この話はつくしがまだ英徳に入る前の話。当の本人つくしですら知らない話です・・・
「あ〜〜〜!!お金が足りない・・・つくしの入学金がこのくらいで制服代がこのくらいで生活費がこのくらい・・・と言う事は最低でもこのくらいは必要・・・・」
つくしのママがブツブツ独り言を言いながら電卓を叩いている。
「ママ、あたし別に英徳じゃなくて他の高校行ってもいいんだけど・・・」
最近毎日電卓をにらめっこしながらお金のやりくりで頭を悩ませているのを見ているつくしはどうしても英徳に入りたいと思っていた訳じゃなかったので少しでも負担が軽くなるのであれば他の高校に行ってもいいと思っていた。
「ダメよ!つくしあんたにはなんとしても英徳に入って金持ちのお坊ちゃんとお知り合いになって、そして恋に落ちて玉の輿に乗って貰うんだから!そして将来あたし達を楽させてちょうだい!」
力説しながら言うママにつくしが少しあきれた顔を見せた。
<この親は・・・・あたしを何だと思ってんの・・・・>
ヒクヒクとつくしが頬を引きつらせている。
「ちょっとつくし聞いてるの?」
軽く聞き流しているつくしに少しイライラした声を出しながらママが言う。
「ハイハイ。聞いてます。って言うかもう何回も聞いてるから耳にタコができそうだよ。」
フウ・・・と軽くため息をついてつくしは自分の部屋に戻った。
<もう1つバイト増やそうかな?>
自分がもう1つバイトを増やせば多少はママ達も楽になれるだろうなどと考えながらつくしは布団に潜り込んだ。
<明日求人誌でも買ってこよう>
そう思いながら瞳を閉じてみるがなかなか今日は寝付けない。
何度寝返りを打ってみても眠くならない。
「トイレでも行って来よう・・・」
ムクッと布団から起きあがりつくしがトイレに向かう。
居間の前を通り過ぎる時まだ中から電卓を叩きながらブツブツと言っている声が聞こえてくる。
<まだやってる・・・>
軽くため息をついた後つくしはトイレのドアを開けるとつくしはそのまま固まってしまった。
トイレのドアを開けるとそこにあるはずのトイレは無くどこかのお城のようなとても広い場所が目に入る。
そこには沢山の人々が忙しそうに歩き回っていた。
バタン・・・・
<何今の・・・?>
自分で見た光景が信じられなくてつくしは一度トイレのドアを閉めて少し考えた。
<あたし・・・起きてるよね?>
夢でも見ているのかと思い自分の頬を思い切りつねってみる。
「痛い・・・」
<痛みがある・・・と言う事はやっぱり夢じゃないのかな?じゃあさっきの光景は何なの?>
確かめようと思いもう一度ドアを開けてみるとやはりさっきと同じ光景が目に入る。
「何なの・・・・?これ・・・」
小さくつぶやいた後おそるおそるその中につくしは足を踏み入れた。
「うわ・・・すごい・・・」
つくしの目の前にはおとぎ話で読んだようなお城の中の風景が目に入る。
物珍しそうにつくしがキョロキョロと当たりを見渡しながら小さくつぶやいていた。
「つくしお姉様。」
声をかけられ振り向くと和也が目の前に立っている。
和也の服装はこれまたおとぎ話で見ていたような王子様の格好をしている。
「和也君どうしたの?何その格好?」
あまりにも不思議な格好につくしは目をまん丸くして目の前にいる和也に尋ねる。
「つくしお姉様何を言っているのですか?僕はいつもこの格好じゃないですか?」
和也がキョトンとした顔で答える。
「ちょ・・・ちょっと待って。あたしがいつ和也君のお姉さんになったって言うの?和也君とあたしは同い年でしょ?それに何か言葉遣いもいつもと違うんじゃ・・・」
「お姉様何を言ってるんですか?僕は弟の和也じゃないですか。お姉様どこか体の具合でも悪いんですか?お姉様こそいつもと何か違いますよ?」
和也が心配そうにつくしをのぞき込む。
その瞳は本当に心配している事がありありとわかり益々つくしの頭が混乱する。
<ちょっと・・・どういうこと・・・?和也君があたしの弟?嘘でしょ?あたしの弟は進よね?それに何で和也君はこんな格好して平然としてるの?何が何だかわかんない・・・>
「どうかしましたか?」
「進!」
声をかけた人物は自分の弟のはずの進だった。
