<内容>
「新・透明人間」
ある男性から通報があった。窓から見える部屋に住む夫婦が住む部屋で殺人事件が起きたというのだ。なぜかその部屋に見知らぬ老人がいて、さらに姿が見えず白い手袋だけ動き拳銃によって老人が撃ち殺されたというのだ!? あわててその部屋を訪れると、住人の夫婦が出て来て、別に何も起きてないと・・・・・・。これはいったいどういうことなのか・・・・・・
「空中の足跡」
ある夫人が殺された。容疑者は雪の上に往復の足跡がついていた靴の持主の女性。さらにその女性は元々夢遊病の気あって、自分がやっていないと確信できない。その女性の靴は小さいもので誰でもはけるというものではない。さらには、塀に足跡のようなものが一つ。この犯罪は如何なるものなのか?
「ホット・マネー」
町で起きた銀行強盗。犯人は捕まったものの現金の行方はわからず。そんなときある屋敷で秘書の女性が主人の部屋で盗まれたものと思われる現金を発見することに。主人に部屋から追い出された秘書はすぐに警察に連絡を。ただちに飛んできた警察は部屋に押し入ったものの現金は消えうせていた。秘書が部屋を見張っていたはずなのに、たちどころに消えうせてしまった現金の行方は?
「楽屋の死」
ナイト・クラブでの出来事。今まで踊っていたダンサーを訪ね楽屋に訪れてみると、そのダンサーは殺されていた。その少しの間で如何にして? 怪しいと思われる容疑者にはこの殺人は犯せないはずなのだが・・・・・・
「銀色のカーテン」
カジノでとある男に買収され、指定する男に指定した時間に会うようにと。そして指定時間に場所へと向かう途中。前方には依頼をしたはずの男が歩いていた。指定する男の家の側まで来たとき。突然、前を歩いていた男が崩れ落ちた。近寄ってみると首の後ろに短剣がささっていた。自分が後ろを歩いていたはずだのに、誰が? いったいどのようにして??
「暁の出来事」
皆が見ている前で、岩の上で一人の男が崩れ落ちた。自然死なのだろうか? 死因を調べてもらおうと警察を呼んだところ、放置しておいた死体は海に流されたと見え、消えうせてしまったのだ。この事件の裏に隠されたものとは?
「もう一人の絞刑吏」
死刑囚とその死刑執行人がめぐる、とある物語、あるいは完全犯罪!? 皆に憎まれている男の死刑が実行されようというさなか、真犯人が捕まり、死刑執行停止の命令が! そのとき・・・・・・
「二つの死」
ある実業家が休暇のために旅行に出かけたときから、おかしなことが実業家の身辺に起こり始めた。自分が行ったはずのないことまで行っていたことになっていたりと・・・・・・。これはドッペルゲンガーの仕業だとでもいうのか? さらには自分は自殺したはずなのではないかと・・・・・・
「目に見えぬ凶器」
その部屋で一晩過ごしたものは生きて出てくることがないという伝説が伝えられる部屋。そこで昔に起きた不可能犯罪に迫る。
「めくら頭巾」
ある屋敷の主人が出かけていた夜。友人達がその屋敷を通りかかったとき、明かりがついているのを見て、もしや泥棒では? と思い近づいてみると、どうやら早めに主人が帰ってきていたようであった。ちらっと見ただけで、彼らは引き返したのだがどうやら後から考えるとそれは屋敷の主人ではなかったようなのであった。次の日の朝、屋敷の夫人が死んでいるのが発見された。しかも焼かれたうえに、喉笛を掻きかられて・・・・・・
<内容>
「妖魔の森の家」 (The House in Goblin Wood 1947)
H・M卿は二人の男女から依頼を持ちかけられる。二十年前に起きた有名な失踪事件の謎を解いて欲しいのだと。二十年前にある森に建つ、閉ざされた一軒家から少女が失踪し、一週間後に突然部屋の中に舞い戻ってきたというのだ。
そして二十年後、その少女はいまでも生きており、H・M卿らの前で閉ざされた家の中からまた消失してしまう。H・M卿でさえも怯えさせる事件の結末とはいったい!?
