<内容>
作曲家のジェフリー・ヴィントナーは探偵のジャーヴァス・フェン教授から教会のオルガンを弾くために呼ばれることに。しかし、その教会への道中、ジェフリーは再三再四、何者かによって命を狙われることに。そしてたどり着いた村では教会で起きた殺人事件に遭遇することに。その事件は、誰も入ることのできないはずの教会のなかで、聖歌隊長が巨大な墓石によって押しつぶされるというものであった。いったい、この村で何が起きているのか!?
<感想>
全体的にドタバタ劇っぽく、「消えた玩具屋」という作品に似ているような気がするな、と思ったら書いている人が同じであった。また、本書に出てくる探偵役のフェン教授の性格ってこんなだったかな、と思ったら本書はフェン教授が登場する第2作目でまだ人物造形が整ってなかったのかなと考える。
本書はミステリーというよりは、スパイ小説に近いように感じられた。不可能犯罪と思われる事件も飛び出すものの、あまりにも大味でバカトリックといえるものであり、ドタバタ劇っぷりをさらに強調しているようにも受け取れる。
とにかく“緻密な推理を”というよりは“手に汗握って”という言葉のほうがふさわしい作品。抱腹絶倒のコメディ・サスペンス・ミステリーといってもよいであろう。とにかく、タイトルに偽りなし。
<内容>
深夜、独身の詩人キャドガンは、オックスフォードの町を歩いていた。ふと小さな玩具屋の前に立ち止まった彼はその店内に、奇妙な気配を感じ店内の中につい入っていってしまった。すると彼はそこで女性の死体を発見し、さらには彼もその場で襲われて昏倒してしまう。意識が戻り店から出た彼はそのまま警察に直行し、一部始終を説明する。そして警察と共にその現場へ戻った彼は、玩具屋がどこかに消えてなくなり、その場所には食料品店が商いを行っているのを目にすることに・・・・・・
<感想>
建物の消失から被害者を巡るミッシングリンク、そして不可能殺人とそのトリックと推理小説の要素がめじろ押しの一冊となっている。さらには解決までの捜査というのが冒険に継ぐ冒険であり、あちらで大騒ぎこちらでも大騒ぎと息のつく暇もなく話が進められてゆく。ただしこうした部分は訳が古いせいもあり、読み進めづらく感じたのも事実である。できれば新訳で読みたかったというのが本音である。
なんといっても本書の見所はミッシングリンクを辿っていく捜査と不可能殺人のトリックの2点である。怪しい人物が次々と出てきて、彼らに犯行が可能なのかどうかとまどわされ、そして不可能犯罪をなしえたトリックの妙技というのがまた決まっている。
この大騒ぎの中でフェンが率いる無法学生軍団の一員となって、一緒に犯人を追い詰められればと願いたくなる一冊である。
<内容>
オックスフォードで催されるワーグナー歌劇の稽古中、歌手としては一流ながら人間的には最低の男ショートハウスが様々なトラブルを引き起こしていた。そして初日にも間近に迫ったある夜、歌劇場の楽屋でショートハウスの首吊り死体が発見される。死亡時刻には現場は密室状況にあり、作曲家で奇行で知られる被害者の兄、恋敵の歌手、理不尽な扱いを受けていた新人指揮者など、殺人の動機を持った容疑者には事欠かなかった。
友人の求めに応じて事件の解明に乗り出したオックスフォード大学の名物教授ジャーヴァス・フェンだた、歌劇場の周辺ではその後も、毒殺未遂、砒素中毒による殺人と怪事件が相次ぐのだが・・・・・・
<感想>
期待以上の傑作! 期待以上というのは、読んでいる最中はあまり起伏がないような感じ、なんのきなしに読み進められる。また、探偵役のフェン教授は最後の解決以外は何かをしているのか? と問いただしたくなるぐらい探偵に見えない役立たずに思えてしまう。
しかし、それが解決になるとあまりにもぴったりとくる解決にほぉーっと驚いてしまう。体操競技で普通の演技を行っていたものが、最後の着地だけあまりにも見事に決めてしまう。そのせいで、見ていた観衆はあわてて、その前の演技がどうだったかを思い出そうとする。かのような作品だ! (なんのこっちゃ)解決前にもう少し事件自体をみせてくれれば傑作となっただろうになぁ。
<内容>
