「本当に良かったのか?」

向かい合う一組の男女。
女性の腕には赤子が抱かれており、その赤子をやさしく見つめながら彼女は答えた。

「あら、生まない方が良かったの?」

女性の声はその言葉とは裏腹に、少しからかっているような口調だった。
彼女の顔を見て、彼は小さく首を振り、何も答えず赤子の顔を覗き込む。
自分の血を受け継ぐ子供。
もともと子供が好きだったが、自分の子供はまた違う思いが胸の底にある。
どう表現すれば良いのか、今の彼には分からなかったが、
この世界で大切なものがまた一つ増えたことには違いない。
そう、こんな時勢でなければ、手放しで喜んだであろうし「生んでよかったのか?」など聞くはずもない。
もし生まないと言われたら土下座でも何でもしても、自分の分身をこの世に送り出してもらったに違いない。
そんな彼だから、彼女は生むことを決心した。
自分達の住んでいる国が消滅してしまったこんな時なのに。
いや、もしかするとこんな時だから、生むべきだと思ったのかもしれない。
明日はどうなるかわからない毎日。
でも、この子がいれば私と彼の命のつながりは未来へと続く。
日本という国はなくなってしまったが、
彼、もしくは彼の子供の世代になれば、また日本という国が復活しているかもしれない。
あと30年か・・・それとも50年か。
私達の子孫は何を見るのだろう。
私と彼がこの世界から存在を消し去っても、私達の血を引く人間がこの世界に存在する。
両親も祖父母もそんなことを考えながら我が子の成長を見守ったのだろうか?

「この子はどんな世界を見るのかな?」

ふと彼が小さく呟く。
この人は・・・
彼女は小さくため息をつく。
どうして、こう私と彼は同じことを考えるのかな?
それだけ相性がいいってこと?
昔からそうだった。
始めて会った時から、何度そんなことを考えたことやら。

「もしかしたら、宇宙に出て生活しちゃうかも?」

笑みを浮かべながら彼を見ると、一瞬きょとんとした顔で彼は彼女を見る。

「そうか、そういう世界もあるのか。」

その彼の言葉にうなずきながら彼女も言葉を重ねた。

「そうよ、未来は何だって起こりえるんだから。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

EDEN
The end of COSMOS

Episode 9 「裂けた世界」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「あれ・・・なに?」

目の前に起こったことを信じられないように美月は呟いた。
しかし、蒼太には届いておらず、彼もまた呆けたようにそれを見上げている。
二人の視線の先には大きな破口が開いており、その向こう側は漆黒に染まっていた。
そして、またその破口の近くが膨れ上がり破裂する。
しかし飛び散った残骸は、すぐにその開いた穴に吸い込まれていく。
その時になって、二人はけたたましいサイレンと大きな風の音を聞いた。
このサイレンの音は、「非常事態の発生、ただちにシェルターに非難せよ。」だった。

「コロニーに穴・・・が開いてる。」

そうつぶやいた彼の顔を見て、彼女が詰め寄る。

「どうして?どうしてコロニーに・・・このままじゃ。」

しかし、彼はまだその破口から視線をはずせないでいた。
彼からその破口に視線を移した彼女ははっと息を呑んで、彼の腕を掴んだ。

「ねぇ、蒼太、このままじゃ危ないわ、シェルターに非難しないと。」

彼は強く腕を引っ張られて我に返った。
そして、 瞬きをする間だけ彼女の顔を見つめて、小さくうなずいてみせた。

「そうだね、ここから一番近いシェルターはどこだっけ。」

その言葉に慌てて鞄から小型端末を出す美月。
場所の確認は彼女に任せてもう一度彼は視線を上げて、それを見つめる。

どうして?
なぜ?