「軽率だった夜盗」 (The Incaoutious Burglar
山荘の主人は莫大な値打ちの名画を所蔵しているのだが、そえを保険もかけずに、階下の庭に面した部屋にかけている。さらには警報装置も残らず取り除いたというのだ。しかし主人は密かに客の中に警官を張り込ませておいた。
そして夜盗に襲われ、皆が駆けつけてみると盗賊が殺されていた。黒装束をまとっている夜盗の正体を見届けてみると、なんとこの屋敷の主人であった!! 警察はこの事件をギディオン・フェル博士に依頼することに・・・・・・
「ある密室」 (The Locked Room 1943)
ある書籍収集家が自分の部屋で暴漢に襲われ、頭を強打された。隣室には秘書と図書係がいて、被害者の呻き声を聞きつけ、扉を破って入ったというのだ。外から誰か入りこんだ形跡は見当たらないし、二つの窓は外から開かない。容疑は当然、秘書と図書係にかかるのだが、生きていた被害者によって彼らの証言が事実であると・・・・・・
「赤いカツラのてがかり」 (The Clue of the Rde Wig 1948)
寒さの厳しい十二月の夜に裸同然の死体となって発見される女性。この事件をひとりのフランス人女性記者が担当することに!
「第三の銃弾」 (The Third Bullet 1947)
判事に刑の宣告を受けた青年が、刑期を終えてから、判事邸に押し入って射殺したという事件が起きた! 判事の末娘から警告を受けていた警部と部長刑事は、青年の姿を認めながら、ほんの少しばかりの差で部屋に入れず、銃声を聞いた。部屋に飛び込んでみるとすでに判事は倒れており、一発はその心臓に、他の一発は壁にめり込んでいる。しかも部屋の状況は密室で、青年と被害者とだけしかいないのだから、当然青年が犯人として捕らえられる。
しかし、青年の持っていたピストルからは一発しか発射されていないのだ。青年も一発撃ったことは認めたが、二発目は銃声を聞いただけで何も知らないといい、第二のピストルは犯行の部屋の花瓶の中から発見された。ところが密室の状態で青年の他に人のいたはずもなければ機械的発射装置もない。それどころか被害者を撃った弾丸は第三のピストルから発射されていたのだ。
<内容>
「パリから来た紳士」 (The Gentleman form Paris 1950)
フランスから長い航海を経て男はアメリカにたどり着く。彼はアメリカに住む老婦人を説得して、彼女の遺産を困窮るす実の娘に譲らせるためにやって来た。酒場で老婦人の家を訊き、訪れてみると、そこでは奇怪な出来事が!
老婦人宅では弁護士の力によって遺言状の書き換えがなされたのにその所在が知れなくなったというのだ。老婦人が一晩、書き換えた遺言状を手元に置いておきたいということであったのだが、その遺言状は消えうせ老婦人は全身麻痺に!! 老婦人はなんらかのヒントを皆に与えようと、一つのジェスチャーを繰り返すのであるが・・・・・・
フランスからやって来た男は失望して酒場に取って返すと、その片隅にひとりグラスを眺めている男がいた。その男に、ついこの奇怪な出来事を語ると・・・・・・
「見えぬ手の殺人」 (Invisible Hands 1958)
