とある冬の日。
デリトロスエリアにて。
 
その日は、
ガシャーンッッ
朝からうるさかった。
 
「どうしたの!大丈夫!?」
何か物が割れるような音を聞きつけたショウが、その音が発せられたと思う部屋へと駆けつけると、
「〜〜〜・・・・・・」
カイトが床にうつぶせに倒れており、その周りには割れたお皿の破片が散らばっていた。
幸いにも皿の破片はカイトが倒れている場所には落ちている様子はなく、一番近い物でも、その体より頭一つ分ほど離れた場所に落ちているようだった。
「カイトくん、怪我はない?大丈夫?」
ショウが倒れているカイトの体を起こして上を向かせると、わずかにカイトの眼が開いた。
しばらく焦点が定まらずその視線はぼんやりしていたが、やがて段々とはっきりしてきて、間近にあるショウの顔へとその焦点は定まった。
「あ、ショウさん・・・!」
ぼんやりとショウの名を言ったかと思ったら、その次の瞬間、驚いたようにいくらか目を見開き、すぐにカイトの体を支えていたショウの腕を離れて、勢いよく立ち上がった。
「・・・大丈夫?」
カイトの態度に驚きつつも、ショウはそう問いかけ、カイトの体に傷がないか確かめた。
「うん!大丈夫だよ!ショウさん」
カイトは笑顔で元気に返事をし、大きく腕を振り回している。その姿には怪我した様子など微塵もなく、健康そのものだ。
「そっか、それならよかった」
「うん!」
元気そうなカイトの様子に、ショウは安心する。
カイトが平気だと分かると、ショウの意識は別の方へと向いてきた。
ちらりと、ショウは視線をカイトが倒れていた先へと向ける。
そこには、大量のお皿が割れた跡があった。
「いったいどうしたの?こんなにたくさんのお皿?」
「えっっ!」
カイトは固まってしまった。
ショウの疑問は至極もっともなことで、ここデリトロスエリアで皿を使って食事をするのは、ショウたち6人の少年少女だけである。
こんなに大量のお皿など必要ない。
「え〜と、あの、これは・・・」
「?」
カイトの返事ははっきりしない。
助けを求めるかのように周りを見回す。
「カイトく〜ん」
「何!?アオイちゃん!」
タイミング良く聞こえてきたアオイのカイトを呼ぶ声に、嬉々として声が聞こえてきた方向へと駆けていってしまう。
一人お皿の破片の中に取り残されたショウは、
「どうしたんだろ?」
そうぽつりと呟いた後、周りのお皿を見回して、自分がこれを一人で片づけるのかと思い憂鬱になるのだった。
 
 
◆◇◆
 
 
バシャーンッッ
 
「どうしたの!?大丈夫!」
大量の水がこぼれるような音が聞こえて、ショウがその音が聞こえたと思われる場所へと駆けつけると、
「〜〜〜・・・・・・」
びしょぬれになったケントが床に座り込んでいた。
すぐ側に大きなたらいと、ショウ達の洗濯物が落ちている。幸いそこは外だったので、濡れた地面を気にする必要はなかった。
「こんなに急いで一気にやらなくても、ゆっくりやればいいのに」
水を滴らせているケントにタオルをかけてやり、ショウはそう言った。
「アリガト」
ケントはタオルを受け取って、まず顔をふいた後、頭をふいた。
「何か急ぐ用事でもあったの?」
落ちていた洗濯物は、普段なら数回に分けて行うぐらいのモノだった。
「え、あ、ううん。別に何も・・・」
「?」
ケントはとたんにショウから目をそらし、明後日の方向を向いてしまう。
「え、え〜とちょっと急いでやってみよっかなって思っただけで・・・」
ケントの返事ははっきりしない。
視線があちこちさまよっている。
「ケントく〜ん」
「あ、アオイちゃんが呼んでる。行かなきゃ!」
タイミング良く聞こえてきたアオイのケントを呼ぶ声に、嬉々として声が聞こえてきた方向へと駆けていってしまう。
ケントの頭に載っていたタオルが、走っていくケントの後ろ姿からはらりと落ちるのが見えた。
一人濡れた地面の上に、汚れてしまった洗濯物と一緒に取り残されたショウは、
「どうしたんだろ?」
そうぽつりと呟いた後、周りの洗濯物を見回して、自分がこれを一人で洗濯しなければならないのかと思い憂鬱になるのだった。
 
