むかし、むかしあるところに、とあるおじいさんとおばあさんが住んでおりました。
ある日の朝のこと、おじいさんはいつものように山へ芝刈りに、
そしておばあさんもいつものように川へ洗濯にと出かけて行きました。
ところがこの日はいつもと同じという訳にはいきませんでした。
おじいさんは芝刈りに出かけた山の中で、一本の光り輝く若木を見つけたのです。
そんな物は今まで見たことがなかったおじいさんですが、
何かに惹かれるように恐る恐る近づいてみました。
するとその若木から赤子の泣き声が聞こえてくるではありませんか。
驚いたおじいさんはその若木に鉈を振り下ろしました。
じつはこの夫婦、みなが感心するほどの善良な働き者で、
誰からも恨まれるようなこともなく、平穏に暮らしてきたのですが、
なぜか子供にだけは恵まれることがなかったのです。
無我夢中で振り下ろした鉈の先で、若木は"パカッ"と真っ二つに割れ、
そして中から可愛くなく男の赤ちゃんが出てきました。
「おおっ!これは天からの授かりものに違いない」
驚きながらもおじいさんは嬉しくて仕方がありません。
「よし、若木から生まれた『若太郎』と名付けよう」
勝手に決めてしまったおじいさんは「若太郎」を家へ連れて帰ることにしました。
おじいさんが「若太郎」を抱えてうちへ帰ってくると、
そわそわしながらおばあさんが今か今かとおじいさんの帰りを待っていました。
おじいさんを見つけたおばあさんは、慌てて駆け寄ると一気にしゃべり出しました。
「洗濯で川がモモからドンブラコ、ドンブラコ!!!」 「?」
「女の子がパカッと割れて、あたしゃ元気に腰抜けた。あ〜コリャ、コリャ!!!」 「???」
何を言っているのか訳が分からなかったおじいさんでしたが、
おばあさんの腕に抱えられた元気そうな女の子を見てすべてを察しました。
一気に捲し立てて、ようやく落ち着きを取り戻したおばあさんは、
その時になって初めておじいさんの腕に抱えられた可愛い男の子に気がつきました。
「あんた、その子どうした?さらって来たんか?」
自分のことを棚に上げて無茶苦茶なことを言うおばあさんに、
おじいさんは事の次第を落ち着いて話しました。
「じゃあなにかい、いっぺんに男のこと女の子、ふたりの子を授かったということかえ?」
「そういうことになるのう」 「何とまあ、めでたいことじゃろ」
「そりゃ、喜ばしいことじゃが・・・」 「・・・・・・」
「こまったことになったのう・・・」
若い頃ならいざ知らず、今の二人には、とてもふたりの子を育てていくだけの余裕はありません。
しかし、いまの年となってもなお願いつづけた子が目の前にいるのです。
「どうしたらよいかのう、ばあさんや」 「育てましょ」
「ふたりも育てられるかのう、ばあさんや」 「あたしの乳はもう出んよ」
「そんなことは知っとる。ひとりならどうかのう、ばあさんや」
「ひとりって、モモちゃんかえ?」 「モモちゃん?」
「桃から生まれたモモちゃんだべさ」 「もう名前まで付けてしもうたか・・・」
「で?モモちゃんかえ?」 「でも、それじゃあ若太郎がかわいそうだ」
「若太郎って?」 「若木から生まれた若太郎じゃよ」
「なんと安直な!そこに愛はあるのかい?」 「・・・・・・・・・」
はて、さて、どうしたものか・・・。
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