オグズナーマ

江上鶴也訳『ウイグル民話集』より

ある日、アイハンが男の子を産んだ。この子の顔は青く、口は火のように紅く、目は赤く、髪と眉は黒かった。天女のように美しかった。この男の子は母親の母乳を吸うと二度と吸わなかった。生肉や飯や酒を欲しがった。話し始めた。四十日後、大きく成長し、歩き、遊んだ。足は雄牛の足、腰は狼の腰、肩は黒豹の肩、胸は熊の胸のようだった。全身は毛で覆われていた。馬を飼い、馬にまたがり、狩りをした。幾日が暮れ、幾夜が明け、若者に成長した。

その頃、この地方に大きな森、多くの川があり、また鳥獣がたくさんいた。この森に一頭、大きな一角獣がいた。それは、家畜や人を食った。とても凶暴な野獣であった。それは、人々をとても苦しめた。オグズは勇士であった。その野獣を退治しようと思った。

ある日、狩りに出た。矛を弓矢を剣を、また盾を持ち馬にまたがった。鹿を一頭仕留めた。鹿を柳の枝で木に縛り、去った。翌日、夜が明け来てみると、野獣は鹿を奪い去っていた。また狩りをして、熊を仕留めた。熊を金のベルトで木に縛り、去った。翌日、夜が明け来てみると、野獣は熊を奪い去っていた。オグズがその木の根本にいると、野獣が来て、角をオグズの盾にぶっつけた。オグズは矛で野獣の頭を斬りつけ殺した。そして、剣で頭を切り取り、去った。再びオグズが来てみれば、ハヤブサが野獣の内蔵を食っていた。オグズは弓矢でハヤブサを射殺した。そして、頭を切って言った。

「見よ。このハヤブサの姿を。野獣は鹿と熊を食った。鉄のように堅くても、私の矛が野獣を殺した。ハヤブサは野獣を食った。風のように速くても、私の矢がハヤブサを射殺した」と、オグズはそう言い去った。

これが一角獣の姿である。 = 絵 =

ある日、オグズが天に祈っていると、辺りが真っ暗になり、突然、天から青い光が降り注いだ。その光は、太陽より輝き、月より明るかった。オグズがその光の側に近寄ってみると、青い光の中に娘が一人座っていた。とても美しい娘であった。額に火のように光った痣があり、まるで、北極星のようであった。娘はそれほど美しいので、娘が笑えば、天も笑うのであった。娘が泣けば、天も泣くのであった。オグズは娘を見て全身が震え、我をなくした。娘を好きになり娶った。一緒に暮らした。願いがかなった。娘は身ごもった。日が経ち、夜が明けた。娘は出産した。男の子三人を産んだ。一番上をキュン(太陽)、真ん中をアイ(月)、末っ子をユルドゥズ(星)と名付けた。

ある日、またオグズは狩りに出た。目の前にある湖の中に木の茂みを見た。木の穴に娘が一人座っていた。とても美しい娘であった。目は空よりも青く、髪は流水の如く、歯は真珠のようであった。娘はそんなに美しいので、人々が娘を見ると、

「うわーうわー、命を奪われるぞ」と言い合った。

牛乳はクミーズ(乳酒)に変わるのであった。オグズは娘を見て心に火が着き、我をなくした。娘を好きになり、娶った。一緒に暮らした。願いがかなった。娘は身ごもった。日が経ち、夜が明けた。娘は出産した。男の子三人を産んだ。一番上をキョク(空)、真ん中をタグ(山)、末っ子をテンギズ(海)と名付けた。

オグズは大宴会を開いた。人々を招いた。人々は参加した。四十の卓と四十の椅子を作らせた。人々はいろんなものを食べ飲んだ。

宴会の後、オグズは諸官、人々に、

朕は皆のカーン(王)である

弓矢と盾を持て

族紋は我々の紋章となれ

蒼き狼は先祖となれ

鉄矛は森林の如くなれ

狩り場で馬を走らせろ

河川を流れさせろ

太陽は旗になれ

天は天幕地になれ

オグズカーンは方々に勅命を出した。詔書を書いて、使者を送った。

詔書にはこうあった。

『朕はウイグルのカーンであり、全世界の王である。汝等が朕に帰順することを望む。朕に従えば、贈り物を与え、友となろう。朕に従わねば、怒りを持って大軍を率いて討ち、敵となろう。兵達はことごとく滅するであろう』

その頃、右方にアルトゥンカーンという王がいた。アルトゥンカーンはオグズカーンに使者を送って来て、たくさんの金、銀、宝石を献上し、オグズカーンに帰順を示した。オグズカーンとアルトゥンカーンは友人になった。