 
◆◇◆
 
 
ドカーンッッ
 
「どうしたの!大丈夫!?」
何かが爆発したような音を聞きつけたショウが、その音が発せられたと思う部屋へと駆けつけると、
「〜〜〜・・・・・・」
真っ黒になったナオキが煙と火花を出しているパソコンの前に座っていた。
「だ、大丈夫・・・?ナオキくん」
「なんとか・・・」
真っ黒なままナオキが答える。
その声を聞く限りでは、大丈夫そうだった。ショウは少し安堵する。見た目程ひどくはないようだ。
「こういうことはボクとアオイちゃんに任せてって言ったのに・・・」
いまだ煙を出し続けているパソコンをショウは見る。
人には向き不向きがある。コンピュータ関連に得意なのはアオイとショウだ。ナオキむしろ苦手な部類に入る。
「ナオキくんはナオキくんが得意なことをすれば良いんだよ」
「ああ・・・」
ナオキが少し落ち込んだ様子で答える。
「でも、どうしていきなり?」
今までナオキはコンピュータに触ろうとしなかったので、ショウはふと疑問に思って尋ねただけだった。
だが、
「え!あ、いや、なんでも・・・」
「?」
ナオキの反応は顕著だった。いきなり慌て出す。
「あ〜その、うん、まあ、たまにはやってみよっかな〜っていうか・・・」
ナオキの返事ははっきりしない。
立ち上がって部屋の中を歩き回りながらしゃべっている。
「ナオキく〜ん」
「お〜!」
タイミング良く聞こえてきたアオイのナオキを呼ぶ声に、嬉々として声が聞こえてきた方向へと駆けていってしまう。
真っ黒になってしまった部屋の中に一人取り残されたショウは、
「どうしたんだろ?」
そうぽつりと呟いた後、煙を出しているパソコンを見つめて、自分がこれを直さなければならないのかと思い憂鬱になるのだった。
 
 
◆◇◆
 
 
「ご飯できたよ〜」
 
ジャンの昼飯を告げる声に、ショウはいつもご飯を食べている場所へと行った。
それぞれの器にお昼ご飯を装って渡してくれるジャンから、ショウも自分の分を受け取った。
朝にいろいろあったせいで、ショウのお腹はペコペコだった。
「うっっ!」
だが、中身を見た瞬間、ショウは固まってしまった。
ジャンが自分の好き嫌いを直すために、こっそりすり下ろしたモノを混ぜたりしていることには気づいていた。
いささか抵抗はあるものの、それは自分のためを思ってやってくれていることで、ありがたいとさえ思っていた。
だが・・・
「あれ?ジャン、これ・・・?」
何も言えないショウの代わりであるかのように、ケントが疑問を口にしてくれた。
「え?・・・あ!ゴメン!!ショウ!!」
ショウは見事人参だらけの器を持って、これをどうするべきか迷っていた。
器の中は橙色一色だった。
「ゴメン、うっかりしてたよ。今すぐ作り直すね!」
「え、あ、いいよ。大丈夫だよ。これを食べるから」
「でも・・・」
ジャンは心配そうにショウを見る。
ショウはそれに何とか笑顔を返す。
まだジャンは心配だったが、ショウはそれを無視して、自分の場所に座って黙々と人参を食べ始めた。
ショウは少し泣きたくなりながら、頑張って人参を食べ尽くした。
 
 
◆◇◆
 
 
「ショウさ〜ん」
 
アオイの自分を呼ぶ声に、ショウは声が聞こえたと思われる場所へと駆けていく。
「どうしたの?」
ショウがその部屋へ辿り着くと、そこにはアオイの他にも、ケント、ナオキ、ジャン、カイト、カロンがいた。
全員集合のその図に、ショウが訝しむ間はなかった。
 
パーンッッ
 
「お誕生日おめでと〜、ショウさん!」
突然ならされたクラッカーに、ショウは眼をパチパチさせる。
「たん、じょうび・・・?」
「そっ!誕生日」
驚いているショウの言葉に、ケントが相づちをいれる。
そういえば・・・、とショウは想いをはせる。こっちに来てからは、今日が何日かなんて気にしていなかった。でも、考えてみれば経過した日数からいって、今日は2月4日、ショウの誕生日のハズだ。
「そっか・・・。ありがと、みんな」
みんなの心遣いに、ショウはうれしくなる。
見れば、部屋の中はキレイに飾り付けられている。
そして、奥のテーブルの上にはごちそうが所狭しと並べられている。しかも人参は見当たらない。
ふと、ショウは今朝あったことを思い出す。
つまり・・・カイトがお皿を運ぼうとしていたのは、このごちそうをのせるため。ケントが洗濯を急いでいたのは、部屋の飾り付けなどの準備があったから。ナオキがパソコンをいじっていたのは、ショウの負担を軽くしてあげようと思ってやった誕生日プレゼントだったのだろう。
そして、今日の昼ご飯が人参一色だったのは、ジャンがごちそうを作るのに気を取られるあまり、適当に残り物で作ったら、使わなくて余っていた人参ばかりになってしまったからのようだった。
「ほらほら、早くこっち、ショウさん」
入り口に突っ立ったままだったショウの手を、カイトが奥へと引っ張る。
みんながいる奥へと。
ふわりと、暖かな雰囲気に包まれた気がした。
 
こんな誕生日も、いいかな
 
ショウは顔をほころばせた。
 
 
 
 
 


あれ?確かショウさんのハッピーなお誕生日会を書こうとしていたハズなんだけど・・・?
前振りばっか長くて、肝心の会の内容がない・・・力つきました・・・
遅すぎだけど、ハッピーバースディ ショウさんvv

 

帰る