「ちょっと進、これどういう事?和也君どこかおかしいの?和也君あたしの弟だって言うのよ・・・あたしの弟は進よね?それにここどこ?何であたしここにいるわけ?って言うかなんであんたスーツなんて着てるの?」
進の姿を見て少し安心したのかつくしは一気にまくし立てるように進に質問を浴びせる。
「姫、そんなに一度に聞かれてもどれから答えていいのか返答に困ります。少し落ち着いてください。」
「これが落ち着いていられるかって言うの!・・・・ん?ちょっと待って・・・・」
つくしが何かに気が付いて頭の中で今進に言われた事を繰り返してみる。
「ねえ今”姫”って言わなかった?」
「いいましたがそれがなにか?」
「どうしたのつくしお姉様、やっぱりどこか具合がお悪いのでは?」
進と和也が交互に言う。
「誰が姫だって?」
「何を突然・・・あなた様に決まってるじゃないですか。」
「あ・・・あ・・・・あたし〜〜〜〜??!!」
<なぬ〜〜〜〜〜??!!>
進の言葉につくしが言葉を失ったまま目を点にして口をパクパクさせている。
何かを言いたそうにはしているが上手く言葉が見つからない。
「姫、どうしたんです?その格好・・・そのような衣服をどこで手に入れたのですか?」
つくしはパジャマ姿でその場に立っていた。
それも無理のない事、つくしはついさっきまで布団の中に入っていてたまたまトイレに行ったらこの世界に足を踏み入れてしまっていたのだ。
「だってさっきまで布団に入っていたし・・・あ、そうだ。もう一度あの扉を開けば元に戻れるのかもしれない。」
つくしはドアを探して辺りをキョロキョロと見渡してみるがさっきまであったはずのドアはどこにもない。
「あれ?確かさっきここら辺に出たんだよね?」
最初に降り立った場所の辺りを探してみてもどこにもそれらしい物は見あたらない。
「つくしお姉様さっきから何をしているのですか?」
「ちょっと和也君黙ってて!」
無い・・・無い・・・とブツブツ言いながらつくしがあちこちを探して忙しそうにパタパタ動き回っている。
「もしかして・・・・?」
パタパタと動き回っているつくしを見ながら何かを考えていた進が少し眉をひそめてつぶやいた。
「和也様どうやら姫は少し具合が悪いようです。私が姫をお部屋にお運び致しますので和也様もお部屋に戻られてください。そろそろクスリを飲む時間ではありませんか?あまり起きていらっしゃると体に触りますよ。」
ニコッと笑って和也に進が言うと和也は素直に「うん・・・」と言って自分の部屋へと戻っていった。
「姫、ちょっとお話が・・・・こちらへ居らっしゃていただけますか?」
「へ?」
つくしが声をかけられて間抜けな声を出す。
「くっくっく・・・すみません。・・・そのような格好でこの辺をうろうろされても困ります。それに少し聞きたい事がありますのでどうぞこちらへ。」
進はさりげなくつくしに自分が羽織っていたジャケットを脱いで羽織らせるとつくしをある部屋へと連れて行った。
「どうぞお入り下さい。」
大きな扉のある部屋の前まで行くと進が部屋のドアを開けてつくしを中に入れる。
部屋の中には高そうな家具が並んでいて大きなベットもある。
「すごい・・・・」
つくしがキョロキョロと部屋の中を見渡していると進がクローゼットの中から1枚のドレスを持ってくる。
「どうぞこちらにお着替えになって下さい。」
進に手渡されたドレスはシンプルではあったけどとても手触りのいいドレスだった。
「あの・・・・」
「いつまでもそのような格好をしてこの屋敷の中をうろうろされても困ります。どうぞあちらでお着替えをしてきて下さい。その後少し聞きたい事がありますので・・」
軽く頭を下げる進にどうも調子来るうなと思いながらも仕方なくドレスに着替えをして戻ってきた。
「着替えてきたけど・・・」
「良くお似合いです。」
つくしの姿を見て進が軽く笑顔を見せる。
「さて、貴方はどこからいらしたのですか?」
「どこからって言われても・・・」
真面目な顔で進に聞かれてつくしが少し戸惑う。
「トイレに行こうと思ってトイレのドアを開けたらここに来ちゃって・・・どこからって聞かれても困るんだよね。それこそここはどこなの?何なのいったい?」
「ここは惑星アルゲイドです。」
「は?惑星アルゲイド・・・?何それ?聞いたこと無い・・・・」
聞いたことのない惑星の名前につくしが面食らった顔をする。
