12月24日。
町中がクリスマス一色に染まっている。それはここ、ダイバーランドのコミュニティーセンター——ケント達の学校でも同じだった。
教室の中は赤と緑の飾りで華やかに飾り付けられている。年少組と一部の上級生が作ったぐしゃぐしゃになってしまった輪っかや、女子が作ったと思われるきれいな輪っかが天井につるされ、いつもなら落書きばかりの机にも今日はテーブルクロスをひいてある。
何より目を引くのは教室の真ん中にある大きな樅の木。教室の中に入れるのにずいぶん苦労するほどで、今は明かりが灯っていたり、靴下やサンタクロースの人形がつるされている。てっぺんには大きな星の飾り。
今日はクリスマス。よい子にサンタがプレゼントをくれる日。
 
 
「メリークリスマス」
メリークリスマス。
ケントの声を始まりに、みんなも近くにいる人に向かってクリスマスならではの言葉を次々と言い出した。
クリスマス。キリストの生まれた日。そんなことはここにいる子供達には関係なかったけど、サンタが来る日、プレゼントが貰える日、何かよくわかんないけどとりあえずめでたい日、とそれぞれ本当に嬉しそうに口々に言い出す。
(若い(←幼い)っていいね・・・)
そんな生徒達を見て大原先生がこう思ったかどうかは不明である。
テーブルの上にあるクリスマスケーキと料理を美味しそうに食べていたり、話し込んだりなどそれぞれがしている中、年長組の者達が教室の隅の方へとだんだんと集まり始めた。
「それで、あの用意は・・・」
「バッチリだよ・・・」
年少組に気づかれぬようこっそりと、何事かを話し合っている。自分たちに気づく者がいてはいけないと、年少組に料理を盛んに勧める物も何人かいる。とても不自然に、なのだけれど目の前の料理に目を輝かせている子供達にはそれで十分通じているようだった。
そんな苦労が報われ、元から気づいている者を除けば、秘密の相談は秘密のまま続いていた。
「それじゃ、これから・・・」
「うん。ケントくん・・・・・・・・・・・・はドコ・・・?」
本来そこにいるはずの者を探してアオイが首を一週巡らせた。元の方向に顔が戻ってきたときには、その顔には可愛らしい笑顔とはっきりと見て取れる怒りのマークがあった。
「ナオキくんもいない!」
秘密の相談に関わっているのは4年生以上の者。6年生の親王兄弟、ヒナ、5年生のショウ、コウジ、トウカ、4年生のケント、ナオキ、キョウイチ、アオイである。その内、コウジとトウカは年少組の目を逸らす役割のためここにはいない。
なので本来なら8人ここにいるはずなのだが・・・・・・二人足りなかった。
「あっ!あんなとこに」
ヒナが二人を発見した。みんながその声に一斉にその方向を向くと
「ナオキ!どっちがたくさん食べられるか勝負だ!」
「おう!まっ、もちろんオレが勝つに決まってるケドな」
「なんだとー!!」
そこにはまたも百番勝負をしている二人と、それを応援する二人の弟妹の姿があった。ナオキの妹のユカリはまだ幼稚園児なので、本来ならここにいるはずではないのだが、今日はクリスマスパーティーということで特別小学生達に混ざっているのだった。
そんな二人を見付け、二人らしいと諦め半分の苦笑を浮かべている者や、二人の首根っこをつかんで引きずってきてやろうかと思っている者、今にも二人の元へ飛んでいって怒鳴りだしそうな者など、様々な反応を示していたのだが、その中ですぐに行動に移し、なおかつ影響力絶大なのは一人だった。
「ケ・ン・ト・くんv」
「え?」
まず最初はケントだった。
「ナ・オ・キ・くんv」
「ん?」
次はナオキだった。
アオイ女王様とケント・ナオキの間に何があったのか・・・・・・・それは・・・・・・・・・・貴女のご想像にお任せします。
 
 
「それじゃ、予定通りに」
「うん」
ショウの言葉にみんなが返事をし、秘密の相談は終わりを迎える。それぞれ教室のあちこちへと散らばって行き、残っているのはケント、ナオキ、ショウ、アオイの4人だけとなった。
「ケントくんたち・・・・・・大丈夫?」
「・・・・・・・・・」
隅っこで膝を抱えて丸くなりながら暗くなっているケントとナオキを見かねて、ショウが声をかけたのだが返事はなかった。
「自業自得よ」
いまだ怒りの色が見えるアオイは、腕を組んでケント達から顔を逸らす。
なにやら想い空気が流れ始めたのでショウは話題を変えることにした。と言ってもこちらが元々本題なのだが。
「あのさ、そろそろ準備を始めないと。もう時間が」
「あっ!そうだった」
ケントは今までの暗さは何処へやら、何処かへと走り去っていってしまった。
「元気だね・・・・・」
「そうだな」
ショウは呆然とケントが走り去っていった方向を見つめた。
ナオキもケントのように一気に回復したわけではないが、既に立ち上がって準備を始めようとしている。
アオイもケントの後をゆっくりと追っていた。
ショウもみんなが自分の役目を忘れていないことを確認したら、自分に当てられている役割の準備を始めた。
 
