勝者のメンタリティ
4月の19日と23日に、浦和レッズは大変興味深い試合を行なった。
4月19日はJリーグ・ヤマザキナビスコカップ第1回戦の2戦目を川崎フロンターレと、4月23日にはJ2の第8節をベガルタ仙台と戦い、それぞれ2対1、3対2で勝利を挙げている。

12日に行われたナビスコカップ第1回戦の1戦目では、浦和レッズは川崎フロンターレに0対3という大敗を喫し、J1とJ2のレベルの差をまざまざと見せ付けられた格好となっていた。
しかし19日に行われた2戦目で浦和レッズの選手は、野人・岡野の「最初から走りこんでガンガンいく戦う姿勢」を始めとし、すばらしい動きを披露し勝利を収めた。
1戦目では浦和レッズの選手に全くと言っていいほど見ることが出来ず、さらにはこのチームに創設以来欠けていた(と言っても過言では無いだろう)この「戦う姿勢」はこの日、非常に単純なことが切っ掛けで現われることになった。
レッズが大敗を喫した1戦目の翌日、新聞に川崎フロンターレの選手の「J1とJ2では全然スピードが違う。昨年のレッズの方が強かった」という挑発的なコメントが掲載されたのだ。
そしてこのコメントを知った岡野は発奮し、その動きにつられるような形で他の選手も勝利への意欲を露わにした。
「絶対に勝つんだ」という意欲が選手を走らせ、ひいてはそれがチームを勝利へと導くというメンタル面の重要性を証明する試合だった。

その試合から4日後の4月23日にJ2第8節、ベガルタ仙台対浦和レッズ戦が行われた。
第7節を終えた時点で、浦和レッズは開幕から6連勝の首位、ベガルタ仙台は1勝5敗の8位と、その勢いからして大きく引き離れていた。
さらに、レッズは去年までトップリーグでしのぎを削ってきたチームであり、それまで2部リーグで然したる戦績を収めることが出来ずにいたベガルタ仙台にとっては、レッズの実力たるや計り知れないものがあると感じていたとも見ることができる。
ところがこの試合で、ベガルタ仙台は前半20分と21分に立て続けにゴールを挙げ、2対0でリードしたまま前半を終えた。
レッズにしてみれば、先の川崎フロンターレ戦で素晴らしい試合をした矢先である。
岡野などは19日の川崎フロンターレ戦の試合後に「忘れていた部分をみんな思い出したと思う」と発言した矢先である。
「たったの4日で浦和レッズは『勝つ意欲』を失ってしまった」と思ってしまうような前半の戦いぶりだった。
去年までのレッズ、つまりJ1というカテゴリーに属していれば、おそらくこのまま苦杯を舐めていたことだろう。
しかしこの日、レッズは後半できっちり同点に追いつき、延長Vゴールで逆転勝利を収めてしまった。
なぜだろうか。
窮地に追いやられても自分達の勝利を信じることが出来るメンタリティが、この日のレッズには存在したと俺は確信する。それは「自分達は絶対に勝てるんだ」という自信である。
逆にベガルタ仙台には、2点リードを1点差まで詰め寄られ相手に押せ押せで来られると、「やはりダメなのか」という諦めの気持ちが沸いていたのではないだろうか。
痛切に感じるのは、「J1だから勝てる」「J2だから勝てない」というメンタリティの違いが両者の実力差となっている事実だ。1部と2部という単なる枠組を「格」と捉え、自分達で見えない壁を作ってしまっているのだ。純粋なサッカーを実践するスキルに限って言えば、J1とJ2の間に大きな実力差は断じて無いのだが。
この試合ではこのメンタリティの違いが如実に現われたと言える。

「格」というものは他者が作り出した虚像でしかないのに非常に強力である。「自分達は絶対に勝てる」と信じている格上チームに、格下チームが勝つことが容易でないことは疑う余地のないことだろう。それでも、格下の者が「見えない壁」を取り除き、「勝てる」というメンタリティを得るには、とにかく勝つしかない。勝った経験こそが「勝てる」という自信に繋がるのだ。
今年J1に昇格したFC東京が躍進を続けているのも、昨年度の天皇杯でJ1勢を次々に撃破しベスト4まで進出した自信が大きく影響しているに違いない。

4月26日、韓国代表対日本代表の国際親善試合が行われ、1対0で韓国代表が勝利した。
この試合、ホームゲームで絶対に負けられない韓国代表はJリーグで活躍する選手を7人揃えるメンバーで望んだものの、その攻撃は、高さのあるツートップに深い位置からクロスを上げるだけという粗末なものが大半で、こちらが心配になってしまう程の低迷ぶりだった。日本DF陣が普通に守備し、ミス無くやり過ごせば、必ず0点に抑えられるようなレベルだった。
だがそれに輪をかけるように、日本代表は得点に繋がりそうな攻撃を一度も見せることなく敗北した。
日本代表チームは最後まで「勝つ意欲」を見せてはくれなかった。
何らかの外的な刺激を受けないと、明確な「勝つ意欲」の沸いてこないメンタリティは、浦和レッズに限ったことではなく日本人サッカー選手に根付いたものなのではないだろうか。

2002年のW杯を過去の戦績0勝3敗で望む日本は、世界的に見て明らかに格下のチームだ。格下のチームが勝利するのは非常に難しいことは先に述べた。
現時点で「勝つ意欲」さえ持ち合わせていないチームが、これから「格」を打破し、自信を手に入れるのに2002年まで間に合うだろうか。
このままでは危ない。

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