ふたつに割れている。
入れ替え・差し替えの二重人格じゃなくて
副音声で喋っているのが聞こえるんで
どっちの声を聞けばいいのか、結果的には
どちらかの声を優先しているから、何か基準があるんだろう。
根元は癒着しているから、シャム双生児のようで。
これも只のイメージ。悲しくなるイメージ。
切り捨てたら死ぬ。
こんな話、聞くことが仕事のセラピストとか
そんな人にするべき内容としか言えない。
友人知人・血縁者。あの不思議そうな半分笑った顔。
二度と見たくない。
話すべきじゃないことを話した自分が悪いだけ。
不安と様々なイメージが自分のこと一番良く理解してくれてる。
怖いのに、そこに留まって
頑丈だから壊れないからいくらでもイメージが襲ってくる。
どんなに怖いか証明して判らせないといけない。
思い知らさなきゃいけないのに。
なんでもないふりしか出来ない。
異常じゃないふり。異常じゃないからそのまま。
何も感じてない。だからやっぱりここにいない。
生身の糞まみれの人間だからやっぱりここにいる。
どこにも行けない。
ヌルイ絶望。死に損ない。
だから多重に装って中身がない。
宝箱の中は空っぽ。
嘘しかない。
名前に全部嘘がついてる。
それなのにみんな現実の物体で通過できない。
許せないけど何もできない。


装っているのはどっちか誰かに決めてもらうべきか
そんなことしたって誰が裁いて、だいたい罪状はなんなんだろう。
何事もなく日常を過ごして、同居者には気づかれることなく
ちゃんと普通に演じてる。
普通じゃない方は上から瓦礫が降ってくるので難儀している。
轟音が続いて。
全部ただのイメージだから、落ち着いて上を見れば何もないし
何も見えないし何も感じないと自分に信じ込ませれば
欺瞞の上に欺瞞を厳重に
大丈夫だって言い聞かせて、でもこれが全部嘘で
自分は怯えてるフリしてるだけだったら?と疑ってみて
自分の言っていることが本当に信じられないし
じゃあ何も感じてない正常な状態が本当かと思っても
苦痛もみんな嘘で感じた恐怖も嘘で
残るのは強い怒りだけで、また瓦礫が大量に降ってくる。
全部ギャグなのかもしれない。
天井からピアノが落ちてきて猫が潰れる。
カートゥーンとかニコロオデオンとか。あれと同じ。
笑えたらいいのに即座に。
自分が感じた恐怖やら不安を嘘にしたくないのは
何故なんだろう。
憤りに変わる。仕返しばかり考える。


自分が見ているのが幻覚じゃなくて
ただのイメージだっていうことは分かってる
幻覚っていうのはとてもリアルな映像で
それが幻覚だなんて感じないらしいから。

時々、たくさんのイメージが頭に降り懸かって
ちゃんとそれが無害な無意味なイメージだって
ちゃんと理解してるのに不安になって
イメージが通り過ぎて消えていくのを
静かにして集中してイメージから隠れようとして
不安の発作が酷くならないようにしてる。
そう言いながら、逆にイメージが急に襲ってきても
心が落ち着いてリラックス出来る時もある。
そのイメージをずっと見ていたいのに
見ていられる時間はいつも限られてる。
自分が生身の人間だから。生活しているから。

見えるイメージを絵に描いたりすれば
成仏するかなとも思う。
絵というカタチにはめ込んでしまったら
それはそれで固形になった不安でしかなさそうで
それを見ることが少し怖い気はする。





サイクロプスがいる

ドアの隙間から部屋の中を覗いてる

ルドンの絵そっくりな

全身が肌色で 頭にツノがあって

大きな眼がひとつだけ 顔の中央にある

攻撃性は全く感じられない

牧場で草を食んでいる牛みたいな雰囲気


サイクロプスの眼に渦が出来て

それがグルグル回る

全部偽者で平らな立て看板で

部屋もスタジオのセットで 窓の外も描いた絵で

それを一生懸命撮影してる

カメラで

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鬱病じゃないし他の病気でもない

健康で病院に行く必要もない

白い画用紙 袋状に折って そのカドの部分

そこに捩じ込まれる 押しつけられる 窮屈に

狭くて 身体が圧迫されて

真っ白で平らな ただの紙なのに

潰される 肺が潰れて


部屋はそこにあって

何も問題がない

生活してる

何も間違ってない

蝋細工だと思う 本棚も家具もみんな

熱で溶けてどろどろに垂れ下がって

床も水の上の絨毯みたいになってく

びっくりホラーハウス


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バリバリと音がして物が壊れる

音が止まらない

破壊音が砕ける骨が耳鳴りが悲鳴がすべてのノイズが

全部 一斉に 始まって終わらない


体中の皮膚に鉤針が刺さってる

ノイズが鉤針を引っ張る

僕は操られる

壊れた人形みたいに


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リュウグウノツカイ

知ってる 深海魚

白く乾涸びたミイラを水族館で見た

よく似ているけど違う

今 見ている何か

頭が長く伸びて 白い煙みたいに浮遊してる

眼は緑青に覆われた銅貨のようで

小さな尖った歯が 裂けた唇の内側に整列してる

埃のような粉が 鱗粉の様なものが

光の中に見える

違う

見えたらいいなと思ってる

触れることが出来たらいいのにと思ってる

気配だけ イメージしか見えない


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川の水は淀んで暗い色をしてる

油の膜が浮いてる

静かな川


培養された悪意

陽炎

無音の

憎悪


蛍光燈のノイズ

川底の濁った水と汚れた土


誰かがハンマーで肉を叩いている

死んだ肉を痛めつけてる


眼球が飛び出した魚が 溺れて沈んでる

潰れた空き缶と 仲良く横たわっている


川の水は温かくて

臭くて優しくて汚い


僕の住処


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開いたドアがたくさんあって

ひとつづつ閉じていく

閉じられる音が重なって続いて

足音みたいに

絶望することが温かく安心できる場所みたいに

動けないことは腐ることと同じことなのに

耳の奥で血管が破裂した

両腕が割れて分裂して増えていく

動けない怪物

成長しながら腐っていく

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