「貴方のお名前をお聞かせ願えますか?」
「つくし。あたしの名前は牧野つくし。」
「牧野つくし・・・?」
フルネームを聞いて進が少し驚いた顔をした後しげしげとつくしをなめるように見つめる。
「な・・・・何見てんのよ・・・」
「いや、これは失礼致しました。私どもの惑星の姫の名前も牧野つくしという名前で貴方と同じ顔をしているのです。そうして姫のドレスを身にまとっている姿を見ていると別人とはとても思えないくらいそっくりなのです。」
「はぁ・・・・」
つくしが気のない返事をするが進はかまわず話し続ける。
「どうやら貴方は異世界から間違ってこの世界に来てしまったみたいです・・・姿形はそっくりでもやはり気品が違います。我らの姫様とは。」
<ほっといてよね・・・>
フン!とつくしが軽くむくれる。
「私たちは貴方とは初めてあったはずなのになぜ貴方は私たちの名前を知っているのですか?」
「なぜって言われても・・・あたしの弟の名前は進。貴方とそっくり瓜二つ。和也君は私と同い年の友達・・・顔もそっくり。だから最初あの人のことを和也君だと思った氏貴方のことを弟の進だと思った。それなのに最初和也君にそっくりなあの人に弟って言われた時かなり面食らったし、進と同じ顔した貴方に姫と言われた時も驚いた。そしてここのお城のような建物とこのドレス。貴方の話・・・今あたしの頭の中グルグルで上手く整理が出来ないんだけど・・・」
いくら頭の中を整理してみようと思ってもあまりにも違いすぎる世界と弟と同じ顔した男に姫よわばりされ、友達と同じ顔した男にはお姉様と呼ばれる。どう考えても夢の中にいる気分だった。
「なるほど・・・・でもどうして貴方がこの世界に入ってきてしまったのか・・・・」
「それはあたしが一番聞きたいわよ!どうやったら帰れるの?ここに入ってきた時のドアはなくなっちゃってるし・・・あたし帰れるんでしょうね?」
軽く腕を組んで考え込んでいる進につくしが問いただすが進はつくしの話を流すように聞きながら何やら考え込んだ後「あ・・・もしかして・・・」とつぶやいた。
「姫・・・・ではなくてつくしさんでしたね?ちょっとこちらへ来ていただけますか?」
「え?はぁ〜・・・」
進の後をつくしは付いて歩き部屋を出た。大きな城の中を曲がりくねりながら地下にある1つの部屋の前に二人が立つ。
「ここです。」
「ここに何が?」
つくしに少し苦笑した後進はその部屋のドアに手をかける。ドアはギィ・・・という音を立ててゆっくりと開いた。
「こちらへ・・・」
進に促されるままにつくしはその部屋の中へと踏み入れた。
部屋の中は何やらものすごい装置があちこちにあり試験管やらビーカーなども並んでいる。どうやら何かの実験に使っている部屋のようだった。
「滋博士、いらっしゃいますか?」
進が大きな声で滋を呼ぶ遠くの方から「はぁ〜い」という女の人の声が聞こえる。
「はいはい。滋ちゃんだよ〜。何か用?」
<うわ。かわいい人・・・あたしとほとんど年かわんないんじゃない?この人が博士??>
白衣を身にまとった女の人が奥の方から元気良く出てきた。その滋博士と呼ばれた女の人はつくしとほとんど変わらない年齢のように見える。
「あ、姫様。」
つくしの姿を見つけると滋が慌ててつくしに向かって頭を下げる。
「あの・・・あたしは姫じゃないんで・・・」
「え?姫様何をおっしゃってるんですか?」
つくしの言葉に滋が不思議そうな顔をする。
「彼女は姫ではありません。滋博士。実はその件でこちらに来たのです。」
「姫じゃない・・・?」
進に言われて滋がまじまじとつくしを見つめるが滋の目にはどこをどう見ても自分が知っている姫にしか見えない。
「あたしは牧野つくし、どうやらこの世界に間違って来ちゃったみたいで・・・どうやってここに来たのかどうやって帰れるのかわからない。」
「異世界から・・・?」
「どうやら信じられませんがそのようなのです。そこで滋博士なら何とかできるのではないかと思ってきてみたのですが・・・」
軽く腕組みをしながら難しい顔で何やら考えている滋に進が尋ねる。
「もしかして・・・・」
滋が何かに気が付いたように慌てて研究室の中の続き部屋になっているドアを開ける。
「やっぱり・・・・」
扉を開けて何かを確信したように滋は立ちすくんでいた。
