E. C. Bentley 作品別 内容・感想

トレント最後の事件   6点

1913年 出版
1972年09月 東京創元社 創元推理文庫
2017年02月 東京創元社 創元推理文庫<新訳>

<内容>
 イギリスにてアメリカ実業界の巨人と称されるシグズビー・マンダースンが殺害された。とかく敵が多い被害者であり、容疑者にはことかかないものの、銃殺された死体の状況にはやや不審な点も。画家にして名探偵と称されるフィリップ・トレントは雇い主である新聞社の依頼により事件を調査することに。しかしトレントは、容疑者の一人ともいえるマンダースンの妻に恋心を抱くこととなり・・・・・・

<感想>
 大昔に読んだ本が新訳で出版されたので再読。ミステリファンならば知っている人も多いであろう有名作品。著者のベントリーは長編はこの作品しか書いていない割には、日本ではそれなりに知られている。これも乱歩絶賛の紹介によるものなのであろう。

 富豪が射殺された事件の謎を画家である素人探偵が推理するというもの。ただ、その捜査の展開に変わったところがあり、それは当の探偵が最重要容疑者である被害者の夫人に恋をしてしまうというもの。これが斬新なミステリなのかどうかはわからないが、推理に支障が出るのでは? と思えてならないほど。読んでいる側とすると、女に探偵がたぶらかされただけと思えなくもない。

 それでもそこは名探偵と言われるだけあり、しっかりと犯人を推理し、きちんと自分の考えをまとめ上げる。その推理についてはそれなりによくできたもの。そして、それが実際の解決に結びつくのかどうか・・・・・・もう一山波乱があるのがこの作品のキモでもある。

 この作品でよく問われるのはフェアプレイと言えるのかどうか。まぁ、ちょっと怪しいような感じもするが、それよりも気になった点は、それぞれの容疑者が本当に犯行不可能なのかという点がきっちりとクリアされていないところ。これだけでは、どの人物にも犯行の機会があったように感じてならない。ただこの作品、どうもそういった緻密な推理をテーマとしたものではなく、劇的な物語を内包したミステリというものをやってみたかった、という感じで作られた作品のよう。なんとなくバークリー風の実験小説という印象が残る。名作かどうかはわからないが、ミステリ史に残る変わり種の作品という位置づけでよいような気がする。


トレント乗り出す   5.5点

2000年06月 国書刊行会 ミステリーの本棚

<内容>
 「ほんもののタバード」
 「絶妙のショット」
 「りこうな鸚鵡」
 「消えた弁護士」
 「逆らえなかった大尉」
 「安全なリフト」
 「時代遅れの悪党」
 「トレントと行儀の悪い犬」
 「名のある篤志家」
 「ちょっとしたミステリー」
 「隠遁貴族」
 「ありふれたヘアピン」

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<感想>
 感想を書いていなかったので再読。画家でもある素人探偵トレントが活躍する短編集。

 なかなか面白いと感じられる反面、どれも作品が短すぎるゆえに書き切れていないと感じられた。人物紹介とか、背景に関してはきっちりと書かれている割には、肝心のミステリ部分はあっさり目。物語をたどっているうちに話が解決してしまうというものもしばし見られた。

 もっともミステリ作品らしい「絶妙のショット」などは、面白い。ゴルフ場で謎の死を遂げた人物。彼はどのように死亡したのか? 晴天のなかで雷にでも撃たれたというのか? というような内容。本書のなかで最も本格ミステリらしい謎が提示されていると言えよう。

 詐欺師が表れたり、人が消えたり、人が入れ替わったり、脱獄囚の謎を追ったりと、魅力的な謎が数多く登場する。にもかかわらず、起承転結がしっかりしていないので、わかりにくかったり、あっさり終わってしまったりと、全体的に残念に思われる。それぞれの作品をきっちりと書いてもらえれば、もっと評価が上がったのではなかろうか。




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