ジングルベ〜ル、ジングルベ〜ル、メ〜リ〜クリ〜スマ〜ス
 
 
今日は聖夜。世界中の子供達がサンタを待っている。
それぞれの家のサンタは子供のために、真夜中こっそりとクリスマスプレゼントを届けるのだった。
そして、弟のためにサンタになろうとする少年がここにも一人。
本来ならこの役目をするはずの人は、先日マジカルゲートで起こった異常のせいで、ここ最近働きづめなので疲れていた。そんな父を見かねて自分から立候補したサンタ役。少年——結城ケントは自分の使命に燃えていた。
 
パチパチパチパチ。
 
「ケントくん、あんまり暖炉に近づきすぎると燃えちゃうわよ」
「うわ、やべっ!」
しっぽについていた火をケントは手ではたいて消す。
ちなみにもちろん人間にしっぽはありません。そしてケントに突然変異でしっぽがはえたわけでもありません。
では何故しっぽがあるかというと、それはケントにとっても不服なことだった。
「で、何でまたこれなんだよ!!」
「だって、サンタでしょ?」
アオイがにっこりと微笑む。白いふわふわが付いてる赤いワンピースを着ていて、手にはこれまた同じく白いふわふわが付いている帽子を持っている。いわゆる少女版サンタクロースだ。
もしも実際にサンタがこんな子(外見のみ)だったら、世界中の少年(+α)は喜ぶだろうに。
「アオイちゃんはサンタだけど、オレは!?」
ケントは自分を指さす。正確には自分の着ているものを。
「トナカイでしょ?」
そんなことも分からないの?
あっさりと言われた言葉にケントは脱力する。
「だから・・・なんでオレはトナカイの格好しなくちゃいけないの・・・・・・?」
「サンタといったらトナカイじゃない」
にっこり。邪気のなさそうな笑顔でアオイは微笑む。実際にはどうなのかわからないが・・・・
ケントはその笑顔に騙されることなく反論を続ける。
「じゃ、オレがサンタの格好すればいいじゃんか!」
昼間のパーティーといい、何でオレばっかこんな格好。トナカイの着ぐるみは結構恥ずかしいんだ。
「あら、ケントくん・・・」
にっこり。
「私に、トナカイの格好しろって言うの?」
にぃっこり。
「いや、別にそういう訳じゃ・・・」
にぃぃっこり。
「いえ、何でもありません・・・」
「そう♪」
ケントは反論する言葉と気力を失った。アオイ女王様は上機嫌である。
 
 
 
「それで、どうするの?」
今の時刻は10時過ぎ。もう子供は寝なければならない時間である。
ケントは本当なら、今頃にはカイトの枕元にプレゼントを届けているはずなのである。
それが何処をどう間違ったのか・・・というより、昨日アオイにそのことを話したから、ケントはいまだ弟にプレゼントを届けることも叶わず、何故かアオイの家にいるのである。
今日の昼にあった小学校のクリスマスパーティーが終わった後、ケントはアオイにカイトへのクリスマスプレゼントを持って10時頃自分の家に来るよう告げられたのだった。その時はアオイは何も訳を話してくれず、いくらか不審に思いながらも、ケントは約束通り有栖川家を尋ねた。そしてトナカイの着ぐるみを渡されたのである。それは小学校でケントが着たものと同じだった。たぶんもともと有栖川家のものなのだろう。
「どうせプレゼントを届けるんだったら、本格的にやりましょ」
「本格的?」
「そっ、本格的に」
アオイは楽しそうである。
「具体的にどんなコトするの?」
先刻からケントの言葉には”?”がついてばかりである。
「えっとね、まずは格好」
サンタ姿のアオイに、トナカイ姿のケント。
「これはもうOKね」
アオイは自分たちの格好を見て頷いている。
「それで、次は?」
「それは後から言うわね。とりあえずケントくんの家に行きましょ」
プレゼント持った?
ケントが自宅にあることを告げると、アオイは外にある車の中で待っている祖父の元へと向かった。
 
 
 
バタン
車の扉を閉める音は、クリスマスだと騒ぐ人々の喧噪に混じり、すぐにかき消された。
アオイとケントは結城家の家の前におり立った。
「じゃ、おじいちゃん。帰るときはメールするね」
アオイが手を振って有栖川博士の乗る車を見送る。
車が見えなくなると、アオイは結城宅へと体の向きを変える。
「じゃ、ケントくん。サンタはやっぱ煙突から入らないとね」
「うち、煙突無いよ・・・」
「あら、そう」
じゃ、こっちから。
 
ピンポーン
 
「おじゃましま〜す」
「いらっしゃい」
「ただい」
「ケントくんはこっちからよ」
自分の家に入ろうとするケントをアオイは止め、そのすぐ隣にある窓を指さす。子供がやっと一人通れるくらいの大きさである。
「なんで・・・?」
「普通に入っちゃおもしろくないでしょ」
(何でサンタは普通に入ってるんだ・・・!)
靴を脱いで家に上がるサンタの隣で、トナカイは頑張って窓からの進入を試みた。少し眼から汗が出そうになりながら。
 
 
 
「おかえりなさい」
「ただいま〜」
息子の姿に、ナツコはため息を付いた。
「別に、ただ枕元にプレゼント置くだけで良いのに・・・」
本当はケントがサンタをやる必要だってない。別に私がただ枕元に置いてくればいいだけなのに。そもそも、それくらいならここでコーヒーを飲んでいる人にだってできる。
「いやいや、やっぱり男としてはやる時は徹底的にやらないとな」
夫の言葉に、ナツコはため息をついた。
 
 
 
