ジェラールとジャック(全2巻)
1998年〜2001年BE・BOYGOLD掲載

 この物語は革命前夜のフランスが舞台となっています。なので、まず服装が美しいです。首周り、袖周りがピラピラしていて、履いてる靴はヒールがあって、某バラ漫画を思い出さずにはいられませんが、とにかく優雅でステキです♪
 星の数ほどあるBL本ですが、「ジェラールとジャック」 はまず表紙のコスチュームで目が引きつけられます。
 ここでは各章ごとにあらすじと感想を書いてみました。
        
[1巻]

(ジェラールとジャック)

 1巻の冒頭はちょっと衝撃的です。娼館に売られた没落貴族の息子(ジャック)が、顔に傷を持つ男(ジェラール)に犯される場面から始まります。ジェラールは貴族嫌いのエロ本小説家、もちろん平民で、このため容赦なくジャックを抱いてしまいます。ジャックはいたいけな16歳の少年なのでかなり可哀想ですが
「よく考えてみろ、体を売る以外に借金を返すあてが今のお前にあるのか?」というジェラールの言葉は理にかなっているため抵抗できません。
 事が終わった後ジェラールはジャックが自由になれるだけのお金を残して去っていきます。ここでジャックを保護しない(囲い者にしない)彼と、1人で生きられるものなら生きてみろという挑戦を受け止めたジャックの関係は対等でカッコイイです。
 ラストはジャックが召使として就職した先が偶然ジェラールの屋敷だったという展開で、家の主であるジェラールを
「貴様」呼ばわりするジャックは流石貴族様・・・度胸があってイイ態度です(笑)。

(これは私だけの焼き菓子)

 ジェラール邸で働きだしたジャックはとにかく一生懸命で謙虚。1日でも早く一人前の使用人になろうと仕事熱心です。
 でも主に対する言葉は相変らずタメ語・・
「その海賊みたいな顔でこの本を全部読んだのか?大体字が読めたのか」と失礼なことも言ってます(笑)。
 ジェラールはジャックにお菓子を食べさせたり、本を読む自由を与えますが、
「男娼より人の役にたっていない」とあっさり半人前ぶりを本人に告げてしまうので、これを聞いたジャックは体を与えようとします。が、ジェラールの激しい下ネタに撃退され役立つことはできません(ここで手を出さないところがイイ人なのよ・・ジェラールは)。
 ジャックには男娼として受けた恥辱を早く返上し、ジェラールに一人前だと認めさせたい負けん気の強さと誇り高さがあります。とにかく自分の置かれている状況がよく判っている賢い子供です。
 ラストの
「これはお前のマドレーヌだ」というメモは、ジェラールが「頑張り」を受け入れた証で、ジャックと一緒に嬉しくなれるステキな結びです。

(召使の夜の愉しみ)

 なんか思わせぶりな題名ですが・・「夜の愉しみ」は実は読書です(笑)。
 仕事の手際がよくなって、他の使用人にも誉められニコ二コのジャック(可愛い〜)。夜はジャラールに薦めてもらった本に没頭します。
 ジャックは2度もジェラールの情事現場に偶然踏み込み
「下品な奴!」と怒っていますが、相手が男娼と分かると「優しくしてやるのだぞ」と穏やかに忠告します。
 身分制度を批判しているルソーの本を読み、自分を諭すジャックは思っていたより大人だとジャラールは嬉しくなります。
 ・・そうです、ジャックは意外と子供ではなかったのです・・。彼はジェラールのスキンシップ(本を背後から覗き込むコマ♪)や情事現場に、実はかなりドキドキしているのでした〜。
 

(ジェラールの横顔)

 これは前章から3年後のお話。まずページをめくってビックリです。「だ、誰このイイ男は〜?!」と絶叫したら・・ジャックでした。「すっかりでかくなっちまった」というジェラールの言葉どおりですが、目つきが切なげで品があって、P.96の黒マント姿は倒れそうにカッコイイですっ。
 ジャックはジェラールに手紙を届けるため、昔自分が居た娼館に出かけます(娼館主のバックは必ず薔薇/笑)。そこで彼はお客に間違われジェラールに助けられますが、正しい(?)自慰教育をされて涙目に・・。ジャックは男娼にキスされて気絶、ジェラールには性教育という二重の災難に会いますが、恥らう彼はもの凄く可愛いくて・・可笑しいです。
 それにしてもジェラールはいつもエロ言葉が直球で、この章も
「けど、勃ってるぞまだ」とかね・・これに対するジャックの赤面反応は常に初々しい〜(P.54・P.70・P.111・112等)。ジェラールにとってはまだまだ「からかいがいのある奴」のようです(←酷い)。