岬の岩近くの浜辺で発見された死体は絞殺されているのに浜辺に足跡が見つからない。海のほうから来るとすると、二十フィートの岩肌を登らなければならなく、人間業では不可能である。しかしフェル博士は殺人のあった時刻に射撃練習の音が聞こえたのを手がかりに・・・・・・
「ことわざ殺人事件」 (The Proverbial Murder 1943)
妻の密告によって、スパイと目されているドイツ人教授が、特別捜査班の監視している最中に銃によって撃たれて死ぬことに! その弾丸は隣人で教授とは犬猿の仲で知られる大佐のライフルから撃たれたものに違いない。フェル博士は山猫の剥製の紛失と大量にむしりとられた苔の話を持ち出して、この犯罪が巧妙に仕組まれたものである所以を解き明かす。
「とりちがえた問題」 (The Wrong Problem 1945)
フェル博士は偶然遭遇した白髪の小男から奇妙な回想を聞くことに。それは三十年前に、池の中の島そして屋根裏部屋で起こった密室殺人であった。それを聞いたフェル博士は・・・・・・
「外交官的な、あまりにも外交官的な」 (Strictly Diplomatic 1946)
安静療法の後に、美人スパイとひと騒動でも起こしたほうが健康によいと医者に勧められた弁護士がほんとうに一目で恋に陥ってしまった。ところが楽しい語らいのある日、相手の女性が消えうせてしまったのである。彼女は並木道を通り抜けたはずなのに、その出口に控えていた人は彼女の姿を見かけなかったという。この道を通り抜けなければ外に出るのは不可能なはずなのだが・・・・・・
「ウィリアム・ウィルソンの職業」 (William Wilson's Racket 1944)
最年少の大臣で名声鳴り響く少壮政治家の婚約者の伯爵令嬢が、マーチ大佐のもとに訴えてきた。婚約者がパーティーの席上失態を演じたばかりでなく、ある事務所で他の娘を膝に乗せている場面に出くわすことに! 彼に問いただそうと部屋から出てくるのを待ち受けていたのだが彼は姿を表さず、部屋に戻ってみると服や持ち物を一切残しながら体だけがビルの一室から消えてしまったのだ!!
「空部屋」 (The Empty Flat 1945)
深夜のマンションで静寂を震わせ続けるラジオの音。その騒音が仲介となり、それぞれ震源地を相手の部屋だと思っていたふたりが、顔を合わせてみると学問上のライバルであった。二人が調べてみるとその騒音は空き部屋から鳴り響くものでその部屋を探ってみると、そこには男の死体が・・・・・・
「黒いキャビネット」 (The Black Cabinet)
アメリカ人を父にイタリア人を母にして生まれたヒロインは、9歳のとき、母親らの企てたナポレオン三世の暗殺失敗を目の当たりにする。それから十年、周到な準備の後、暗殺実行に踏み切ろうとする寸前に邪魔が入った。刻々と迫る時間の前に、立ちはだかる正体不明の人物とは・・・・・・
「奇蹟を解く男」 (All in a Maze 1956)
結婚前にロンドン観光にやって来た女性の遭遇した危険と不可解な謎は、人のよい新聞記者の口添えがあってH・M卿の元に持ち込まれる。誰もいないはずの回廊から聞こえてくる死の予告。密閉された部屋でひねられているガスの栓。女性の身辺に次々と迫り来る魔の手。事件を聞きH・M卿が達した答えとは!?
