むかし、ある人が遠くのある町から家へ帰る途中、ある知らない商人と道連れになった。
この人が自宅前に来ると、道連れの商人に、
「家に入って、少し休んで行って下さい」と招いた。
「そうしょう」と、商人は遠慮せずに言って、馬から下りた。
だが、この商人は、家に入ったまま数日間もお客になった。家主は何事もないように充分世話した。
商人が帰る前に、
「ありがとう。いい知り合いになった。私はこの路をいつも通過してるんで、心配ご無用。これからは度々来ますよ」と言った。
あれから、数日経って、商人がまた来た。
家主は走って来ると、馬の手綱を受け取って、またうやうやしく家に招いた。今度は、商人は一週間、お客になった。
子沢山でお金がない家主は、また知られないようにして、食べ物を借りに近所を走り回った。
そうやって、この商人は一ヶ月に二、三度来るようになった。
家主は少しずつこのお客が嫌になった。しかし、来るなとは言えないので、悶々としていて、以前のように走って来てはうやうやしく持てなししなくなった。
ある日、商人がまた来た。
家主は一つ溜息ついて、
「家に入って下さい」と言った。
しかし、馬の手綱は受け取らなかった。
商人は馬から下りて、
「馬をどこにつなごうか」とたずねた。
家主は頭に来て、
「どこにつなごうかというのですか。家に入って下さいというのは、舌(※言葉)のあやなんですよ」と言った。
『馬をどこにつなごうかと問えば、舌につなげ』という諺はこれから出た。