「それじゃ、作戦開始〜」
「作戦なんてあったっけ?」
「良いから行って」
ドン
アオイに背中を押され、ケントはカイトが眠る部屋へと足を踏み入れた。
(前にもこんな事無かったっけ?)既視感 by.クリスマスパーティー
(そ〜っと、そ〜っと)
ケントは忍び足でカイトが眠る布団へと近づいていく。
カイトは熟睡しているようで、そのことには気づかない。
(よし、いいぞ)
 
真っ赤なお鼻の〜、トナカイさんが〜
 
ダダダダダ
小さな音で全力疾走。
「ケントくん、器用ね〜」
アオイが感心している。
「じゃなくって、何だよそれは!」
ビシ!
ケントはアオイが手に持つものを指さす。
「何って・・・」
アオイはそれを持ち上げ、ケントの目の高さまで持ってくる。
「分からないの?」
アオイは本当に不思議そうに首を傾げる。
「いや、そうじゃなくって・・・」
アオイが手に持つものは、100年前で言えばラジカセ、まあとにかく音が出るものである。
だが、問題はそこではない。
「なんで、大きい音流すの!?カイト起きちゃうじゃん」
問題はここである。
「効果音」
あくまでにっこり。
「効果音なんて、別にいらないよ」
「そんな・・・・・・」
アオイの笑顔が曇ってしまった。
「あ、いや、その・・・うん。効果音必要だよね」
「じゃ、」
 
今日もみんなの〜、笑い者〜
 
「う〜ん」
(ああ!カイトが!)
ケント危機一髪。
「サンタさ〜ん」
むにゃむにゃ。
カイトは寝返りを打っただけで、また深い眠りへと落ちていった。
(よかった〜)
ケントがほっと胸をなで下ろしている後ろでも、いまだ音楽は続いていた。
「さ、ケントくん。行って来て」
「は〜い」
カイトが起きそうにないことを確認すると、ケントは再びカイトの部屋へと足を踏み入れた。
(そ〜っと、そ〜っと)
ケントは無事カイトの枕元へと辿り着いた。
そして、プレゼントを置こうとしたら、
(あれ?)
手は空をつかんだ。
(ない!?)
ケントはプレゼントをどうしたかを必死で思いだした。そして出た結果は
(まだ、オレの部屋の机の上に置きっぱなしだ!)
だった。最初から持ってきてないのである。
 
ダダダダダ
 
ケントは再び小さな音で全力疾走という器用なことをやってのけた。
「ケントくん、すご〜い」
そしてアオイも再び感心した。
 
ダダダダダ
 
「よし、今度こそ」
カイトへのプレゼントを手にし、ケントは三度カイトの部屋に足を踏み入れた。
 
あわてん坊の〜、サンタクロース〜
 
アオイの手に持つものから流れる曲は、いつのまにか変わっていた。だがその音楽は既にBGMとしてこの場にとけ込んでおり、ケントはそのことに気づくことはなかった。
(そ〜っと、そ〜っと)
そろりそろりと足を動かしていく。
「ケントく〜ん」
「え?」
カイトまで後少しというところで呼ばれて、振り向くとアオイが手招きしている。
「何?」
「いいから」
アオイの手はなおもケントを招いている。
ケントはとりあえずプレゼントを置いてから、アオイの元へ向かおうと思った。
だが、それはアオイの急かせる言葉により、不可能となった。
「早く!」
ケントが渋々アオイの元へ戻ると、アオイは先程から持っていたものをいつのまにか床に置いており、代わりにケントの手の中のものを持った。
「これ貸してね」
「へ?」
 
テテテテテ
 
「はい、カイトくん。メリークリスマス」
サンタからの贈り物は、アオイの手により無事にカイトへと届けられた。
 
テテテテテ
 
「アオイちゃん・・・」
空になった自分の手の中と、カイトの枕元にあるプレゼント、そして目の前にいるアオイをケントは順に見つめる。
「だって、プレゼントをあげるのはサンタさんでしょ?」
にっこりと、サンタ姿のアオイは微笑む。
(じゃぁ、オレの苦労は・・・?)
トナカイ姿のケントは、自分の今までしたことを思い出し、遠くを見つめた。
「じゃ、早くしないとクリスマス終わっちゃうから、私帰るね」
「あっ、アオイちゃん」
ケントが引き留める間もなく、アオイは結城宅の玄関へと走っていってしまう。
そしてすぐに、アオイの”おじゃましました”という声と、ドアが開き、そして閉まる音が聞こえる。
「何だったんだろ・・・」
プレゼントを無事受け取った少年の寝顔を見ながら、サンタクロースの少女を想い、トナカイの少年はぽつりと呟いた。
 
さよなら〜、シャラランラン〜
 
アオイが忘れていった、百年前で言えばラジカセのようなものからは、いまだ音楽が流れていた。
「う〜ん。サンタさ〜ん」
カイトは幸せそうに眠っている。
 
 
 
「思ったより早かったな?」
車に乗り込むアオイに、有栖川博士はそう尋ねる。
「だって、今日はクリスマスだもの」
おじいちゃんと一緒に過ごしたい。
「そうか」
アオイとその祖父は、一度笑い合うと、そのまま家路を急いだ。
 
 
 
ジングルベ〜ル、ジングルベ〜ル、メ〜リ〜クリ〜スマ〜ス
 
 
 
 
 
翌日。
「ああっ!そういえばオレのクリスマスプレゼントどうなったんだ!?」
サンクロースタからプレゼントをもらい損ねた少年がここに一人。
 
 
 
 

Merry X'mas


 
 



オチが・・・・・
クリスマスだから、アオイちゃんと有栖川博士の書きたくて・・・中途半端になりました・・・・・・