左方にウルム(ローマ)という王がいた。ウルムカーンはオグズカーンの詔書を受理しなかった。オグズカーンを朝貢しに来なかった。

「この詔書を受理しない」と言って、勅命に従わなかった。

このことで、オグズカーンは怒り、ウルムカーンに兵を向ける準備をした。旗を揚げ、兵を率いて出発した。四十日後、ムズタグアタという山の麓に着いた。天幕を張って、静かに眠った。夜が明けると、オグズカーンの天幕に、太陽光のような光が射した。その光の中から、蒼い毛、蒼いたてがみの大きな雄狼が現れた。

その狼はオグズカーンにこう言った。

「おい、オグズ。お前、ウルムを討つなら、おれが先導してやろう」

オグズカーンは天幕をたたみ、馬にまたがった。見れば、兵達の前方に蒼い毛、蒼いたてがみの大きな雄狼が先導していた。オグズカーンと兵達は、狼の後について前進した。数日後、狼が立ち止まった。オグズカーンと兵達も立ち止まった。

この地方にイティルという河があった。イティル河畔のカラタグ(黒山)の麓で大戦が行われた。両軍の間で、とても多くの戦があった。戦は人々を苦しめた。戦はそれほど激しかったので、イティル河の水が真っ赤に染まった。オグズカーンが勝利した。ウルムカーンは敗走した。オグズカーンはウルムカーンの領土を得た。ウルムカーンの国民を支配した。多くの戦利品が持ち帰られた。

ウルムカーンに従兄弟があり、その名をウルスベクと言った。ウルスベクは息子を山の頂に住まわせていた。四方は深い壕で囲われていた。国を守らせるため送った。そして、息子に、

「国を守らねばならぬ。戦が始まっても国を守ってくれねばならぬ」と言った。

オグズカーンはその国に向けて出発した。ウルスベクの息子は、オグズカーンに多くの金銀を献上しに来てこう言った。

「おお、閣下は私のカーンだ。父はこの国を私にくれた。私はこの国を守らねばならない。戦が開始されても、この国を守れと言われた。もし、父が怒れば私はどうなるのだ。私は閣下の勅命を実行するつもりでいる。私達の幸福は、閣下の幸福である。私の一族は閣下の一族の一員である。天は閣下に全ての土地を賜った。私の身と幸福は閣下に任せた。閣下に貢ぎものを送ろう。友情に背かないために」と言った。

オグズカーンは若者の言葉に満足して、高らかに笑った。そして、

「朕に多くの金銀を贈ってくれた。国を守ってくれ」と言った。

それで、若者にサクラップ(守り)と名付けて友情を交えた。

その後、オグズカーンは兵達とイティル河に来た。イティル河は大河である。オグズカーンはその河を見て言った。

「イティル河をどうして渡るか」

兵の中にウルス・オルダ・ベクという侯がいた。その人は有能な人物であった。この侯は河岸にたくさん木があるのを見て、木を切り倒し水に浸け、その木に乗ってイティル河を渡った。オグズカーンは高らかに笑い言った。

「おい、お前。この地のベク(侯)になれ。キプチャクと名乗れ」

彼等は前進し続けた。オグズカーンは再び、蒼い毛、蒼いたてがみの大きな雄狼を見た。この蒼き狼が言うには、

「オグズよ。これで、兵達を率いてここから移動しろ。国民や諸侯達を率いて行け。おれが導いて行こう」

夜が明けると、オグズカーンは雄狼が兵達の前を走り先導しているのを見てとても喜んだ。そして、前進し続けた。

オグズカーンは斑馬に乗っていた。この馬をとても好いていた。途中、この馬がいなくなった。この地に高い山があった。上の方に氷河があった。その頂上に真っ白い雪があった。そのため、この山はムズタグ(氷山)と呼ばれた。オグズカーンの馬はこのムズタグに入って行った。このため、オグズカーンは長く悲しんだ。兵達の中に背が高く、丈夫で何事にも怖れない勇士がいた。多くの戦を戦い抜いた男であった。この男が馬を探しに山に入って行った。九日後、オグズカーンに斑馬を渡した。ムズタグは寒いので、この男の全身に氷雪が張り付いて真っ白だった。オグズカーンは大喜びで笑い、言うには、

「おい、お前。ベクの長になれ。永久にカルルクと名を名乗れ」

彼にたくさんの財宝を与えた。

再び前進し続けた。オグズカーンは途中、一軒の高い家を見た。この家の壁は金で、屋根は銀で、門は鉄でできていた。戸は閉められていて、鍵がなかった。兵の中に優れた技術を持った者がいた。その人の名はトムールドゥ・カーグルという。オグズカーンはその人に、