 
(その高貴なる女)

 この章はジェラールの時間が過去に戻ります。まずページをめくってビックリです。「だ、誰このイイ男は〜?!」と絶叫したら・・ジェラールでした。両目健在、銀髪で若々しいハンサム、おまけに明るくて、一人称は「僕」・・・やさぐれジェラールに至るにはいったい何が??思わず読んでしまうお話です。
 ジェラールはナタリーという奔放な貴族の娘にベタ惚れし、平民にもかかわらずプロポーズします。彼はナタリーを幸せにするため、エロ小説で一稼ぎ、妻の貴族的な享楽生活も受け入れます。この頃のジェラールは、妻から誘われれば3Pも辞さないけなげっぷりで・・なんとも可愛いです(でも数年後には
「誰がお前の汚い一物なんかをはめさせるかよ」と直球勝負してますが/笑)。

 結婚9年目、ナタリーとその愛人アマルリックとの間に子供がいたことが発覚。子供に全く興味のないなナタリーは人にあずけっぱなし、しかも肺病でもうすぐ死ぬから都合がよいと考えていました。激しく怒ったジェラールにナタリーは恐怖を感じ、火かき棒で彼の目と顔を傷つけ・・別離となります。
 その後ジェラールは子供を引きとり、娘が死ぬまでの2週間を共にします。ラストの
「この子は俺の子だ」という言葉と最終ページの表情はとても切ないです。
 ジェラールの怒りの沸騰点は浮気で子供を作ったということではなく、子供を捨てたという所にある・・。
 他人の娘でも手元に置いて愛することができる彼は、無力な者に対する情がとても深い人。それゆえに全く違う価値観の女に惚れ込んだ自分をその後否定し続けることになります。
 
 オマケ漫画で、昼寝中のジャックを見たジェラールが突如娘の死に顔を思い出し、慌てる場面があります。この後すぐ
「お前、頭が性感帯なのか?」とジャックをからかっていますが(笑)、自分の子供のようにジャックを気にかけるこのエピソードは、短いながらも和んでいて大好きです。
 


[2巻]

(愛そうとする子を俺は)

 ある日ジャックのもとに実母の使者が迎えにやってきます。ジェラールの言葉を借りれば母は「ちゃっかり生きていた」わけで再婚もしていました。ジャックは実母の再婚先に招かれたことにより、父親の没落の原因は母の浮気と浮気でできた自分の存在だったことを知ります。
 実の子ではないと知ったその日から息子への愛は冷め、ジャックを売ってしまった父親と、愛する女の子供なら実子でなくても手元に置いたジェラールは正に対照的です。
 ジェラールの
「どこへも行かせない!俺が本当の父親よりも、母親よりもお前を愛してやる!」という言葉はジャックにとっては目を見張るばかりの告白で、捨てられた娘を愛したかったジェラールと、父親の愛情を突然失くしたジャックはお互い惹かれあって当然の関係なのです。
 この言葉と抱きしめはかなりの見せ場で、当然このままHに突入かと思いきや、自棄酒飲んでたジェラールはグーグー寝てしまうという・・・ドカーンと感激させた後に笑いがやってくる、これぞよしなが流という展開でした。 
 先生の作品はドキドキと笑いがほぼ同時に存在するため、読書中は感情の起伏が激しくなりがちです。ジャックの礼服姿に
「恐ろしく似合っている」とキスせんばかりに顔を覗き込むジェラールが、その直後「やっぱり化粧してたぞポール、1リーブルよこせ」という場面も正にそれで、ジェラールの「照れ」が笑いに転化されて面白いです。

 この章で爆笑したのが使者のピエール。化粧は濃いし、嘆き・驚き・お辞儀のポーズは一々可笑しい・・かなりのナイスキャラでした。

(恋とはどんな・・・)

