朝 


ピピピピピピピ・・・・・・

「・・・んーー。ウルセーなァ・・」

布団の中から啓介がもぞもぞと片手を出して、目覚まし時計を止めた。
再び啓介はぐっすりと寝たまま2時間は目を覚まさなかった。


「啓ちゃん!起きなさい!!大学に遅れるわよ!!」
下の階から母親の怒鳴り声が聞こえて、ようやく目を覚ました。
「・・・・あれ・・?今何時だ・・?」
目をゴシゴシとこすって、自分の目覚まし時計を見た。

「・・・・嘘だろっ!!」

予想外の時間に啓介は急いで身支度を整えて、洗面所へと向かった。
(あーーあ。今日もまた寝坊しちまった・・・)

あまりにもだらしがない自分にいささかガッカリしながら、顔を洗った。
鏡に映っているのは寝起きで、せっかくの2枚目が台無しの
自分の姿であった。

キッチンへ行くと、
「啓ちゃん、今日も寝坊?お兄ちゃんはとっくに大学に行ったわよ」
ぶちぶちと毎朝繰り返される母親の小言を聞かされて、 啓介はますますウンザリする。

「ウルセーな。自分こそ早く仕事に行けよ!」
ムカッとして、つい母親に怒鳴ってしまった。

「啓ちゃん?寝坊しといてよくそんなデカい口がたたけるわね?」

(・・・・ヤベ・・・)
怒らせたら敵なしの母親を怒らせてしまって、啓介は
急いでパンを口にくわえた。

「じゃ、行ってくる!」
朝ご飯もちゃんと食べないまま啓介は急いで家を出た。
後ろからうるさく言う母親の声を振り切るようにして、FDに乗り込む。

FDを運転しながら啓介はひたすら後悔していた。
(・・今日こそ早起きして秋名に行くつもりだったのに・・・)

秋名に行って、アイツに会う、会って自分の気持ちを伝えよう。
・・そう思って早起きをしようと思っているのに、
緊張して、夜なかなか寝付けないのだ。(・・そこが啓介なのであるが・・)


(今日こそは絶対早起きしてやる!!)
大学で散々(授業中)寝てきたので、気分はスッキリの啓介である。

目覚ましを家にある分すべてかき集めて、走りにいくのもパスして、
夜12時から、早起きするためにベッドに入った。


ピピピピピピピピ・・・・・・
リリリリリリリリリリリ・・・・・・・・・
ジリジリジリジリジリ・・・・・・・
ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピピッ、・・・・
ウーーーーーーー、ウーーーーーーー、
・・・・・・・・・・


高橋家の早朝は、啓介の部屋の目覚し時計で始まった。
堪らず、涼介が目を覚まして、啓介の部屋へ向かった。

「啓介。うるさいゾ。早く何とかしねェか」
ただでさえ少ない睡眠時間を削られて、涼介はちょっと不機嫌であった
加えて、自分が目を覚ましたというのに、目覚ましを仕掛けた張本人は
ぐっすりと寝ているのがさらに不機嫌に拍車をかける。

「啓介!!起きろ!!」
啓介に怒鳴りながら、涼介は手早く大量の目覚ましを止めた。
「・・んー・・・?アニキ?何だよ?」
やっと目を覚ました啓介が布団から顔を出した。

「ようやくお目覚めか?啓介」
ニッコリ笑って、涼介は言った。(しかし目が怒っている)
「・・・なんでアニキがココにいンだ?」
まだ寝ぼけ顔の啓介がボケーっと、聞いた。
すっかり目が覚めてしまった涼介は、怒りを通り越してあきれてしまった。


「啓介・・・これではいつまで経っても秋名に行けないぞ・」
その言葉にハッ!と、啓介が目を見張った。
「!!そうだ!俺、今日こそは秋名に行こうと思ってたんだ!!」
「・・・だったら、早く目覚ましの音に気づくんだな・・・」
「ゴメンな、アニキ!俺、行かねェと!!!」
涼介のちょっとトゲのある言葉に啓介は気づかぬまま、
あっという間に家を出た。


啓介が行ってしまうと、涼介はほっ、として、アクビをした。
(・・・あまり時間もないが、もう一眠りするか・・)
と、自分の部屋に戻ろうとしたときだった。


ピピピピピピピピ・・・・・・
リリリリリリリリリリリ・・・・・・・・・
ジリジリジリジリジリ・・・・・・・
ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピピッ、・・・・
ウーーーーーーー、ウーーーーーーー、
・・・・・・・・・・


一斉に目覚まし時計が鳴り出した。
珍しく、啓介が、(念入りに)時間が経ってから再び鳴る
ように目覚まし時計を設定していたのだ。

涼介は、グッタリとして、再び目覚まし時計の
設定を解除しにかかったのだった・・・。


その頃、秋名では・・・・・・
「藤原!待ってたぜ!!」
ようやく念願の「秋名で待ち伏せ」を果たした啓介が
ニコニコと拓海に話し掛けた。

しかし、
(・・・俺、早く帰って寝たいのに、何でこの人いるんだ?)
内心あまり嬉しく思ってはいなかったのである・・。

「藤原!!」

「何ですか?・・・俺、今日はもう帰らないといけないんですけど・・」

その言葉に、啓介はガクッ、とうなだれた。



啓介の前途は多難である・・・・。


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