★ギランバレー症候群★

.治験

大学病院についた。
しーーんとした廊下をタンカを押すからころいう音が響いている。
どこまで行くんだろうか・・・
そしてあんまり広くもない一室に入れられて先生に
「ちょっとここで待っててね」
とにっこりされた。
そして先生はドアを開けて出て行った。
思わず、旦那を見上げる私。
不安げに手を握ってる旦那。
目でお互いに(どうしよう)って言ってた。
そこに、大きな声が突然聞こえた。
「おお!○○!!久しぶりじゃん!なんでこんなトコにいんだよ!」
どうやらさっきの先生の同僚か何からしい。
「いや、まいったよ〜。ギランバレー出ちゃってさぁ!!」
「ええ!ギランバレー?!まぢかよっ!!」
「俺、研修医の時依頼だぜ〜〜。びびるよなぁ」
あの・・・先生達・・・丸聞こえなんです・・・。
思わずびっくりしてきょとんとする私達。
そして耳はダンボ。
「で、どーなんだよ、大丈夫なのか?」
「どうだろうなぁ・・・。すっげー進行が早いんだよ。あの勢いだと・・・」
さすがにそこで声がぼそぼそになって聞き取れなかった。
うわぁ!そこまで言ったら全部言えよっっ!!
デリカシーのかけらもないな!!
ますます不安になる私。
力の入らない手をぎゅっと握ってる旦那の手がこ〜んなに頼りになるなんて今までわかんなかった。
何を言う訳でもなく、きゅって唇かみしめてる顔見てて。
あ、こいつ。
やっぱ。いい男だわぁ、顔は・・・。
とふっと思った私。(笑)

それから少しして今度は看護婦が来た。
「樹里さ〜ん、先生の診察ですからね〜。」
と、からころまた移動。
どうやら、デリカシーに欠けるあのにーちゃん先生は帰ったらしい。
今度の先生は、どんなんだ!
えらそうなヤツか?大学病院だもんね!ガンも3ヶ月待ちだもんね!出るか!どどーーんと!
と思っていたが出てきたのはやっぱりにーちゃん達よりちょびっとだけ↑かな?程度の30代くらいのあんちゃん先生。
「えっとね。とりあえず説明するね」
はい、待ってました。
「君の病気はね。すごくめずらしいのだけど、ギランバレー症候群という病気なんだ。」
「は、はい?」
「でね、今日慌ててここに運ばれたのはラッキーなんだよ!」
「い??」
「今日金曜でしょ?今4時30分。治験の締め切りが5時でねぇ・・・」
「はぁ・・・。え?治験??」
「そうそう。この病気には2種類の治療方法があるんだ。一つは認可降りててもう一つの方法は、まだ認可が降りていないけど良く効く方法。
このもう一つの方法というのが、なんでだか理由わかんないんだけど、良く効くんだなぁ。
認可が降りている方を選ぶと月曜からしか機材が使えないから、そこまでに呼吸困難を起こす可能性が高い。
でも、もう一つの方法ならば今日の夜から投与が開始出来るんだよ。」
どうやら、ギランバレーさんという人が発見したのでギランバレー症候群、というらしい。
ちなみに、このギランバレーさんと前回出てきたフィッシャーさんがお友達かどうかは知らない。

(治験)
どうやらモルモットになれ、という事らしい。
その代わりに、保険外の薬だけどただにしちゃうよ〜っと。
先生の注意としては、当時問題になっていた非加熱製剤ではなくきちんと加熱されている物であるから、エイズや肝炎のウィルスは心配なし。
しかし、まだ発見されていないウィルスに関しては、責任もてないぞっと。
今回の私の場合には、「ガンマグロブリン」というお薬を5日間連続投与する、という物だった。

「先生。あの、質問なんですけど。」
「ん?」
「この病気って死んじゃったりとかしないんですよね?」
おそるおそる聞いてみた。そしたらなんと。
「あ〜〜。たま〜にね死んじゃうね。うん」
クラクラ〜〜〜・・・。(卒倒)
たまに死んじゃう、言うなぁ!ボケぇぇ!!あっけに取られてる私と旦那に先生は言った。
「どうする?後治験の締め切りまで15分しかないんだ。治験OK出ても必ずもう一つの方法が当たるとは限らない。
50%の可能性に掛けるんだよ。」
んげぇ。一生の問題をたったの15分で答えを出せと。^^;
「5分だけ時間下さい」