彼の脳裏ではそんな疑問しか浮かばない。
しかし、内部からの爆発でなく、
外部からの何かしらの干渉があったとしか思えない穴の開き方。
つまり、それが意味することは。

「わかったわ。こっちよ。」

シェルターの位置を確認した彼女は顔を上げて彼に告げた。

「よし、急ごうか。」

つまりは、このコロニーが攻撃されたということなんだ・・・
彼女と共にシェルターに向かって駆け出しながら、そんな考えが蒼太の脳裏をかすめた。





「とりあえず、今いる艦内にいるパイロット達で間に合わせろ!」

教導艦「ウラニア」艦長である、シドニー・ネイソン大佐はそう叫ぶと、前方の戦況表示板に視線を向ける。
そこにはコロニーの至近距離に輝く二つの赤い点がある。
今、そこに青い点が三つ向かっていく様子が表示されている。
青は味方であるEASFの戦闘艦、赤は正体不明であるが、おそらくMSDFの艦艇だろう。

「どうして、こんな距離に来るまで気づかなかったんだ。」

吐き捨てるように告げた艦長の問いに観測員がうろたえながら答える。

「わかりません、入港中でしたので通常のセンサー索敵は行っていませんでしたから。」

今、「ウラニア」はコロニーの宇宙港に入港している。
二週間にわたる訓練が終わり、同じく教導艦である「エラト」と入れ替わり、二週間の半舷上陸中だった。
大急ぎで出航の準備をしているが、出航できるまでには30分から一時間かかりそうだった。
観測員の席の右後ろに立ち、センサーの状況を確認していた副長のフィアン中佐が首を振りながら艦長に答える。

「本艦が補足できないのは仕方がないとして、外には防衛艦二隻が展開しています。
そちらでも補足できなかったというのは・・」

シドニーは顔を伏せて考え込んだ。
確かにおかしい。
いくら索敵任務を怠っていたとしても、敵の攻撃を食らってから気づくなんて事は通常ではありえない。
しかし、敵はそれをやってのけた。
どうしても新兵器とか秘密兵器を使ったと考えたくなるが、そうと決め付けるのは早い。
ただ、一つ思いつくとすれば、同期の河合から聞いたアレだが・・・しかし・・・
そこで通信士が艦長の方を振り返り報告する。

「教導艦「エラト」から入電、「本艦ハ「イントレピッド」、「フッド」ト協同シテ敵侵入艦ヲ駆逐スル。
ナオ、敵ハMSDFノ「ソラリス」級二隻ト判明。
貴艦ハコロニー内ニ侵入シタ敵機動兵器ノ殲滅ニ向カワレタシ。」

「返信、「貴信了解。これより本艦はコロニー内に侵入した敵機動兵器の排除を行う。」以上だ。」

「返信します。」

「とにかく、どうやって敵がこちらの警戒網を突破したのかを考えるのは後にしよう。
今は目の前の敵をいかに追い払うかだ。」

彼は迷いを振り払うように強い口調でそう告げた。

「艦長、イカロス全機、発艦準備完了。」

「よし、順次発艦開始、コロニー内部に侵入した敵機動兵器を撃退せよ。」

その時、パイロットの編成を確認していたフィアンが驚いたように顔を上げて、管制士に小声で尋ねる。

「この山城つばきはソロで出撃となっているが?」

「彼女のパートナーはコロニーに降りています。
現状艦内に残っていたパイロットは15名で、彼女は志願してソロで登場することになりました。
大丈夫です、ロッテはリスト中尉とマリア中尉で、山城少尉は無理をさせずに索敵や後方支援任務を行わせます。」

「急ぐとはいえ、誰か艦にたどり着くのを待ったほうがいいのではないか?」

その彼の言葉に、管制士は左右をすばやく見渡してから、
なんとも言えない曖昧な表情を浮かべて声を潜めて告げた。

「実は、上陸している要員の宿舎との連絡がつかんのです、副長。
すでに敵襲から20分経過しています。
それでまだこちらにたどり着かないということは、そういうことだと。」

それを聞いて、一瞬フィアンは表情をゆがめたが、
自身の職責を忘れなかったようで、何かを飲み下した表情に変えて声を潜めて尋ねる。

「・・・・わかった。このことは艦長には?」

「先ほど私から直接艦長のコンソールにその旨報告しました。」

ため息をつきながらフィアンは小さくうなずいた。

「了解した。」







コロニーが攻撃を受けたという臨時ニュースをリビングで見た二人は期せずして顔を見合わせる。

「由香、これはまずいよ。早く非難しないと。」

彼は腰を浮かせて彼女に告げた。
その表情は驚きとうろたえが交錯している。
彼女自身の表情も彼と変わらずだった。

「そうね、ここから一番近いシェルターは・・・」

「一キロ先の公園のはずだよ。」

ソファの前を横切り、自分の部屋に向かいながら彼は答えた。

「わかった、それじゃ、最低限必要な荷物をまとめましょう。」

「うん、準備してくる。」

彼を見送ってから、立ち上がった彼女だったが、
ついモニタに映し出されているものに釘付けになってしまう。
破口からどんどんいろんなものが吸い出されていく。
なまじ普段から見ているものばかりのため、その破口の大きさが実感できた。
直径50mはあるように見える。
このままだとコロニー内の空気が全部外に排出されて・・・
このコロニーがブレイクアップしてしまう。
そうなったら私達は・・・

