03.10.07 栄華物語序論

 『栄華物語』は正編30巻、続編10巻のあわせて40巻にわたる長大な作品である。『六国史』以降の歴史を描こうという意図があったことは間違いないが、その一方で、『源氏物語』などの物語からも影響を受けていると目される。作者は、正編と続編では違っているというのが定説であるが、誰かということは確実な証拠がない。ただし、正編は道長・倫子に仕えた赤染衛門であるということが言われる。正編は道長を中心とした貴族社会の動向を描いており、道長の近くにいた女房の筆によることは間違いない。高校までに「道長礼讃」などという評価を聞くことがあったかもしれないが、この評価は実際は現在ではなされていないといっていい。正編に関してはさまざまな資料をもとに、それを取捨選択した上で歴史を描こうと考える意図がうかがえる。
 道長を中心とした正編の記述は、歴史を記録しようとする姿勢がみられる一方で物語的な叙述方法が共存していると考えられる。「栄華」というタイトルの由来は、道長の「栄華」であるという説が定説となっているのだが、「栄華」と銘打っている割には病や死などの暗い部分を描くことも多く、陰翳に富んだ作品であるといえる。
 続編の作者は出羽弁という説があるがこれは定かではない。章子内親王を中心として、内親王や后の動向に詳しく、正編のように貴族社会全般を描くという形からは若干のずれがある。また、記述方法も正編とはかなり違っている。続編は平安後期の女性史といってもいいくらいに女性の消息を述べる。
 今回のゼミで扱おうとするのは、小学館の新編全集の1巻にあたる1〜10巻である。だいたいここまでというのは道長の最盛期にあたる部分で、前期また夏休みのテーマとつながる部分が大きい。

《研究課題》
 道長にかかわって、またその周辺にかかわって、歴史の叙述を検討することに醍醐味があるのではないか。
 『栄華物語』は、実際の歴史事実とは反する部分がしばしばみられる。歴史書としては問題となる部分である。その代表的なものが
「浦々の別れ」の伊周・隆家左遷、いわゆる長徳の変の記述である。こういった事実を他の記録類から比較してみる研究方法が考えられる。
 あるいは、「はつはな」巻の彰子の出産の記事が『紫式部日記』に大いに依っている事実も興味深い。おそらく『栄華』作者は『紫式部日記』の記録性を疑うことがなかったのだろうが、紫式部の影を消そうとしているのか、文章の端々を変更している。この違いはどのような原因によるのだろうか。
 どういう形にしても、本文を読み、歴史的事実や資料と比較していくことが基礎的な勉強方法であるといえよう。