まず旦那と相談する。
旦那の意見
「まだ分からないウィルスでも怖いよ。でも、すぐ処置しないと自力で呼吸できなくなるのならやるしかないじゃん・・・」
母親の意見
「なんでまたそんな訳の分からない病気に・・・(うるうる)」涙声でお話にならないので切った
旦那の父親の意見
「やるしかねーだろ!それしか方法はねーんだ!!」
そして、私の判断。

「先生、治験でお願いします」
私がそう答えると、
「よっしゃ。それじゃ、これから申し込みをファックスで流して、治療方法が決定次第知らせるからね」
時間がない。
「とりあえず、ここにサインして」
パッと目に飛び込んできたのは
「あなたは全国で26番目の症例です」
うひゃっ。26番目って・・・。
日本の人口から考えたらすんごい確立じゃん。

通常この病気、色んなHPを見たらゆっくり進行していく人が多い病気だったけど、
なんだか知らないけど、私は一日でがばばっと次から次へと麻痺が進んでいき、ほぼ間違いなく今晩か明日の朝には呼吸器の筋肉が麻痺するだろうと。
のどに穴あけるのは嫌だなぁ。
しゅーこーしゅーこー言うやつだよね。
すげー重病患者みたいじゃん・・・。
病室に運ばれてみるとそこは4人部屋。
ちょうど夕方の時間帯でパタパタしていた。
そんな中で、他の人と顔を合わせる気になんか到底なれなくて。
カーテンをびちっとしめた。

「どうなっちゃうのかな・・・」
私がつぶやくと、旦那が
「わかんねーよ・・・」
旦那もなみだ目になってる。
「私さぁ。肺炎になる予定だったんだよぅ。あんたがあんまりわからずやだから病気にでもなって入院してやるぅって思ってた。ごめぇん」
思わず、言っちゃった。そしたら旦那はぷっと吹き出して
「お前ねぇ・・・」
と苦笑した。
「でもさ。病は気からっていうけど。ホントだね。最初は風邪だったのにさっ。風邪は万病の元ってのもホントだね。」
「ははっ・・・」
これまた旦那は力なぁく笑った。
「ね。もしも、私が死んじゃうような事あったら、子供の事、よろしくね。私の事なんてきっと子供覚えてないから、さっさと新しい優しいお母さん探してね」
「お前はしなねーよ。」
旦那が言う。
「・・・うん。絶対にお前はしなねーよ・・・」
そう今度は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
「ねね、私が死んじゃったら悲しい??」
と聞いたら
「ばっかじゃねーの。考えてないよ。考えらんねーっつの」
「ちぇ〜〜っ。そういう時はねぇ、お前が死んだら俺は生きていられないから絶対に頑張れって言うんだよぅ」
と言って私はあははって笑った。
「お前さ・・・。どうしてこの状況でそういう冗談が言えるの。」
と旦那もつられてあははって笑った。
「あ、笑ったぁ。始めて笑ったぁ。ねね、さっきの先生達、失礼しちゃうと思わない!?」
「あーーー!あれだろ、運ばれてきた時に、大声で喋ってたヤツ。」
「そうそう。丸聞こえだぁ〜っちゅうの。」
くすくす2人で声を殺して笑う。
「そう考えるとさ、先生も若造は素人だよねぇ。あははは。」
「信用なんねーー!やっぱさ、先生はじーさんて感じしねぇ??」
「するするぅ!でもあんまりよぼよぼも嫌だよね。手プルプルしながらもしもし〜って聴診器もいやぁ!」
「ぎゃはは。ぷるぷるはやだなぁ。それじゃあの聴診器からプルプル音しそうじゃん。」
「うんうんっ。あ、そーだ。ちゃんとパンツの入ってる場所知ってるぅ?タオルとか。パジャマとか。」
「ん〜。なんとかなんだろ?」
「それだけじゃないよ〜。通帳とかも保険証券とか印鑑とかもだよ〜。」
「・・・・・」
「やっぱねぇ・・・。これからはちゃんとパンツの位置位覚えなくっちゃだね。」
くだらない話をしてぷぷーっとか噴出したりしてたら先生が来た。
神妙な顔をして先生が言った。
治療方法が決定したらしかった。

←BACK    TOP!!    NEXT→