どうせいじ)の病院で密室殺人が起こる。唯一の目撃者は透明人間だった!?すべてを一瞬 にして理解し、把握し、思考する才能に群がる多くの人々。それを遥かに超えて四季は駆け抜 けていく。其志雄は孤独な天才を守ることが出来るのか!?四部作第一幕!!
予感はあった。
否、今にして思うと、である。そのときはただ、夢中で読んで酔いしれ思考させられる
のみだったが(しかし結果的にはまんまと「だまされた」、わけだが)、記憶に残って いる「おや?」と思ったフレーズをいくつか列挙すると確かにひとつの結論に至る。例 えば、「百人の森博嗣」というタイトルの著書で、氏は特別企画(?)のVシリーズ のあとがきを載せている。その「夢・出逢い・魔性」のあとがきの中で、
「この作品の中で、紅子は自分のイニシャルがV.Cだという。Vシリーズと呼ば
れているのはこのためだ。ローマ字は日本のルールであるが、固有名詞の場合、 スペルを決めるのは個人の自由のはず。また、もちろん、後続の作品の伏線にな っている。二十一世紀の今であれば、紅子はC.Vと、姓を前にしただろう」
一読して「あれ?」と思った。また、「月は幽咽のデバイス」では紅子がコンデンサ
を破裂させ、どうしてこうも上手くいかないのだ?と嘆いている。科学者の描写として はOKかもしれないが、このときは確か「あの紅子が?」などと思った。まぁ、ネタば れもいいところなのでこれくらいで控えておこう。
森博嗣(もりひろし)作品において超重要キャラである真賀田四季の物語。今作で
はその幼少時代を描いている。ジャンルとしては一応ミステリィなのだろうが、密室の 仕掛けについては早々に暴いている。というか主人公が四季なのだから当たり前とい えば当たり前で、一応引っ張ってはみているものの、やはり密室ごときで時間を割いて は天才の名が廃るというものだ(なんだそりゃ)。トリックや犯人の意外性重視の本格 マニアは根強いが、森作品を読んできている読者は読むポイントを心得ているはずだ。 要するに「ポイントなどない」ということがポイントなのだ。森作品を通じてそれを学 んだ方も多いのではないだろうか。
主要人物は四季と栗本其志雄であるが、最後に四季が一回だけ叫んでいる。それまで
読者は棋士雄の「僕」という視点からか、あるいは本の外側にいる人間、あくまで天才 である四季自身の感情へは移入できないことになっていたが、この一箇所だけ移入が許 されている「人間らしい」貴重なところである。この後「夏」「秋」「冬」と彼女は変 わり、物語りは続いていくが、どうなって行くのか。期待を胸に待ち焦がれるとしよ う。
衝撃☆☆☆☆☆
独創☆☆☆☆☆
洗練☆☆☆☆☆
感性☆☆☆☆☆
残留☆☆☆☆☆
(ただし評価は森作品S&M、Vシリーズを読破した場合)
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