ここは平安の世。江戸時代である。現代では群馬と呼ばれているこの場所に、 立派なお城があったという。お城の名前は「高橋城」といったそうな。 物語は、この「高橋城」を中心としたお話でございます。 ■ ACT1 ■ 「殿、弟君のお姿が見えませぬ。」 下っ端の若者が、襖ごしに控えて告げた。 「まったく、啓介殿にも困ったものですな。」 渋い茶色の着物を着た家老が、少々あきれ気味にぼやいた。 「殿、こう何度も続くようでは困りますぞ。どう致すおつもりか?」 すると、けして派手ではないが、高価な着物を着た若者が、 整った口元をフッ・・と、軽く緩ませた。 「しょうがないな。啓介は。きつく言い聞かせておかねばな・・」 「殿!も少しキチンとしていただかねば・・・」 「わかった、わかった。史浩。そううるさく言うな。」 軽く手を挙げて、家老を制すと、殿=涼介は自室へ行ってしまった。 「高橋城」の若い城主は、年少の折に、父君が戦死なされたため、 少年の頃から、城主として、また、幼い弟、啓介や、乳兄弟の史浩と共に、 城を守ってきたのである。そのため、弟への愛情も並々ならぬほど強いのも、 無理からぬことではあった。 おかげで、23歳という年齢にもなるのに、未だにお世継ぎの一人も 誕生していない。城内では、目下、若く美しい殿の奥方・お世継ぎを、 という声が高い今日この頃なのである。 (殿にも困ったものだ・・・) 家老である史浩は、やれやれ、と、重たそうに腰を上げると、 ( まだ一応23歳である)下座に控えていた若者に、 「いつも通りに・・・・行ってくれ。」 ため息とともに、告げた。 「はっ。かしこまりました。」 心得た若者が、弟ぎみを探しに行ったというのは言うまでもない。 その頃、弟君は・・・・。 「ずいぶん金使っちまったな・・・オレもう金ねーや、何時だ今?」 高価な(しかも派手)着物をシャレた風に着こなした、これまた 高橋城城主・高橋涼介によく似た美しい面差しの若者が、 (・・と言っても、印象は大分違う。)タバコを吸いながら問いかけた。 「もうすぐ**の刻です」 明らかにお付きの者的口調の若者が答える。 「よっしゃ、ボチボチひきあげだ」 賭博小屋から出て、啓介が帰ろうとしたときのことであった。 薄暗闇のため、顔はよく見えなかったが、ほっそりとした、 男とも女とも分からぬシルエットがカラになった荷車を ひいて通り過ぎていった。 何かは分からないのだが、引きつけられるように、啓介は そのシルエットを追おうとしたのだが、見失ってしまった。 (・・・何者だ!?暗くてわかんねぇな・・。身のこなしがタダ者じゃねぇ。) その人物が、後に兄の涼介をも巻き込む騒動のモトとなるとは知らずに、 啓介は、得体の知れない”予感 ”に駆られていた。 もどる 【2】へ |