どこでもいっしょ 



”公道で負ける時が来たら・・・オレは引退する。”

藤原拓海とのバトルの前に、高橋涼介が漏らした言葉だった。

その言葉通り、涼介は本当に走りやをやめてしまったのであった。



「拓海。お帰り。」

涼介が可憐な笑顔で配達帰りの拓海を出迎えた。

「涼介さん。いつも寝てていい、って言ってるじゃないですか。」

と言いながらも拓海は嬉しそうだ。

「いや、少しでも長く拓海と居たいから・・・」

「涼介さん・・・」

藤原豆腐店の前では毎日このアツアツな光景が繰り広げられていた。

抱き合った二人の様子は見ている方が恥ずかしい。



何故こんな事態になってしまったのか、

1週間前のことである。





「拓海。オレはお前のドライビングテクニックに惚れた。」

「そして、テクニックも含めてお前にオレの人生を賭けたい。」

普段クールな涼介から迸る熱意に、拓海はただただ顔を紅潮させて

うなずくだけであった。

(ホントに近くで見るとカッコイイ・・・・)

なんてコトを考えながら拓海はボーっと涼介の顔に魅入られていた。

「・・・というコトなんだが、OKしてくれるか?」

気がついた時にはもう涼介の熱弁は終わっていて、

何やら期待に目を輝かせて拓海を見つめているではないか。

(・・・どうしよう・・・聞いてなかったなんて言えない・・)

YESかNOか、涼介は返事をすぐ聞きたいらしい。

これには拓海も困った。

(カッコイイからいっか・・・)

とにかくOKしておこう、と拓海がうなずいた。





それからは、トントン拍子に話が進み、

気がつけば拓海は涼介と並んで親父の前で正座をしていた。



「息子さんと一緒にさせてください。」



真剣な涼介がとてもカッコイイ。

「親父・・・」

拓海は目で訴える。

「いいぜ。」

あっさりとした返事である。

「親父、本当にいいのか?」

「・・・まあな。」



とまあ、親父の快諾のもと、涼介は次の日には

唐草模様の風呂敷包みを背負って、藤原家に居候を決め込んだ。



「ふつつか者ですが、宜しくお願いいたします」

その挨拶どおり、高橋涼介は、藤原家の”嫁”になったのであった。





そんなこんなで1週間がたち、涼介は大学に通いながら

豆腐屋の手伝いもするなかなか働き者の嫁となっていた。



しかし、そんな兄の行状を黙って見ている弟ではない。

「アニキ!どうしてオレに黙って嫁になんか行っちまうんだよ!?」

半泣き状態で高橋啓介が藤原豆腐店になぐり込んできた。(?)

「アニキぃぃい!!戻って来てくれよぉ!!」

まるで女房に逃げられたダンナのようである。

しかし、啓介がソレをやると子供のだだっ子にしか見えないから不思議だ。

たまたま店番をしていた拓海には為すすべもなく、

ただボーっと見ているしかない。

涼介は大学に行っている。

(・・・どうしようこの人・・・)

涼介と違って子供の扱いは下手なのだ。

アニキに会えるまで帰らない!と言い張る啓介を

なんとか親父になだめてもらって、やっと啓介は帰っていった。
(散々営業妨害したくせに何も買わないで帰っていったりする・・)

「涼介さん。今日啓介さんが来ましたよ。」

買い換えたダブルベッドの上で拓海がつぶやいた。

拓海の狭い部屋はダブルベッドで余計に狭い部屋になっていた。

「啓介が?」

一瞬顔を輝かせて、そして暗い表情になった。

拓海は知っていた。

毎夜、涼介がネコのぬいぐるみに語りかけているのを。

そしてそのぬいぐるみの名前が”啓介”ということも。



「帰ったほうがいいんじゃないですか?」

拓海なりに考えた結果だ。

涼介が好きだから、苦しめたくない。
(啓介のため、という気は断じてない。拓海にとって啓介はライバルなのだから)

「・・・・・そうだな」

涼介が何を考えているのか、拓海には分からないまま夜が明けた。



「短い間でしたが、お世話になりました。」

来た時と同じように、唐草模様の風呂敷包みとともに、涼介が正座をした。

「おう。こっちこそ色々手伝ってもらって助かったぜ。」

親父は内心働き者の嫁が気に入っていたようだった。

「ありがとうございました。」

外には黄色いFDが人待ち顔でエンジンを唸らせていた。

「アニキ、早く帰ろうぜ!!」

昨日のだだっ子が嘘のように晴れ晴れとした顔をしている。

涼介が風呂敷包みを背負った。

ぽっこりと丸まった風呂敷包みの端からあのぬいぐるみの顔が飛び出している。

脳天気なぬいぐるみの顔がにくらしい。

「涼介さん、はみでてますよ。」

拓海がそれを直しながら言った。

「拓海・・・すまん・・・」

それは別れの言葉なのか、と、拓海は悲しくなった。


けれど、


「でもオレはお前のコト・・・」

言葉より先に涼介のキスが降ってきた。

啓介が赤くなったり青くなったりして何かをわめき立てている。

でも、そんなコトは拓海はどうでも良かった。

ただ、拓海は涼介とのキスに没頭するのみであった。



おしまい



何でこんな話ができたんでしょう・・。
たまには受な涼介が書きたくなったからでしょうか。
受涼介(すみません)だと本当にギャグだから楽しいです。(笑)



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