内海清美●源氏物語館

 へ、行った。もう先週の日曜になってしまい、また新鮮なうちにお話することができない。学習しない管理人である。何しろその後神宮球場にヤクルト対中日を見に行っていたので、野球の前に源氏物語の紙人形はもろくも崩れ去っていたのであった。それは不可抗力である。開き直り。

 ともあれ、多摩センターの「住まいのデパートペンタくん」へ向かった。なぜ「ペンタくん」なのかは謎。といいたいところだが、実際は空間構成をしやすかったなどの理由であろう。「ペンタくん」自体、古今和歌集の料紙を壁紙にしちゃうような面白い試みをしているため、なんとなくそういう理解に至った。
 ちなみに「ペンタくん」というのは、リフォームをしたい人たちのためのショールームみたいなもので、すごくでかい。一軒家が5軒くらい余裕でビルの中に建っているのである。そういうわけで、源氏物語館も思ったよりは広かった。
 わたしは日文のフロアのポスターなどが張ってある場所でタダ券を手に入れた。そして、多摩センターは近所だ。この二つの要因がなければ果たしてここに来たかどうか。なんと言っても、ここは大人800円もするのだ。それを高いと見るか安いと見るかは人によるのだろうが、常に緊縮財政なのでやはり高い。もっと言えば、博物館でもない所に800円は、わたしにとっては高いのである。だってこれってギャラリーでしょう?
 チケットを切ってもらい、館内に入り込む。初めに「タイムトンネル」と称されたよくわからない通路を通った。暗くて(わたしは割と鳥目がちである)、しかも館内見取り図がなかったので、これはどうなっているのか?などと余計な不安を抱いてしまった。しかも黒いすだれのようなもの越しに人形が見えたので、これ越しに見るのかな?などと、今にして思うと謎の発想をしてながめたりしていた。というか、人がいないのでどう見ていいかわからなかったのだ。
 そんな心配は必要なかった。「紫曼荼羅」というタイトルの作品が一番に出てくる。紫式部が庶民や貴族に囲まれて執筆している光景だ。それにしても、同名の本が図書館にあったなぁと思う。本のほうは「紫マンダラ」だけど。これは偶然なんだろうか。
 人形のほうは、非常に興味深い。特に髪の毛なんかはどのように作ったのか全然わからない。顔の表現も悪くない。本文の描写に忠実に、ただし顔の表情がわからないようにできているのでイメージを崩さないし、物語のストーリーをよく追えている。ひとつのフィールドにひとつかふたつの巻を表現していて、同じ人物がひとつのフィールドに何度も出てくる。絵巻にも似た構成だと思う。何といっても全てを紙で作っていて、基本的に彩色もなしというのはすごい。暗い中に人形があり、光で浮き上がらせるというのはありがちな演出ではあるのだが、徹底しているので鼻につく感じでもなく、結構素直に浸れるのではないだろうか。人も少ないし。
 ただ、惜しむべきなのは単調であること。どうしたって人形だから最後には「全部同じじゃん」という感じになってしまう。ストーリーを追えれば面白みもあるのだが、源氏を知らない人から見れば同じようなものの羅列に見えるのではないかと人事ながら不安である。
 ここにはミュージアムショップもある。これがまた、なんだかよくわからない。図録はあったのだが、これの図録を買う気にはなれなかったので、流して見ていた。ただ、奥には内海氏の作品が飾ってあり、これは購入できるようだった。一体40万くらいだっただろうか。なるほどなーとその時は思ったが、ちょっと待て。うちの母親は趣味で人形を作ったりバッグを作ったりして売っているが、その価格はせいぜい1万円だろう。プロとアマチュアの違いだと言えばそれまでだろうが、なんとなく釈然としない。
 このミュージアムショップで、ショップの人に話し掛けられた。客はわたししかいなかったし、暇だったのだろう。若い人が珍しかったのかもしれない。特に何を話したか思い出せないので、その程度のことをお話したのだろう。この源氏物語館、採算は取れるのだろうか。

 余談だが、「ペンタくん」はおもしろい。今わたしは築1ヶ月の家に住んでいるのだが、リフォームしたくなるというか、「住まう」ということに興味がある人ならかなり楽しめると思う。モデルルームをいっぱい見る感じといえば妥当だろうか。男性社員のネクタイに「住まいのデパートペンタくん」と織り込まれているのを見たときはちょっとひいたが(さらに余談になるが、郵便局の男性職員のネクタイの柄はポストだと思う)。
 近所の人は一度行ってみるといいのではないだろうか。多摩センターには「縄文の里」とかいう資料館もあるし。