思わず自分の肩を抱きしめて彼女は身震いした。
そんなの嫌だ。
ここで終わりなんて嫌よ。
やっと、信吾に自分の気持ちを伝えたのに。
それなのに、彼からの返事を聞くまでは。
私は死ぬわけにはいかない。

彼女はモニタの電源を切ると慌てた足取りで自分の部屋に向かう。
信吾も死なせるわけには行かない。
私が守るんだ。
そして二人で生き残るんだ。

自室に入ると、身分証明や財布、携帯電話等の身の回り品を優先に
少し大きめのバッグにいれる。
着替えを持っていくか迷ったが、そんなものを選び始めていたら時間がない。
必要なものを慎重に選びながらバッグに詰めていく。
準備自体は15分もかからずに終わった。
そこでドアがノックされる。

「準備できた?」

彼女はバッグを抱えて返事をする。

「うん、今行くわ。」

ドアを開けるとボストンバッグをひとつ抱えた彼が立っていた。

「みんな避難し始めてるよ。僕たちも行こう。」

「うん。」

そう答える彼女の手を彼が握って歩き出す。
どきりとして彼の顔を見るが、真剣な表情を見て、小さく息をつく。
そうよね・・・今はそんなこと考えてる場合じゃない。
ちゃんとはぐれないようにしないと・・・
玄関を出て彼はちらりとエレベータの方を見て、首を振る。

「時間かかりそうだから、階段で降りようか?六フロア分だから、大変じゃないし。」

「うん。」

彼はずっと彼女の右手を握って離さない。
その手を握り返して彼女は彼の一歩後ろを歩いていく。
なんだろ。
信吾、すごく頼もしく見える。
こういう時だから、私のこと守ろうとしてくれてるのかな。
・・・・
不謹慎だけど。
でも、やっぱりうれしいな。
なんか大切に思われてるって感じがして。
階段も非難する住民がいたが、平日の昼間ということで、
さほど混んでおらず、二人は苦労しないでマンションの外にでることができた。
そして、他の人たちが進んでいく方向に従って二人は歩き出す。
同じ方向に歩いていく人たちは、不安そうに破口を見上げたり、その原因について意見を交わしたりしていた。

「やはり、火星軍の奇襲だろ。」

「でも、こんなところまでやってきて攻撃するような武器を持っているのか?」
 
「火星の技術力は地球ともひけをとらないって話だぞ。」

「でも、あのあたりは軍事施設があるところだから、もしかしたら何かの事故かもしれないぞ。」

そんな推測、憶測が乱れ飛ぶ。
信吾はマンションを出たきり、そんな話の輪にも加わらないで黙ったまま、由香の手を握って歩き続ける。
そんな彼を見て、彼女はそっと声をかける。