「お前、この地に残れ。戸を開けろ。開けた後城に戻れ」と命令した。

そして、その人にカラチと名付けた。

再び前進し続けた。ある日、蒼き毛、蒼きたてがみの雄狼が、また途中で止まった。オグズカーンも止まり、天幕を張った。ここは不毛の地であった。チュルチットと呼ばれた。国民は多く、土地は広かった。この地は牛馬、金銀、宝石が多かった。チュルチット王と国民は、オグズカーンに逆らった。戦が始まった。両軍、弓を引き、剣を交え戦った。オグズカーンがチュルチット王を負かした。首を取った。チュルチットの国民を支配した。戦の後、オグズカーンの兵達、諸官、国民達にたくさんの戦利品を与えた。それを運ぶのに馬、ロバ、牛が足りなかった。オグズカーンの兵の中に年老いた技術に優れた者がいて、名をバルマクリック・ヨスン・ビリクと言った。その技師は高車の荷車を一台作った。荷車の前に生きた戦利品を配し、それらに荷車を引かせた。臣民はこれを見て驚き、自分達も荷車を作った。高車の荷車が通ると、カンガ、カンガと音を立てた。それで、その高車の荷車をカンガと名付けた。

オグズカーンはカンガを見て笑い、言うには、

「カンガと戦利品を生きた戦利品に引かせておる。高車の荷車を永久に忘れてしまわないために、カンガルックとお前、名乗れ」と言い終え、去った。

その後、オグズカーンは、再び蒼い毛、蒼いたてがみの雄狼と一緒に、シンド(インド)、タングット(西夏)、シャガム(シリア)方面に遠征した。多くの戦の後、オグズカーンはそれらの地を征服して、自分の領地に加えた。

忘れてしまってはいけない。南方にバルカンという地があることをしらねばならない。その地はとても肥沃で暑いところである。その地は獣や鳥がたくさんいる。金、銀、宝石がたくさんある。その地の民の顔は真っ黒である。王の名はマサルカガンという。オグズカーンはその地に馬を馳せた。とても激しい戦いであった。オグズカーンが勝ち、マサルカガンは逃げた。オグズカーンはこの地を占領した。味方達はとても喜んだ。敵達はとても悲しんだ。オグズカーンはこの勝利の後、無限の財物と家畜の主となった。そして、それらを自分の国へ運び去った。

忘れてしまっていけない。人々に知らせなければならない。オグズカーンの側近に白髭、白髪の有能な老人がいた。その老人は万事に通じ、また公明正大であった。その名はウルグ・トゥルクである。ある日、ウルグ・トゥルクは夢で一本の金の弓と三本の銀の矢を見た。この金の弓は日が出てから日が沈むまで伸びた。三本の銀の矢は北をさしていた。目が覚めてから夢で見たことをオグズカーンに言って、また、

「おお、我がカーン。長寿であらせられますよう。おお、我がカーン。臣民に公平であらせられますよう。天が夢で教示してくれました。占領した土地を御子達に分け与えよと」

オグズカーンはウルグ・トゥルクの話を聞いて大層喜んだ。そして、

「お前の善いようにしろ」と言った。

次の日、夜が明けると子供達を呼んで来させ、言うには、

「おい、息子達よ。狩りに出たいのだが、年を取ってしまって狩りに出る力がない。キュン、アイ、ユルドゥズの三人は、日の出る方へ行け。キョク、タグ、テンギズの三人は、日の沈む方へ行け」

それで、三人は日の出る方へ、残りの三人は日の沈む方へ行った。

キュン、アイ、ユルドゥズは多くの獣や鳥を狩った。途中、金の弓を見つけた。それで、その金の弓を父に献上した。オグズカーンは喜んだ。そして、金の弓を三等分して、言うには、

「おい、兄達よ。お前達が持っていなさい。お前達、弓と同じく矢を天まで射よ」

その後、キョク、タグ、テンギズは多くの獣や鳥を狩った後、途中、銀の矢三本を見つけた。それで、その銀の矢を父に献上した。オグズカーンは喜んだ。そして、銀の矢を三人に分け与えて、言うには、

「おい、弟達。この矢はお前達が持っていなさい。弓は矢を放つ。お前達、矢と同じく弓に従え」

その後、オグズカーンは大会を開いた。臣民を召集した。彼等は集まり、協議し合った。オグズカーンは大きな天幕にいた。右側に四十クラチ(尋)の長い木一本を立てていた。その先端に金の鶏一羽を吊した。その根本に白羊一頭を繋いだ。左側に四十クラチの長い木一本を立てていた。その先端に銀の鶏を吊した。その根本に黒羊を繋いだ。

右側にブズク達が座った。左側にウチオク達が座った。四十日、日夜、宴を開いた。飲み合い、食べ合い、愉しみ合った。その後、オグズカーンは子供達に国土を分け与えた。そして言うことには、

「おい、息子達よ。朕は長く生きた。多くの戦をした。弓で多くの矢を射た。馬と多くの路を進んだ。敵達を泣かせ悲しませた。味方達を喜ばせた。天の前に義務を果たした。それで、国土をお前達に分け与える」 (了)