<内容>
サーストン家でパーティーが行われ、多くの人が集まっていたとき、サーストン医師の妻が殺される事件が起きる。しかも、ドアに鍵のかけられた2階の部屋、窓の外の花壇には足跡が残っていないという密室の状態で喉を切り裂かれて殺されていた。兇器の短剣は窓の外に投げ捨ててあった。
そして警察と三人の名探偵(貴族、しゃれた外国人、神父)が登場し、捜査を始めていく。隠されていたロープ、それぞれに秘められた数々の動機が尋問によって次々と明らかになってゆく。三人の名探偵たちのそれぞれの捜査と推理がもたらすものとは・・・・・・
<感想>
新樹社版で読んでいたのだが感想を書いていなかったので、扶桑社文庫版で改めて再読。何気に本書がレオ・ブルースのデビュー作であったりする。
この作品の目玉はなんといっても、三人の個性的な探偵が登場するところ。ただし、個性的といってもそれぞれがどこかで見たことのある探偵たち。実は、それぞれにモチーフがあり、ピーター・ウィムジイ卿、エルキュール・ポアロ、ブラウン神父という本格ミステリファンにはお馴染みの面々。
本書ではひとつの殺人事件が起き、その事件についてさまざまな捜査が行われることとなる。普通、ひとつしか事件が起きないのでは、全体的に退屈な展開になりがちであるが、本書では三人の探偵たちのそれぞれの探偵活動、そして考え方が表されているがゆえに、決して飽きることなく作品にのめり込むことができる。そして、最終的にはそれぞれの探偵たちの推理が披露され、思いもかけない幕引きが待ち受けている。
十分楽しめる本格推理小説であるのだが、どこか推理小説を皮肉ったパロディ的な作品という捉え方もできる。決してストレートとは言えない、事件に対する全体的なスタンスがそう感じさせる。いや、言い方を変えれば、普通の事件をあえて三人の名探偵のために脚色しているのだという感じか。何にせよ、面白い作品ではあるのだが、これはある程度推理小説を読み込んでいる人の方がより楽しめる作品といえよう。そんなわけで、ミステリ中級者向けの作品と言っておきたい。ちなみに、私が初読のときには、ポアロとブラウン神父は知っていたが、ピーター・ウィムジイ卿については未読であった。
<内容>
酒場にいたビーフ巡査部長の元に、一人の青年がやって来た。彼は人を殺してきたと言った後、その場で毒を飲んで自殺してしまう。ビーフ巡査部長は殺された者を探すため捜査を始めるが、それらしき人物は見当たらない。いったい殺されたのは誰なのか?
<感想>
感想を書いていなかったので再読。「三人の名探偵のための事件」に続き、ほぼ連続で読むことができた。「三人の〜」はビーフ巡査部長の最初の事件であり、本書が2つ目の事件となる。そして本書の語り手も前作に引き続き、小説家志望のタウンゼンド青年。
と、そんな感じでニュアンスとしては前作とほぼ同じ。今作では、酒場に入ってきた男が殺人を自白し、そして自殺を遂げるという場面が幕開けとなる。しかし、肝心の誰を殺したかという事がわからず、ビーフらは、死体の行方を延々と捜すこととなる。
前作と今作の違いと言えば、当然ながら前作における“三人の名探偵”がいないこと。代わりとしてスコットランドヤードのスチュート警部が登場するものの、さすがに名探偵3人の穴を埋めるのは無理。事件と言うか、捜査するべき事項が死体を探すという一点のみ故に、うまく場がつながれていないというような状況。さらに言えば、その死体捜索に関する場面も警察の捜査がずさんに見えてしまい、きっちりしていない警察小説というような印象が強かった。
まぁ、それでもあまり長い作品ではないので、それなりに読み進めることができる作品。とはいえ、もう少し事件を増やすなりして、味付けをしてもらいたかったと思えてならない。
<内容>
田舎町の巡査部長を退職し、私立探偵を開業したビーフ。物語の語り手であるタウンゼントにもっと事件を華々しく書くように注文しながらも、さっそくやってきた依頼に取り掛かる。
事件は巷を騒がせている「シデナム事件」。容疑者は糸杉荘の主人スチュアート・フェラーズで被害者はフェラーズ家の主治医のベンスン医師。ベンスン医師はスチュアートと会談をし、糸杉荘を後にしたはずなのだが、翌日の朝、糸杉荘の書斎で死体となって発見される。凶器は書斎の机に置かれていたナイフと見られ、それはスチュアートの物であった。スチュアートとベンスンの間に不和があったらしく、警察はスチュアートの犯行であるとみなし、逮捕したという。
スチュアートの弟のピーター・フェラーズは兄の無罪を立証して欲しいとビーフに依頼したのだ。しかし、ビーフが捜査するも調査は空回りするばかりで、奇妙な事実はみつかるもどれも事件に直接関係のなさそうなものばかり。ビーフ自身も歯切れが悪く調査は難航を示しているかのように・・・・・・。はたしてビーフは無罪を立証できるのか!?