「ねぇ、信吾?」

歩く速度は変えずに険しかった表情を緩めて、彼が優しい声で答えた。

「ん?どうしたの?」

その時、彼女の鼓動が跳ねた。
・・・・
やっぱり、私、信吾のこと・・・
こんなに、好きなんだね。

黙ったまま顔を見つめる彼女に彼は不審そうに首を傾げて見せた。

「どしたの?」

慌てて、首を振って、彼女は答える。

「あ、ごめん、あのね・・お父さん大丈夫かな。」

「あー、親父なら大丈夫っしょ。軍事施設の大半はシェルターの傍か、それ自体がシェルターになってるしね。」

「そっか、そうだね・・・」

ほっと息をつく彼女に彼は複雑そうな表情を浮かべる。

「あのさ・・・」

「うん。」

少しだけ視線をさ迷わせてから彼は言いにくそうにたずねた。

「その・・・こんな時に聞くのもあれなんだけど・・・由香は、自分のことってどうやって知ったの?」

「あ、そのことね。えっとね、きっかけは本当に偶然だったんだけど、
私が小六の時にお父さんが夜、電話で話してるところを聞いちゃって・・・」

彼は、視線を伏せた彼女の横顔を心配そうに見つめている。
その視線を受け止めて彼女は言葉を続けた。

「いたたまれなくなって、その場でお父さんに聞いたの。
私はお父さんの子供じゃないの?って。」

「そうか・・・」

「でもね、その時は「俺の子供だ」って言われたの。でも・・・」

「でも?」

「ちょっと授かり方が違うんだって、もう少しだけ私が大人になったら、ちゃんと話してあげるからって。
それで結局中三の時に話をしてもらったの。」

「そうか・・・そうなんだ。」

「まぁ、私がお父さんのところに来るまでいろいろあったらしいんだけど、
でも、私は本当のお父さんとお母さんに感謝してる。
ずっと私の傍にはいなかったけど、でも、私のことを本当に大切に思ってくれてたことは
お父さんから何回も聞かされたし。それに・・」

「それに?」

「信吾と会わせてくれたんだもの。」

言ってから急に恥ずかしくなったらしく、由香の頬が真っ赤になる。
それを聞いた信吾も照れくさそうにそっぽを向いた。

「あはは、ごめんね。こんなところで話することじゃないよね。」

「いや、僕の方から聞いたことだから。」

彼の横顔を見ながら、彼女は心の中でつぶやいた。
でも、本当だよ。
信吾のこともそうだし。
私はお父さんにもすごく感謝してる。
信吾を生んでお母さんも亡くして、信吾だけでも大変だっただろうに、
私も一緒にちゃんと娘として育ててくれたこと。
すっごく感謝してるの。
実は私が聞いた電話の会話って、私を保護施設に入れたほうがいいっていう電話だったの。
一人じゃ大変だから・・って。
でも、お父さんはこう言ったんだよ。
「由香も私の娘です。アイツから娘を頼むといわれて引き受けた以上、
私にとっては信吾も由香も同じ血を分けた子供です。」って。
だから、お願い。
お父さん、無事でいてね。
まだ私と信吾のお父さんでいてね。






「なんだって?UC-01が攻撃された?」

その言葉に部屋の中が一斉にどよめいた。
その部屋の中には20名ほどの要員が配置されており、
それぞれ職責を与えられており、それを完璧にこなすのが彼らの義務のはずだった。
しかし、今はほぼ全員が棒立ちになって、会話をしている副指令を凝視していた。

「ああ、こちらも爆発を検知した・・・本当だな?本当にMSDFの奇襲なんだな?」

その言葉がさらに部屋の全員に衝撃を与えた。
まるで葦原を風が通り抜けるようにざわざわとどよめき揺らいでいる。
何人かはそのまま棒立ちとなりあらぬ方を見つめ、何人かは周りの人間と話を始め、
さらに何人は本来の職務を思い出し情報収集を始めたりと、
月面の防衛軍指令所は完全の混乱の渦中にあった。
しかし、そこに一人の人間が入室し、大きな声で叫んだ。

「落ち着け!!」

その一言で部屋の中は静まり返る。
彼はこの月面防衛軍の軍団長であった。
恰幅の良い体格に白いあごひげを生やした彼はまさに指揮官としての貫禄を十分に持っており、
見た目に負けぬ経歴の持ち主で部下からの信奉も厚かった。

「まずは状況の把握だ。
UC-01を攻撃した敵の情報の防衛軍の対応状況の確認。
UC-01へは被害を確認。 こちらからの増援派遣準備も頼む。」

矢継ぎ早に命令を下したおかげで、指揮所内に秩序だった忙しさが現れる。
数分後各所から指令である彼の元に報告が上がってきた。

「司令長官、30分以内に発進可能な戦闘艦は三隻、すべて完熟訓練中の「エクスカリバー」級です。
半舷上陸のためクルーの約半数が艦内にいるとのことです。」

「そうか、なら運行に必要な最低人数が揃い次第、即座に発進するように伝えてくれ。
もちろん三隻揃うのを待つ必要はない、単艦行動を認める。
とにかく一刻も早くコロニーに到着することを最優先としろ。」

