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-四間飛車定跡書総合ガイド

豪快四間飛車—徹底研究対急戦対持久戦 (スーパー将棋講座)
著者:畠山成幸
出版:創元社
発行:2008/06
定価:¥ 1,260
サイズ:222ページ ・18.2 x 12.8 x 1.8 cm
評価:
  • 級位:☆☆☆
  • 有段:☆☆

この本、創元社だし、タイトルに豪快ってあるし、きっと級位者向けにざっくりしたわかりやすい変化だけ解説した定跡入門書に違いない。 そう思った。 端書きにもこうある。

この本は、私が将棋をおぼえた当時の自分が読んでおもしろく感じるかを意識して書いた。

だが、それは15ページもいかないうちに裏切られる。





















最初に駒組みから少々。そして▲7八銀待機策。

「とすると山田定跡か。でもこの定跡って豪快って言うか軽快って感じの定跡だよね。まあ初心者には理解しやすい定跡だからな。豪快じゃなくてもここはご愛敬で。許容の範囲内。」心の中でつぶやいた直後。
△4四歩?! ▲6七銀 △8六歩 ▲同 歩 △同 銀 ▲6六角
△7五銀 ▲同 角 △8九飛成 ▲6六角 △8七歩! ▲8二歩!

最初にとりあげる本線がこれである。 △7七角成ではないのだ。しかも最後の二手は何だ?確かに良い手なのは認めるし、習いのある手ではある。けれどもこれは豪快とはほど遠い、渋くて味わいのあるじわっときく手と言った方がいい。

この後も、△7七角成をさらっと流して、次の変化が△8五歩を保留しての△7五歩からの速攻である。こんなに目を白黒してしまった本は昨今無い。

この本は、私が将棋をおぼえた当時の自分が読んでおもしろく感じるかを意識して書いた。

そうか、畠山成は受け将棋の棋風だった。こういう手を当時からおもしろく感じていたのか。

全編に渡ってこうした手が頻出する。特に持久戦編では相手に手がないのを見越して力をためる手や、駒を相手に取らせた後のことを見越して駒を追いかけさせる手順など、味わい深い手が並ぶ。 例えば、左美濃の項では藤井システムを解説しているのだが、本家藤井猛著の「藤井システム—升田幸三賞受賞戦法 (MYCOM将棋文庫)」や「四間飛車を指しこなす本〈3〉」などでまず本線として解説していた玉頭から殺到して勝ちを導く最重要なねらい筋を、仕掛けの数手だけ示して「強襲がある」と書くに留め、居飛車がこの筋を避ける順を本線としている。

豪快と呼ぶには手順が細かいし、軽快と呼ぶにはさばきよりも食らいつきを重視しているようだし、明快と呼ぶには小競り合いの後よく第二次駒組みに移行するし、こんなに滋味溢れる四間飛車の本に昨今出会っていない。どちらかというと昔の定跡書はこんな感じのだったなあと思うほどだ。ちょっと、ぱっと適当な言葉が思いつかないが、
「菜根四間飛車」(木の根のようにかめばかむほど味が出るという意)
なんてどうだろうか。「豪快」は鈴木大介に譲った方がいいと思う。

率直に言って、この本の評価を決めかねている。初心者同士で相手がこんな手を指してくるはずはないし、そもそもさらっと取り上げられる手の意味が理解できるなら立派な有段者だ。このレベルの手を実践で普通に指せるなら高段者と言っても過言ではなかろう。級位者がこの本の手順を暗記したとして、この本の通りに指してくるような相手には勝勢と書いてある局面からでも逆転されるだろう。 豪快と言うには語弊があるし、解説は丁寧でわかりやすくとも級位者にはあまりにもレベルの高い手順だ。だが、考えてみるにこういう渋い手を指せるようになるのが有段者への近道なのは間違いない。すると、逆の意味で級位者に適しているのかもしれない。確かに昨今の定跡書にありがちな、難解でミクロの手順の違いを追求するわけではない。一応一通りは手の意味を解説している。全編を通してでてくる渋い手が級位者に染みつくといいのだが。

この本を薦める対象は、

  • 定跡の勉強をしたことがない有段者。
  • 派手な手ばかり目について、無理攻めばかりしているペーパー初段。
  • 変わった手順を押さえたい定跡マニア。
  • 定跡書に不思議なおかしみを感じたい有段者。

としておきたい。

できれば、これにて勝勢と書いた局面からの具体的な手順をWEBでいいからまとめておくと初級者にはいいと思います。畠山さんお願いします。

余談ですが創元社の本は日本語がわかりやすくていいなあと思います。将棋以外の本も出してるからですかね。

内容紹介
プロの間では最近、玉を薄くして戦う中飛車が流行している。しかし、振り飛車の醍醐味は、玉の堅さを生かして豪快にさばく四間飛車にこそある。その魅力を伝えるのが本書。第1章の対急戦編は、定跡、形、手順を覚えてもらうために、▲6七銀を保留した指し方を徹底解説した。第2章の対持久戦編は、左美濃、対居飛車穴熊、ミレニアム囲いなど、居飛車の戦法を変えて広く解説した。それぞれの戦法での感覚が身につけられる。

第1章対急戦
山田定跡-銀18p後手四間△5四歩対▲6九金型
山田定跡?34p後手四間△5四歩△2二角対▲2五歩保留型
山田定跡-端角18p後手四間対▲9七角▲7九角型
鷺宮定跡21p後手四間対△5四歩△1二香対▲6九金型
復習問題10題
第2章対持久戦
左美濃24p後手藤井システム
居飛車穴熊34p浮き飛車
ミレニアム30p独自の駒組み2例
五筋位取り15p後手四間対急戦型
復習問題10題
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