発展する。同じく区役所で働くケネス・ローレンスと彼の元恋人であるジュディス・ハッチングは、自分たちの家族が事件に巻き込まれたことにより、事件の真相を探ろうとするのであったが・・・・・・
<感想>
これでディヴァインの小説を読むのも7冊目。今まで読んだものの中では「ウォリス家の殺人」に近いようなサスペンス小説というところ。小都市で起こる醜聞事件の掘り起こしを発端として、殺人事件が起こるという内容。
この作品は、群像小説とまではいかないにしても、視点がかなり切り替わる。基本的には前半ケネス、後半ジュディスという視点で進められるが、どちらかに絞ってもよかったようにも感じられた。別に読みづらいというほどまではいかないものの、登場人物が多いことと、ささいな視点切り替えが多かったことが、やや気になった。
ジャンルとしては、サスペンス小説という感じなのだが、最後に語られる真相を聞くと、意外と本格推理小説っぽくなっているなと驚かされる。単に事象が流れていくだけの小説かと思いきや、きちんとそれぞれの行動や行為に理由付けがされているというのは見事である。ラストがやや、パターン化されているようにも思えたが、十分によくできたミステリ小説と言えよう。
<内容>
歴史学者のモーリスは幼馴染の人気作家ジョフリー・ウォリスの招待されて、彼の家に滞在することとなった。モーリスはジョフリーの妻ジュリアから近頃夫の様子がおかしいということを伝えられる。なんでも、久しぶりに会うことになったモーリスの兄ライオネルが訪れてから、様子がおかしくなったというのである。モーリスはライオネルからなんらかの脅迫を受けているのだろうか!?
モーリスに仕事を促す出版社社長のストライカー、近所に住むモーリスとウォリス家の共通の知り合いの弁護士デュランド、婚約をしているモーリスの息子クリスとジョフリーの長女アン、そして天真爛漫で奇妙な言動をとる次女のジェーン。
複雑な人間関係が漂うウォリス家において、徐々に緊張感が増す中、ライオネルに会いにいったはずのモーリスが行方不明となることに!!
<感想>
昨年紹介された「悪魔はそこにいる」で注目されたディバインの作品が今年も翻訳された。内容はそれなりに読者の期待に応えた作品となっており、ディバインという作家の安定した実力を証明することができるものである。
ただし、前作のようなミステリを期待すると、若干肩透かしにあうかもしれない。本書はガチガチの本格というよりは、むしろサスペンス・ミステリという趣に感じられた。
実はこういった作風に関して、翻訳者は理解しているところで、多数あるディバインの作品をどの順番で翻訳してゆけばよいかといったところが悩みどころのようである。そのへんは、あとがきに書いてあるので、こちらも注目してもらいたい。
今回の作品はウォリス家を中心にして起きた事件の謎にまつわる内容となっている。登場人物それぞれが、互いの相手に対して思っていることの虚実を探っていくというサスペンス小説。表面的に見える部分とその裏に隠れた見えざる部分、それらの真実が次第に明らかになり、やがては犯人の姿が浮き彫りになってゆくという作品。
本書は、“推理する”というようなものではなく、どちらかといえば次第に“分かってゆく”というような展開で進められてゆく。ただ、最後の最後になると、犯人はもうこの人物しかいないということがわかるように出来ており、その犯人の魔の手が主人公に迫ってゆくという場面はまさに圧巻であった。
本書に対して面白いと思うか、つまらないと思うかは前作に比べれば大きくわかれるところではないかと思える。とはいえ、訳者が考えに考えて、狙って訳してきているようなので、まだまだ面白い作品は伏せられているのではないかとも考えられる。というわけで、今後もディヴァインの作品が出版されたら、決して見逃せないということは確かであろう。