「了解です。そう伝えます」

彼は右後方に立つ副指令の方を向いて、小声で話しかける。

「ところで、「エクスカリバー」には今、艦隊司令部が乗艦しているはずだったな?」

「はい、査察目的で・・・司令長官は室田提督です。」

「室田か・・それなら彼に任せておけば安心だな。」

彼、氷室幸三は艦隊司令の室田伸介提督とは同期であり、
同じ宇宙船に乗った仲でもあり、お互いのことはよく熟知していた。

「はい、我々の期待に答えてくれるでしょう。」

そして、他の要因から司令に報告があがった。

「司令長官、コロニー直衛艦の「イントレピッド」、「フッド」共に敵艦3隻と交戦中。
それに教導艦「ウラニア」、「エラト」が二隻と共同しており、
搭載機動兵器全機を敵機動兵器駆逐のために出撃させているとのことです。」

「コロニーの損害率、現状で35%、強度は70%を維持しており、
現状を維持できれば崩壊を防げるそうです。」

「わかった、コロニー側には敵の排除に全力を尽くすと伝えてくれ。」

「了解。」

さらに彼のそばに一人の士官が歩み寄る。

「氷室司令、地球の司令本部からの通信です。」

彼は二枚の紙を受け取り、それに目を通す。

「なにをいまさら・・・」

吐き捨てるように告げて、その紙を士官に返した。
彼は不審そうに司令に告げた。

「宣戦布告から五分以内の攻撃ですよ、これで義務を果たしたというんですかね?」

軽く首を振って氷室は士官の顔を見詰めた告げた。

「それもまた戦争だ。とにかくこれ以上、被害を広げないようにするのが最優先だ。」



 
 


「まさか、いきなりアルテミスが攻撃されるとはな・・・」

いきなりの試験中止のコールサイン受信後、
すぐに入った情報を聞き、彼は小さな声でつぶやいた。
その時、先ほどまで模擬戦闘を行っていた相手機から通信が入り、ウィンドウが立ち上がる。

「宮城少尉、こちらはXS-105のライカー大尉だ。」

その名前を聞いて宮城は驚きながら敬礼をする。

「はっ、宮城少尉であります。大尉のご高名は常々聞き及んでおります。」

人型機動兵器の戦闘マニュアルを作った第一人者である彼は、
砕けた答礼を返し、視線を一瞬下に向けて何かを確認してから告げる。

「状況は聞いたね?我々も支援に駆けつけるべきと判断したんだが、君たちはどうするかね?」

「もちろん我々も支援に向かいます。」

即答に近い返事を聞き、ライカーは満足そうに頷く。

「そうか、了解した。」

そこで、宮城はためらいがちに彼に尋ねた。

「しかし、そちらの機体は最重要機密兵器なのでは?」

おどけるような表情で、両手を肩のあたりまで持ち上げ、彼は軽い口調で答えた。

「たかが一機の機動兵器の機密情報を守るために、
救えるかもしれない数万人の命を犠牲にすることはナンセンスだし、
そもそも我々軍人は一般人を守るために存在するんじゃないかい?」

「おっしゃるとおりであります。ぜひご一緒させてください。」

「それは心強い・・・ところで、そちらの推進剤の残存量はどうだ?」

その質問には宮城の後席に座っていたライアが答える。

「増槽分を使いきり、本体分だけです。
全力でコロニーに駆けつけても、おそらく20分程度戦闘可能だと思われます。」

その答えを聞いて、口元に小さな笑みを浮かべて彼は告げた。

「では共に行こう、それに私のXS-105と接続すれば、
早く宙域にたどり着けるし、貴機の推進剤の消費を抑えられる。
すでに理解していると思うが、こっちは光子反応炉搭載機だしな。
情報は今からそっちのライア少尉に送る。
機体連結器具もおなじ規格品を使っているからいけるはずだ。」

そこ間で告げてからライカーは後席を振り返って告げる。

「ディアナ、よろしく頼む。」

宮城も大きくうなずく。

「了解です。」

「さっさと敵を追い払って模擬戦闘の続きをしよう。
君はなかなか手ごたえがある相手で、私としてももう少し君と模擬戦を楽しみたいからな。
我々を邪魔するものはとっとと排除してしまおう。」

彼は小さくウィンクを返すと通信は切れた。

「ライア?」

宮城は後ろを振り向いたが、すでに彼女は情報を受信して接続準備をしていた。

「情報は受信したわ、確かに連結可能よ。アプローチを開始します。あと20秒でXS-105と連結。」

「了解。では、俺たちも行こうか、灼熱の戦場へ。」

 



2007/5/5公開

Ver1.01