美しい女子生徒の失踪、化学実験室の盗難と終業式を前にあいつぐ不祥事に校長は頭を悩ませていた。さらに終業式前夜、この学園の小さなミステリは、突如として教員の二重殺人事件へと発展した。来賓として居合わせたオックスフォード大学の名探偵ジャーヴァス・フェン教授は協力を請われ、早速事件現場へ急行、酸鼻な犯行に目を見張った。さらに翌日、郊外のあばら家で第三の死体が発見され、事件はますます混迷の度を深めていき・・・・・・
<感想>
登場人物が希薄で、被害者を含めた事件関係者たちの相関関係がどうもつかみずらい。論理的な犯人の示唆やその犯人を指摘する過程の推理などは見事に思えるのだが、犯人の名前を最初に言われたときに・・・・・・という感じになってしまう。結局最後にフェン教授による犯人の犯行時における推理を聞いたときに、あぁなるほどと思ってしまう。シェイクスピアの現行の謎といったおもしろい題材は詰まっているのだが、消化しきれていない。どうも、登場人物達の感情表現がなされてないことに原因があったと思えるのだが。
<内容>
その村では、とある小さな事件がおき続けていた。それは多くの者達のもとに中傷の手紙が届けられるというものであった。そんなある日、村にダチェリーと名乗る、謎の男がやってきた。そして、とある資産家の女性が自殺を遂げるという事件が起きてしまうことに。さらには、それを発端としたように殺人事件が起き、事件の嫌疑は村の女医に向けられることに。これら一連の事件の真相とはいったい!?
<感想>
古くからの積読本であったがようやく着手する事ができた。意外とクリスピンって、良い作品を書いているなと改めて思わされた。最近、あまりクリスピンの作品が紹介されなくなってきてしまったが、もっと色々と読んでみたいものである。
本書は中傷事件から始まった、自殺事件、殺人事件の謎を探っていくという作品。最終的な解決としては、事件全体の関連性がうまく出来ているなと感じられた。なかなかの佳作であると思われる。
ただ、一部の重要と思われる登場人物らに、きちんとスポットが当てられてなかったようにも思え、若干事件解決へと至るインパクトが弱かったようにも感じられた。それなりに伏線はきちんと張っているだけに、やや惜しいとも感じられた作品である。
とはいえ、全体的に物語としても、話のてん末にしても、うまく描かれている作品であるということは間違いない。癖の少ない古典本格ミステリ作品として、手にとりやすい作品であるといえよう。
<内容>
「列車に御用心」
「苦悩するハンブルビー」
「エドガー・フォーリーの水難」
「人生に涙あり」
「門にいた人々」
「三人の親族」
「小さな部屋」
「高速発射」
「ペンキ刊」
「すばしこい茶色の狐」
「喪には黒」
「窓の名前」
「金の純度」
「ここではないどこかで」
「決め手」
「デッドロック」
<感想>
エドマンド・クリスピンの短編集。そのどれもが短編というには短めで、ショートショートというにはやや長い。そのくらいの分量。その分量のせいと、作品数が多いことにより、どれも印象に残りづらいのが難点。
ただ、ここに掲載されている作品の出来はよくないかというと、決してそんなことはない。どれも事件の決め手となるポイントをしっかりと押さえており、きちんとした推理小説作品集として完成されている。とはいえ、個人的には、ひとつひとつの分量をもう少し多くして、ここに掲載されている数の半分くらいの点数にしてもらったほうが、もっと印象に残ったのではないかと考えずにはいられない。
消えた列車運転士の謎、銃弾の数によるトリック、水難事故から引き出される予想外の真実、手紙トリックと完全犯罪、暗号が鍵となる事件、衆人監視のなかでの毒殺トリック、謎の屋敷の隠し部屋の秘密、銃声が鍵となる事件、ペンキ缶から見出される真相、トリックと推理小説談義、アリバイトリックと服装と事件の顛末、窓に書かれたダイイングメッセージ、金から見出される真相とフェンの説得、アリバイトリックと待ち受ける人生、ちょっとしたやり取りから見出された決め手。
上記のように、それぞれの作品のポイントを抜き出すと、この作品集がずいぶんとバラエティにとんでいるということがわかる。内容は本当に十分といえよう。また、最後の作品の「デッドロック」は、他とは趣向の違う内容となっているのだが、ある種の青春小説として、なかなか読みごたえのある作品に仕上げられている。