 前章の「どこへも行かせない!・・」発言ですっかりジェラールに恋してしまったジャックは、夜な夜な悪魔の誘惑(凄い誘惑・・)にふけってしまいます。そんな自分をもてあまし、ジェラールが近寄るごとにチュドーンとなってますが、結局彼の寝室にもぐりこむことに・・。
 ジェラールはそんなジャックを受け入れますが、相変らずベットトークは直球です(笑)
 この章はとにかくジャックの表情が可愛いです。
「何で俺を避けるんだ」と問い詰められて涙ぐむ顔とか(P48)、P51の赤面しつつ決意の表情とか・・。

(この長い夜をⅠ)

 一夜明け、ジェラールは何故かジャックの恋心を受け入れず、家族のように愛してると告げ部屋から追い出します。
 ジャックの将来が自分だけになることを恐れた結果なのか、その後避けるように外出してしまい、しょんぼり涙ぐむジャックがとても可哀想です。

 訪問先でアマルリックに一服もられたジェラールは強姦されてしまいます。強姦されながらジャックの名を呟くところが切ないです。が、終わった後
「かーかー」寝ているのが呑気で笑えました。情が細かいくせに図太い人です。
 アマルリックはジェラールを迎えにきたジャックにナタリーとジェラールと自分の関係を明かし、
「平民の無粋な愛」とジェラールをけなします。ジャックはそんな彼に「ジェラールの愛こそが真実の愛だと分かっている筈」と言葉を投げつけ、これを言い放った時のジャックは極めて凛々しいです。
 アマルリックは完全なる悪役ですが、彼の気持ちは共感できます。人は自分が持つことができない情愛を持っている者に劣等感を覚えるし、又その「愛」が正しいとなると尚更嫉妬を感じるものではないでしょうか・・。

(この長い夜をⅡ)
 
 この章からフランス革命を学ぶことができます。革命はベル○ラで予備知識があったものの、革命後は(?)だった私は勉強になりました。
 ヨレヨレになったジェラールをアマルリック邸から運びだしたジャックは、今度はジェラールの口から妻の話を聞くことになリます。
「あんな女を愛した自分に1番愛想をつかしてるよ」と自分を否定する彼にジャックが体を重ね「好きだ・・」と告白するコマがとても心に残ります。ジェラールの頭にのせているジャックの右手が、自分を卑下する彼をイイ子イイ子しているようで大好きです。
 愛を告白したジャックをジェラールは抱き返しません。あんな事やこんな事したくせに・・あれは父性愛だとか言う気なんでしょうか?触れてもくれないジェラールに
「お前からは何も要らない。今まで通り私はただの召使だ」と言ったジャックは謙虚でけなげで可哀想・・。そしてジャックを大事にするあまり踏みこめないジェラールは少しもどかしいです。
 この切ないシーンのあと、人間パソコンにされているジャックが笑えました・・いくら締め切りが近いからって
「禁断の超バイオレンスレズ小説」を純粋なジャックに書かせるなんて〜。
 そしてこの夜、革命の火の手が上がることに・・

 5年後、国王は倒れたもののギロチンにかかる人は後を絶たず政情不安定なフランス。相変らず売れゆき好調のクソエロ小説を書いているジェラールは公安委員会に目をつけられ、執筆中止となります。
 5年後の彼らもとてもステキです。ジェラールは髪が短くなって渋みが増してるし、ジャックも男っぽくなってる上に、色気が倍増・・言うことないです。よしなが先生はキャラを老けさせていくのが本当に上手い!!


(この長い夜をⅢ)

 アマルリックの密告によりギロチンの可能性が出てきた2人は国外逃亡を余儀なくされます。ジェラールはジャックを逃がすことには積極的ですが、自分の逃亡には消極的。このため、ジャックは一緒でなければ行かないと彼を脅します。「旅券は2枚だ」と言った時のジャックの表情は「男」です。なんとも頼もしいやら素晴らしいやら・・とにかくカッコイイ。 
 結局顔の傷が原因で逃げ切れないと悟ったジェラールは
「お前が死んだら生きていけない程お前を愛しているよ」と愛を告白し、ジャックだけを国境に向かわせようとします。これに応じようとしないジャックの言葉が胸に響きます・・「神よお許し下さい。この男と死ぬことがこんなにも幸福です」。
 この場面で交わされる2人の命をかけた愛の告白は物語の1番の見せ場であるし、最後にジェラールがジャックの望みを受け入れるところが感動的です。そして衛兵が迫ってくる直前のキスシーンは本当に絵が美しく、角度よく・・最高。ジャックの顎に添えた左手がイイッです。