いったい何があったのだろうとつくしと進は滋の後から部屋の中をのぞき込む。
「これは・・・・・」
部屋の中を見て進も驚いた顔をして滋を見つめる。滋は進に何も言わずにコクンとうなずいた。
「何?どうしたの?」
一人理解出来ないで居るつくしが居た。
「姫・・・じゃなくってえっと・・・なんて呼んだらいいのかな?」
目の前にいる姫そっくりの女性をなんて呼んでいいのかわからず滋が少し戸惑う。
「つくしでいい。何?」
「じゃあ、つくし。貴方がどうしてここに来たのかその理由がわかった。」
「本当?」
パァ〜っとつくしの顔が明るくなるが、それとは逆に滋と進の顔は何やら難しい顔をしたままだった。
「つくし、これが何だかわかる?」
滋に連れられてその部屋にはいると中には物々しい装置とガラスケースに入ったブレスレットが目に入る。
「ブレスレット・・・?」
それがなんなのだろうと言う顔をしながらつくしがつぶやくと滋がつくしにわかりやすいように説明を始めた。
「これは亜空間ブレスレット。空間をねじ曲げていろんな場所へ行き来出来るようになっているの。まだ試作品段階なんだけどね・・・」
「へぇ〜・・・これが?あたしにはただのブレスレットにしか見えないけど?」
ガラスケースに入ったブレスレットを眺めながらつくしがつぶやく。
「それがどうしたの?」
「ブレスレットのここを見て。」
滋に言われたところを見てみるとブレスレットにはめ込まれている宝石のような物が赤くチカチカと光っている。
「まだ試作段階のこの亜空間ブレスレットが何かのはずみで発動してしまったみたい。これが発動した時に空間にひずみが生じてつくしがこっちに来たって言うこと。」
「へぇ〜。じゃあこれがあればあたしすぐに元の世界に戻れるんでしょ?じゃあ早く戻してよ。」
「それが・・・」
言葉を詰まらせる滋の変わりに今度は進が口を開いた。
「そう簡単には出来ないのです。」
「なんで?だってこれがあれば空間をねじ曲げていろんな所に行けるんでしょ?だったらすぐに帰れるんじゃないの?」
「姫そっくりの貴方がここにいると言うことはこちらの姫様がどこか他の場所にこの亜空間ブレスレットによって飛ばされたと言うことになるのです。こちらの姫様を見つけだし、貴方と姫とを両方いっぺんに移動させなければ貴方は元の世界に戻ることは出来ないのです。」
「じゃあ早くやってよ!」
「そんな簡単には出来ないんだよ。つくし・・・姫がどこに飛ばされたかを探し出すのはとても難しいの。早くても1ヶ月・・・・」
「そんなに・・・・?」
滋の言葉につくしは頭を思い切りハンマーで殴られたような衝動に駆られる。
「でもちゃんと探し出してつくしを元の世界に戻してあげるから心配しないで。」
「だって・・・あたしもうすぐ高校の入学式もあるし・・・そんなに長い時間家を空けてたらパパとママも進も心配する・・・どうしよう・・・」
「それは大丈夫。つくしを元の世界に戻す時にはちゃんと来た時と同じ時間に帰れるように戻してあげるから。」
ニコッと笑う滋の笑顔につくしは少しホッとする。
「ただ問題が・・・・」
そう言って滋が進に何か言いたげな視線を投げると滋が軽くうなずく。
「それに関しては私が言っておきます。とにかく滋博士は姫様を捜し出してください。お願いしますよ。」
「わかった。」
<問題・・・?何だろう?>
そう思いながらもつくしは滋に「お願いね」とだけ言って進と一緒に滋の居る部屋を出た。
「えっと・・・・進さんって言えばいいのかしら・・・?」
「進で結構です。今この世界にはつくし姫がおりません、貴方のことはこちらにいる間姫と呼ばせて頂きますのでご了承を。」
「は・・・はぁ・・・・」
<姫・・・ねぇ・・・・何か変な感じ・・・・>
自分が姫と呼ばれることに抵抗を感じながらつくしは進に生返事を返した。
「進、さっき問題があるって滋さん言ってたけどアレはどういう意味?」
「そうですね・・・とりあえず城下に行ってみませんか?貴方がこれからしばらく滞在しなければならない世界のことを知っておいた方がいいでしょう。」
進に言われるがままつくしは進と一緒に城下に出る。
城下は城の中にいる人達とは違いとても貧しい身なりをしている。
それでもあちこちから聞こえる商人の声や子供達の笑い声は明るかった。