 
太陽が高くにある時に始まったクリスマスパーティーは、日が下がって行くにつれ終わりに近づいていった。
「もう終わっちゃうの」
「まだやりたいよね」
カイトたち年少組が不満の声を上げているのに対し、年長組は全然残念そうな感じは見られない。
それよりも、今から自分たちがすることの方に気が向いている。
「あっ!見てみて」
「雪だ」
窓から見える景色には確かに白いものが混じっている。
窓の周りに子供達が集まる。
「ねえ、外出てみようよ」
「うん」
「外は寒いからダメだよ」
「そうそう」
外に行こうとするカイト達の前に、トモユキが立ちふさがった。
トウカも同じようにミヨ達を止めている。
トモユキ達は、カイトたちを外に出させるわけには行かない。そうすれば雪が冷たくないことに気づいてしまうから。
それでは屋上で紙吹雪を降らせているキョウイチとコウジの意味がない。寒い中頑張っているのにそれではかわいそうだ。何より自分たちが頑張って紙吹雪を作った意味が無い。大量に作ったのでずいぶん苦労したのだ。
トモヤ、トモユキ、ヒナ、トウカの4人はみんなが雪が偽物だとばれないように努めた。
3年生の女の子たちなどは、最初から上級生達が自分たちのために何かをしているということが分かっているので、ほっといても大丈夫だった。
だが、カイトやミヨなどの小さい子はすぐに外へ飛び出そうとするので見張っていなければならない。雪が本物だと思わせなければならない。
トモユキたちが頑張っている中、教室の入り口に人影が現れた。
「メリークリスマス」
赤い服に赤い帽子、あごには立派な白いひげ。大きな袋を背負っている。その姿はまさに
「サンタさん!」
であった。
子供達は雪のことなど忘れて、サンタに駆け寄る。
駆け寄ってきた子供達に、サンタは袋の中からプレゼントをとりだして渡す。それに喜んではしゃぎ回る子もいれば、サンタに顔を赤くする子もいる。
笑顔を浮かべながらプレゼントを配るサンタは、年少組に比べれば大きいのだが、実際にはトモヤなどと比べてみれば10㎝ぐらいは低い。
それもそのハズ、帽子の下にある髪は銀色で、ひげの下にあるのはつり上がり気味の眼をしている、女の子の子に人気がある顔——ショウなのだから。
身長のことがばれないよう、年長組はあまりサンタに近づかないようにする。
本当は背の高い親王ブラザーズのどちらかがサンタの役をするはずだったのだが、トモヤは明らかに嫌な顔をし、トモユキもしっかりできる自信がないと辞退してしまい、次に背の高いヒナは女子の数が少ないこともあって他の役の方がよかったので、その次に背の高いショウがやることになったのだった。
「あれ?これボクが頼んだやつじゃない」
「わたしも」
自分たちがサンタからもらったものが、それぞれ頼んだものではないという声があがり始めた。
「それはね、ボ・・・わしはダイバーランドの小学校にいる子供達にプレゼントをあげてくれと言われてきたからだよ。一人ずつには別に頼まれているから、明日の朝を楽しみにしておいで。その時枕元におかれているものは、きっとみんなが頼んだものだから」
サンタの言葉に、子供達は顔を輝かせた。
だが、一人浮かない顔の少女もいる。ショウはそれを見付け、声をかける。
「どうかしたの?ユカリちゃん」
「私の名前・・・」
「もちろん分かるよ。わしはサンタだもの」
それより・・・。
ショウは眼でやさしく問いかける。言いにくそうにしていたユカリは、とまどいつつも話し始める。
「・・・あの、私まだ小学生じゃないけど・・・それでもプレゼントもらっていいの?これ、返さなくちゃいけないんじゃ・・・・・・」
「いいんだよ。それはユカリちゃんがもらって。サンタはよい子にプレゼントをあげるんだから、ユカリちゃんみたいな良い子にはプレゼントをあげなきゃ」
差し出してきたプレゼントを、ショウはそっと押し返す。笑顔も付けて。
それにユカリは他のこと同じように笑顔になった。
(若い(←幼い)っていいな・・・)
大原先生がこう思ったかどうか、というよりこの場にいるかどうかは謎である。
 
