6点目のゴールを決めたのはキコだったろうか。
後半もロスタイムに入って6対1。スペイン代表の大勝は決まっていた。
しかし、キコに喜びの表情はなく、ただうな垂れるだけだった。

1998年6月25日、W杯フランス大会、ランスで行われた予選D組スペイン対ブルガリア戦。
前々年の欧州選手権以来、この大会の前哨戦であった対フランス戦まで負け知らずで、優勝候補の筆頭に挙げられていた「無敵艦隊」スペイン代表は、ナイジェリア代表との壮絶な初戦を制することが出来ず、また2戦目のパラグライ代表戦でも引き分け、自力での予選突破の可能性を失っていた。
そして、同じ時間帯にトゥールーズで行われていたナイジェリア対パラグアイ戦でパラグアイが快勝し、その瞬間スペイン代表の予選敗退が確定した。
「この試合に勝っても意味が無い。」
キコのゴール後の表情には、そういう感情が込められていた。

1999年11月27日、浦和市駒場スタジアムで行われたJリーグDIVISION1最終節、浦和レッズ対サンフレッチェ広島戦は、延長後半1分に左サイドのショートコーナーを受けたペトロビッチがファーサイドに上げたクロスボールに福田正博が反応し、浦和レッズのVゴール勝ちとなった。
瞬間、スタジアムは歓喜で沸いたが、福田に喜びの表情は無かった。
あのときのキコと同じ表情をしていた。

この勝利で浦和レッズは勝ち点を28に伸ばし、アビスパ福岡、ジェフ市原と並んだものの、得失点差でこの2チームに及ばず、レッズのJ2落ちは延長戦に突入した時点で確定していた。
福田はこのゴールを「何の意味もないゴール」と言い、虚空に陥り涙した。

この虚しさは当然の事ながら、サポーターを始めとしたレッズファンも同じである。
そしてチームの不甲斐ない成績に関する怒りは、チームのフロントに向けられているようだ。

チーム内の得点王である福田の投入を後半残り10分まで引き延ばした起用法を疑問視し、「ア・デモス監督を解任させろ」と言う者。
また、「その監督を呼んだのはフロントだから、社長以下全員辞任」と言う者。

どうして怒りの矛先がフロントなのだろうか。
確かに、シーズン途中でチームの戦績が思わしくないと外国人監督を起用したり、シーズン後半になって層の薄いポジションに外国人選手を起用したり、どこかつぎはぎ的な戦力強化をしてきたのはフロントである。
しかし、試合をするのは選手である。選手に問題はなかったのだろうか。

シーズンを通して、一選手が大きなミスを犯して負けた試合は無かった。だから、選手に責任は無いと判断し勝ちになる。
しかし、各世代の代表に名を連ねるメンバーを揃えたチームが、シーズン中全く噛み合わない試合を続けていたのは確かである。
どうやらミスを恐れるあまり、思いきったプレーが出来ていなかったように思える。
攻撃に転じても動き出しが遅かったり、パスを出した後も自分がスペースに走ると言った動きが少なかった。単純に走った距離が少なかったのだ。

最終戦のあの涙をばねに、来シーズンはフィールドを貪欲に走り回るレッズの選手が見たい。

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