 よしながさんの描くキスシーンを見ると私はクリムトの絵を思い出します。クリムトのはもちろん男女の抱擁シーンですが(笑)長方形の型の中に人間2人を押し込んでしまったような密着度で、この「密着」が先生の描くラブシーンと共通して見えるのです(「愛そうとする子を俺は・・」の抱擁シーンも「密着」/P.27)。
 さて、緊迫したストーリー展開の中笑えたのが、逃亡のために女装したジェラールとそれを見たジャックとポールの反応・・・。ところが宿屋の主人には「えれえ美人だ」と言われ、オネエ言葉は使うは胸は詰め物で大きくするは・・けっこう調子にのっている(?)ジェラール・・。
「そこまで徹底してやらなければいけないものなのか?」と半ばあきれ顔のジャックも可笑しいです。

(そして朝の光)

 
2人を追ってきた衛兵は、逮捕取り消しを告げに来た人たちで、つまり2人の命は助かったというどんでん返し。前章のラストと表紙の笑顔にはとてもホッとさせられます。
 お互いの強い気持ちが分かってしまった2人は途中の宿屋で急接近・・ついに結ばれます。やる気になったジェラールはここでは書けないほどの凄い「攻」ですが、翌朝ジャックの体を気遣う彼に
「おそらく大丈夫だ。お前昔に比べて小さくなったか?」と答えるジャック・・伝染ったの?なんて直球な(笑)。濃いラブシーンの後に必ず笑えるオチがある・・これがドキドキしすぎた心の安定剤で、この技はもしかすると作者様の「照れ」なのか?と思いつつ、いつもハマッテしまいます。  

 ジャックという人は貴族に生まれながらも、賢くまじめ・・その日の糧が与えられれば満足という慎ましいタイプで、でも誇りは失わず、情も深い・・かなり人として素晴らしいわけで、そういう人に愛され、又愛することができたジェラールはようやく自分の人生を肯定します。ラストの自分を許す独白とジェラールの俯瞰図は何度読んでも感動的で、後味のよい結びです。

 この本を初めて読んだ時、源氏物語BL版と思った記憶があります(笑)。年の差カップルだけに恋人=親子なところが沢山で、その分「愛」は2倍です。シャルロットも言っていましたがちょっと近親相姦的・・・お話に夢中になってしまう隠れたツボなのかもしれません。

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「ジェラールとジャック」は白泉社文庫からも発行されています。
出版にあたり加筆修正があったためBIBLOSとの違いを以下のようにまとめてみました。

表データ提供・・りお様
表作成・・ピーチシルク

☆変更箇所(○→変更あり)

BIBLOS 文庫 コマの数 背景加筆 性描写 台詞(音)
P.10    P.16  2コマ
P.11    P.17 1コマ
P.12    P.18 1コマ
P.13 P.19 1コマ
P.16 P.22 1コマ
P.17 P.23 1コマ
P.21 P.27 2コマ
P.23 P.29 1コマ
P.24 P.30 2コマ
P.105 P.117 3コマ
P.106 P.118 2コマ
P.114 P.126 1コマ
P.112 P.124 -
P.115 P.127 1コマ 1コマ
P.127 P.141
P.132 P.146
P.169 P.185

BIBLOS2 文庫 コマの数 背景加筆 性描写 台詞(音)
P.45     P.257 - 2コマ
P.46    P.258 2コマ
P.57    P.269 1コマ
P.58 P.270 2コマ
P.59 P271 1コマ 1コマ
P.68 P.282
P.69 P.283
P.74 P.288
P.75 P.289
P.79 P.293 1コマ
P.80 P.294
P.82 P296 1コマ
P.87 P.301
P.89 P.303
P.91 P.305
P.130 P.348
P.182 P.402 2コマ
P.183 P.403 5コマ
P.184 P.404 2コマ
P.186 P.406 2コマ
P.187 P407 1コマ