 
(この格好、結構暑いな・・・)
十分に暖まっている室内では、サンタのもこもこした服は暑すぎた。ショウは汗をかいてきた。早く脱ぎたい衝動に駆られるのだが、周りに眼をキラキラ輝かせている子供達がいては、それはかなわなかった。
(遅いな?)
ショウはなかなか姿を現さない人たちがいるであろう教室の入り口辺りの壁を見る。
だが、カイト達に服を引っ張られたことにより、それはすぐに止めた。
 
 
(おい、早く行けよ)
(お前こそ早く行けよ)
(なんだと!お前が先行け)
(お前が行け!)
((・・・・・・・・・・))
(早く行きなさい!!)
ドンッ
二匹のトナカイが突然教室の中に姿を現した。重なって倒れるような形で。
ショウはその姿を見て額に手を当てる。
「いって〜」
「早くどけバカ」
「誰がバカだ」
トナカイたちがケンカをしている。子供達はそれを興味深そうに見つめているのだが、トナカイ——もとい、トナカイのぬいぐるみを来たケントとナオキはそれに気づくことはなかった。
言い合いはそのままエスカレートしていく。
「勝負だ!」
「おう。百番ショウ」
「いいかげんにしなさぁ〜い!」
それを止めたのはアオイ女王様だった。
耳元で叫ばれた大声にケント達は喧嘩を止めて静かになる。
そしてご立腹の様子のアオイ女王様と、自分たちに向けられる好奇の視線に気づく。
「・・・や、やあ、みんな良い子かい!?」
ケントは無理矢理場を取り繕おうとする。
「何か兄ちゃんたちみたい」
「ホント〜」
カイトとユカリの言葉にケントとナオキは固まる。
「あ、あはははは。そっか〜、似てるのか、アハハハハ〜」
「あはははは」
二人は笑ってごまかしておいた。
 
 
一時は危うかったケント達も何とか”トナカイ”ということになり、そのままショウはサンタとして、ケントとナオキはトナカイとして残り少ないクリスマスパーティーを過ごした。
カイトやユカリはやはり”兄”だからか、ケント・ナオキトナカイになついていた。
「それじゃ、この辺でボ・・・わしたちは帰るね」
「え〜〜」
サンタがもう帰る旨を伝えると、不満の声があちこちから挙がった。
ショウが女の子の輪から抜け出そうとすると、別れを惜しむ子が帽子やひげなどを引っ張り、取れそうになってしまった。
ケントももみくちゃにされている。
「もうちょっと・・・」
「ごめんな。それはできないんだ」
ユカリがナオキトナカイの袖をつかんでなかなか離してくれない
「また来年くるよ」
「絶対だよ。また来てね」
「ああ」
ユカリは手をそっと開いて、ナオキトナカイは帰っていった。
 
 
「あっ!兄ちゃんどこいってたの?せっかくサンタさん来てたのに」
ケント達が着替えて教室に戻ると、カイトがその姿を見付け走り寄ってきた。ナオキもユカリに同じようなことを言われている。
「来てたんだ。よかったな〜、会えて」
「うん。兄ちゃんも会えればよかったのに・・・」
「だいじょーぶだよ。また来年も来るからその時合えば」
暗くなるカイトにケントはにかっと笑って言う。それにカイトは嬉しそうに顔をほころばせる。
 
 
「兄ちゃん。雪また降り始めたよ」
「ん、ああ」
窓の外は未だに白い雪が降り続けていた。
(キョウイチ達まだやってたのか。がんばってんな)
ケントがそんなことを思いつつ外を眺めていたら、同じように外を眺めている、窓辺に立つキョウイチとコウジを見付けた。
その姿に驚き、ケントは二人に駆け寄る。
「お前達、何でここにいるんだよ!」
「あんな寒いとこにずっといられる分けないだろ」
ケントの言葉にキョウイチは顔を不満そうに曇らせる。
「じゃ、この雪・・・」
「本物だな」
これじゃ、僕達寒い思いした意味無いじゃんか。
キョウイチのそんな言葉は耳にはいらず、ケントは窓の外の雪を見つめ続けた。
(ま、せっかくのクリスマスだし)
 
 
(若い(←幼い)っていいよな・・・)
大原先生がこう思ったかどうか、というより何処にいるのかは謎である。
 
 

Merry X'mas


 
 



2100年12月24日。昼。夜はその内に・・・
目指すはほのぼの。・・・・・何だけどよく分からないものに
このために公式サイト行って年齢と身長調べました。間違えてないよな・・・・・・
女の子は性格分かりません。というよりほとんどのキャラ分かりません(←ダメじゃん)