NO’10 talk to about Her
空が徐々に明るくなり、電車が動き始め、
空気が終わりの夜から始まりの朝へと雰囲気を変える頃、 やっとしょう子ちゃんが待ち望んだ時間がやってきます。
ショウ子ちゃんは平静を装いながらも、素早く手際よく着替え、ヒールを脱ぎます。
疲れきった足が、慣れたコンバースの感触に喜んでいるのが解ります。彼女は脱ぐたびに、もう二度と履きたくないと思うのです。
やっと何時もの自分に戻ったと、彼女は溜息をつきます。もう楽しくも無いのに笑う必要もない。
伸ばしすぎてかえって不自然だった背筋も、思いっきり前に傾きます。
訪れた時と同じMDの続きに耳を傾け、彼女は静かに店を出ます。
空気が冷たすぎて、暖房のガンガン掛かった空間でふやけていた皮膚を収縮させ、振動して
彼女に独特の朝の匂いを主張しています。
髪に染み付いてしまった煙草の匂いだけが、彼女にその場所の存在を思い出させます
駅にちらばるまばらな人々をボンヤリ見詰めながら、彼女は色々な事を考えます。
あの場所の帰りは、何時も不思議な感覚に襲われる。
何時もの駅の筈なのに、何か自分の存在だけが切り取られた特異なモノの様に思えてくる。
(イヤ、私は普通の小娘だし。)
彼女は自分に言い聞かせ、静かに眼を閉じて、電車が自分を目的地に運ぶのを待ちます。
運ばれるとゆう感覚、たくさんの物が視界に現れては消え、そちらが動いているのか自分が動いているのか、
彼女は発想を逆転させて遊びます。見慣れた風景。
電車を降り、夜行性の友達に連絡を取り、二人分の飲み物を調達して家路に着く頃には、
彼女はすっかり只の小娘に戻っているのです。