<感想>
なんとなく、肩透かしをくらわされたような話である。結局読者もタウンゼント同様ビーフに翻弄されてしまうしかない。
ビーフの捜査も外堀を埋めてゆくかのような細かい調査が続き、それらが一つに組み合わさるのかと思いきや手掛かりなのか? レッドヘリングなのか? そうして華々しい結末を迎えるのかと思いきやあっさりすかされる! といった具合。
それでも当然最後にはある結末を用意しているのだが、うーん、まぁそんなとこか、というような話。結局ビーフはある人物のとって良かれと思ってこのような結末にしたのか? それともあくまで推理の段階でしかなく、証拠として立証することができなかったからこのような結末にしたのか? 最後までビーフは振り回してくれる。
<内容>
貴族の子弟を集めた名門パブリック・スクールで、校内ボクシング選手権の翌朝、勝者の青年が首吊り死体となって発見された。警察の調査では事件は自殺と見られていた。しかし、この判定に疑問を抱いたビーフ巡査部長は、早速車を飛ばして学校へと乗り込んだ。父親の侯爵の了解を得て捜査にかかったビーフだが、相棒の作家タウンゼンドの苛立ちをよそにパブ巡りや生徒相手のダーツの手ほどきに余念がない。調査が行き詰まりを見せ始めたそのとき、ロンドンのスラム街でまったく同じ首吊り事件が・・・・・・
<感想>
本作がビーフ巡査部長シリーズとして日本に紹介された最初の作品である。しかし、私は先に新樹社から出た三冊を読んだ後にこちらに取り掛かることになった。はっきりいって、この順番は正解だろう。本書が出版されたときはあまり評価が高くなかった気がする。これが、著作順に出ていたのなら読者の楽しみ方は、また違ったものになりえただろうに。
このシリーズで楽しいのはビーフの筆記者であるタウンゼントのビーフに対する描き方がやたら“くそみそ”なところであろう。崇拝のかけらもなく、やけにいつも評価が低い。例え事件を解決したとしてもだ! それが本書でずばり、タウンゼントの野望が書かれており、いつかビーフに先駆けて事件を解決するつもりのようである。そんな空回りぶりを大いに笑うことができる。
今回もユーモアたっぷりにビーフの愚劣きわまる行動(?)がタウンゼントによって描かれ、事件の調査が進められる。内容自体は地味である。二つの首吊り事件を解き明かすというもの。ロープとリングという言葉にもさほど意味があるわけではない。その調査の過程ではユーモアという部分を抜かせばいささか退屈ではある。そしてビーフによる解決へと導かれる。
とりあえず、本書では事件に対してある試みがなされている。それが事件の主題となっているといえよう。(しかしながら自分は解説によってそれを気づかされた)ただ、それもさほど華々しいというものではなく、地味な印象が強く感じられてしまう。とはいえ、このビーフ巡査部長シリーズの一端として楽しく読めることは請け合いである。