「どうです?驚きましたか?」
「え?あ・・・ちょっと・・・お城の中の人達とは着る物がずいぶん違うなって思って・・・でもみんなとても楽しそう。」
「そうなんです。今この町は財政的にとても厳しい状況なのです。この国の王様とお后様が亡くなられてからというもの豊かだった町はドンドン寂れていく一方・・・本来であれば王位継承者である和也様がこの国をもり立てていかなければならないのですがなにぶんあのようにちょっと頼りないというか・・・」
そこまで言って進は軽く苦笑をする。
「確かにあんまり頼りになるようには見えなかったもんね。」
和也の姿を思い出してつくしも苦笑する。
「つくし姫があれこれと頑張ってくれていたおかげで何とか今まで持ちこたえてきました。ですがもう限界で・・・これ以上もうつくし姫の力ではどうにもならない所までこの町は来てしまったのです。そんな時姫に結婚の話が持ち上がったのです。王様達がまだ生きていらしゃった時に姫が16になったら結婚させようとダリアの王様と話し合っていられたようで・・・」
「結婚・・・?」
「そうです。この星には大きな国が4つあります。その内の一つダリアという町です。この町の隣にあります。私は反対をしたのですが姫はこの町の人の笑顔を守りたいからと言って結婚を承諾しました。」
「そんな・・・」
<町の人々を守るために好きでもない人と結婚だなんて・・・そんなのかわいそうすぎる・・・・>
「今この町を救うにはダリアの王子と結婚する以外無いのです・・・姫はしばらく悩んだ後この町の人達の笑顔を守りたいからと言って結婚を承諾されました。」
<そんなの・・・そんなのってないよ・・・>
つくしの大きな瞳からポロポロと次々に流れ出る涙を見て進が驚く。
「なぜ貴方が泣かれるのですか?」
「だって・・・かわいそうすぎる。結婚って好きな人とするもんでしょ?良く知りもしない人との結婚なんてあたしには出来ない・・・」
「貴方はとてもお優しい人だ・・・そう言うところは我らの姫と同じですね。」
つくしにそっとハンカチを差し出した後優しく進が微笑んだ。
「実はさっき問題があると言いましたよね?」
「え?あ、そう言えば・・・」
「実は今夜隣のダリアでパーティーが行われます。その時に姫とダリアの王子”類様”と顔見せすると言うことになっているのです。」
つくしはふ〜んと他人事のように進の話を聞いていた。
「そこで貴方にお願いがあるのです。どうか姫の代わりにそのパーティーに出席していただけないでしょうか?」
「え?何であたし??」
進の突然の申し出につくしの瞳を大きく見開いて驚いていた。
「先ほども言ったようにここはとても大変な状態です。そしてこれからの行く末を決める大事な今日という日に我らが姫はこの世界におりません。幸い貴方はつくし姫にそっくりだ。ぶしつけなお願いだとはわかっていますが今私どもが今頼れるのは貴方だけなのです。どうかお願い致します。」
つくしに向かって深々と頭を下げる進を見てつくしはどうしていいのか困ってしまった。
ここがとても貧しいと言うことは城下の人々を見ていればよくわかる。
それでも明るく笑顔で賢明に生きている人達の笑顔を消したくないと言った自分とそっくりな姫の気持ちもよくわかる。
だがそんな大役が果たして自分に出来るのだろうか?そう思うと不安で仕方がない。
「あの・・・・」
いつまでも頭を上げない進に戸惑いながらつくしが進に声をかけた。
「やはり・・・・無理・・・ですか?」
苦しそうに瞳を曇らせる進の姿が自分の弟の姿と重なって見える。
目の前で苦い顔をしてどうしていいのか悩んでいる進を見てつくしはキッと顔を引き締めた。
「どこまで出来るかわからないけど・・・あたしで良ければ・・・」
「本当ですか?」
つくしの言葉に進がパァ〜っと明るい顔になる。
「でも言っておくけどあたしはあなた達の姫じゃないから堅苦しい言葉遣いも、気品あふれる仕草とかテーブルマナーとかいっさいわからない。それでもいい?」
「それはお任せ下さい。今すぐ城に戻りパーティーが始まるまでにある程度お教えしますので。そうと決まれば急いで城に戻りましょう!」
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