アリスからの視点と犯人からの視点と、交互に語られているのが新鮮。犯人視点でのあの終わり方も、さすが有栖川先生といった感じです。
 残念ながらアリスと火村が直接会って話している場面は少ないですが、二人らしいテンポのよい会話で、思わずニヤニヤと微笑んでしまう(それは微笑みではない)箇所が多かった。
 今回は『カレーパン』登場。火村シリーズにはまってからというもの、カレーを食する回数が増えたのは私だけ?
比類のない神々しいような瞬間
テキスト:『本格ミステリ03』('03.6 講談社)/
     『白い兎が逃げる』(’03.11 光文社)
「十歳違うぐらいがどうした。愛があれば、それしきの齢の差は—」
「似合わん台詞を吐くな」本人も笑っている。 (P251/P124)
そうそう。齢の差なんて、アリスと火村の障害に比べたら他愛もないこと。(いや、障害なんてないか)
P256/P129ではアリスも『愛があれば齢の差なんて、やな』と、念押ししてるし。 アリスに突っ込まれて笑う助教授が可愛いっす。
「持つべきものはクリスマス・イヴの予定もない孤独な友人だ」 (P252/P125)
 火村はシャツの一番上のボタンをはずし、天井に向かって吐息をついた。
「暖房が効きすぎるか?」
「いや、このままでいい」 (P257/P129) 
ちょっとびっくりした。有栖川先生、狙ってます? 前触れもなくボタン外しだすんだもの。(前触れがあったほうが驚くわ) こっちにも心の準備ってものが必要です。「このままでいい」ってあんた、…挑発?
 「もう年内は顔を会わすことがないかもしれないな」
 「その面を見るのも今世紀はこれが最後か。—いい年を」
 「ああ、来世紀もよろしく頼む」 (P260/P133)
えぇ〜!! 助教授、もう帰っちゃうの〜!? しかも今世紀最後って…。 いや、読者を欺くための芝居だね、これは。大晦日にはアリスが京都に行ってます。そして祇園さんに初詣!(断言。しかし助教授は無神論者では?)
 いや、とすぐに打ち消す。
 私が自らに禁じているのは、現実を材料にすることではない。虚構を構築するのに人の力を借りるな、ということだったではないか。火村がはずした推理を拾ってどうする。そんなものは犬に食わせてしまえ。 (P268/P142)
夫婦喧嘩は犬も食わんが、火村がはずした推理は食うのか? それくらいしか犬に食わせるものはないのか?
 あれは食えない男だ。落ち着いた紳士的な物腰をしていたが、それが信用できない。知性で獣性を隠しているような危険な気配がある。犯罪学者という道を選んだのは、犯罪の魔力に魅了されているからではないのか?裏がありそうで、友だちにはなりたくない。 (P285/P159)
 すごいじゃないか、金城直哉。第一印象でそこまで見抜くとは。犯罪の魔力に魅了されているのとはちょっと違うと思うが、裏は大アリだ。食えない男だが、彼がはずした推理は犬が食うぞ。(←しつこい)『若白髪が似合う渋い学者』ってちょっと格好良すぎじゃないかぁ?  友だちがいないこともばれてますよ、助教授。
え?連絡はなくとも、火村が来ることはわかってたから予定も入れなかったんじゃないの?いつものことじゃないの?
なんだかんだ言って、毎年クリスマス・イヴを一緒に過ごす2人。(『46番目〜』『切り裂きジャック〜』)