<内容>
□奇跡を創り出した男
ジョン・ディクスン・カーについて ダグラス・G・グリーン
□犯罪と推理の物語
「死者を飲むかのように・・・・・・」
「山羊の影」
「第四の容疑者」
「正義の果て」
「四号車室の殺人」
□ラジオ・ドラマ
「B13号船室」
「絞首人は待ってくれない」
「幽霊射手」
「花嫁消失」
□最新の成果に基づくカー研究書 戸川安宣
<内容>
□ラジオ・ドラマ
「死を賭けるか?」
「あずまやの悪魔」
□超自然の謎の物語
「死んでいた男」
「死への扉」
「黒い塔の恐怖」
□シャーロック・ホームズ・パロディ
「コンク・シングルトン卿文書事件」
□エッセイ
「有り金残らず置いてゆけ!」
「地上最高のゲーム」
「ジョン・ディクスン・カー書誌」 ダグラス・G・グリーン編
「カー問答」 江戸川乱歩
<感想>
「黒い塔の恐怖」が一番カーらしい作品。密室に一人こもった状態で両目を失い死亡する、といったシュチュエーションが良い。ただし、小道具が出てきた瞬間ネタがわかってしまうのだが・・・・・・
あとは、参考資料といったところ。
<内容>
□「ディクスン・カーのラジオ・ミステリ」 ダグラス・G・グリーン
□ラジオ・ドラマ
「暗黒の一瞬」
「悪魔の使徒」
「プールのなかの竜」
「死者の眠りは浅い」
「死の四方位」
「ヴァンパイアの塔」
「悪魔の原稿」
「白虎の通路」
「亡者の家」
□短 編
「刑事の休日」
□「新カー問答」 松田道弘
<内容>
「グラン・ギニョール」 (Grand GuiGnol 1929)
アンリ・バンコランの登場する「夜歩く」の元になった作品。ラストの「夜歩く」とは異なった趣向によるバンコランの謎解きの一幕に注目。
「悪魔の銃」 (The Devil-Gun 1926)
カーが作家としてデビューする前に「ハヴァフォーディアン」誌に掲載された恐怖小説。
「薄闇の女神」 (The Dim Queen 1926)
若き日のカーを魅了したもう一つのタイプの小説、歴史ロマンス小説
「ハーレム・スカーレム」 (Harem-Scarem 1939)
カレッジ時代の作品プロットを焼きなおして作った作品。「新カンタベリー物語」のひとつ「柔らかな唇の伝説」を新聞小説に書き直したもの。
「地上最高のゲーム」 (The Grandest Game in the World 1991)
<内容>
初翻訳を含む、ラジオドラマ三本を収録。
「だれがマシュー・コービンを殺したか?」
「あずまやの悪魔(オリジナル版)」
「幻を追う男」
<感想>
カーの作品は長編、短編ともにほぼ翻訳しつくされたといってよいのであろう。そうしたなかで、あと未訳のものが残されているのは、この作品に掲載されているようなラジオドラマのみと言ってもよいのではないだろうか。カー・ファンとしては、残りのこういった未訳のものがどんどん発表される事を願うのみである。そしてできれば、最終的には「カー・ラジオドラマ大全集」みたいな本を作ってもらえればと思っている。
「だれがマシュー・コービンを殺したか?」
ジョンが婚約者をつれて久々に英国に戻ってきて、兄のマシューに会いに行ったところ、兄が鉄砲で撃たれる現場を目撃するというもの。4人の容疑者のうち、マシューを撃ち殺す事ができたのは誰か? 法廷場面とともに描かれた作品。
この作品でフェル博士は重要な証拠は“被害者のチョッキ”だと言い張り続ける。そして、本当にそのチョッキ自体が犯人特定の鍵となっている。また、ラジオドラマならではのサプライズも見物となっている作品。この作品のトリックに感心したのだが、実はカーのとある短編のなかでも使われているとのこと。全くおぼえていなかった。
「あずまやの悪魔(オリジナル版)」
バーナム大尉の妻、イザベルとその友人のブラウンが話をしているとき、バーナム大尉があずまやへと入っていくのが見えた。その後、あずまやで死体となったバーナム大尉が発見される!・・・・・・という内容の作品。
その場の状況をうまく利用した殺人犯の行動が描かれた作品。一見、不可能のように思わせて、実は・・・・・・というカーらしい作品と言えよう。
「幻を追う男」
オースティン大尉は戦時中に一度だけ会い、ミニチュアールをもらった娘のことが忘れられなかった。しかし、誰もその娘のことを知らず、信じてもらえない。オースティンは幻を見たのか・・・・・・しかし、手元には確かにミニチュアールが残されている。
という内容が示すように、本編は歴史ミステリーを描いた作品となっている。この作品はカーが後に何冊も書くこととなった“歴史ミステリー”のはしりといえるだろう。幻の女を求めてオースティン大尉が手掛かりを求めていこうとすると、さらにさまざまな謎が浮き上がってくるように描かれた作品となっている。読んでいるもの(厳密には聞いているものか)を飽きさせない展開の作品。