愛すべき娘たち

2002年〜2003年メロディ掲載

「愛すべき娘たち」は一組の母娘と彼女達に関わる女性の物語です。
共感できるリアルなエピソード多数。
よしなが作品初の女性主役のストーリーです。

第1話

 母一人子一人の親子、麻里と雪子の生活に突然元ホストの大橋が入ってきます。彼は母の再婚相手で俳優の卵。雪子は30歳になっているものの自分より年下の男が同居人となり、母と和気藹々とやっている姿に我慢ができません。結局雪子は恋人と同棲する決意をしますが、自分が母親の1番ではなくなってしまった落胆に涙がこぼれます。ラストの巣立って行く娘に寄り添う母が印象的です。
 
 
「ここに散らばした漫画も本もみんな捨てていいのね!?この母の台詞は私が毎日娘どもに言っている言葉です・・。というわけで、第1話は親には永久に「女」になって欲しくないという雪子の気持ちが分かる反面、人格のある一人の人間になりたいという母の気持ちも理解できるお話でした。
 ここに登場する大橋健君は20代のくせに中身はもの凄く大人です。雪子の本音を引き出した上に自分の主張はしっかり通す・・家の手伝いもよくする温和なイイ男。時代劇を熱く語る姿は可愛いし、
「イイ味出してる」Tシャツもお似合いです(笑)。

 第1話は再婚を機会に親離れ・子離れする母娘が面白く描かれていますが、特に大人になっても蹴られ続ける雪子や大橋のホストぶりに驚く彼女の表情が見ものです(笑)。そして雪子と大橋の間に微妙な感情は一切生まれず、あくまで親子主体に物語が展開していくのが潔いです。

第2話

 女生徒にオーラルセックスを迫られた大学講師の和泉清隆(通称キヨ)は彼女を拒めず友人の大橋に泣きつきます。キヨが愚痴る現場は常に大橋家の食卓で、メンバーは麻里・雪子・雪子夫・大橋。
 困惑しながらも生徒を受け入れてしまうキヨにあきれる雪子の表情や、悩みを打ち明けながらもよく食べる彼は爆笑ですが、結局生徒と講師はズルズルと体だけの関係が続きます。
 最終的に麻里のアドバイスに従い、きちんと交際を申し込むキヨですが、その直後何故かふられてしまい女生徒は別の薄情そうな男と付き合いだします。要するに彼女は只のMっ子だったわけですが、これに振り回されたマジメなキヨは滑稽でそしてちょっぴり切ないです。
 「強姦からはじまる恋」はBL物なら上手くいくのが常識ですが(笑)やはり男と女の間には深くて長い川がある・・。

 独立後も実家を「うち」と呼び、当然ののようにメシを喰う雪子は上手くいってる母娘のよくある姿とゆーか、身につまされる状況で、こういうリアルさも面白い第2話でした。


第3話

 雪子の友人の莢子は美人で気立てがよく祖父の介護や姪の世話を進んでやる優しい人物ですが、恋人がいません。このため周囲がお見合いの世話を始め、3回目に出会った龍彦と上手くいきそうになります。が、いざ結婚を考えた時莢子は自分が「恋」をできない人間だという事に気が付きます。尊敬する祖父の「全ての人に分け隔てなく接しなさい」という言葉をそのまま実行できる彼女は誰のことも特別に愛することができないのでした。恋は人を分け隔てることだと納得した莢子は結局修道院に入ってしまいます。
 莢子は自分に1番しっくりくる生き方を見つけ幸福そうですが、雪子は一人の人を特別に想う気持ちを持てない彼女に物悲しさを覚えます。莢子が聖人のように優しい人物だけに、尚更心の満たされる恋をして幸福になって欲しいと願ってしまうわけですが、人間の価値観は様々だということを納得しなければならないラストでした。

 第3話はゴージャスなお見合いおば様が見ものでした。歳のわりにはさばけてて、色つきメガネにきちっとセットされた髪。ふくよかで厚化粧、大きめのアクセサリー・・・ほんとに居ますよっ、こーゆー人!

 お見合いに成功するのは宝くじに当たるようなものだと言った友人が居ますが、1日潰して気をつかって相手次第では嫌な思いをしたり・・それでなかなかヒットしない・・かなり労力いるようです。
 それにしても龍彦さんは優しそうで渋くてほんとーに素敵だったのに・・・もったいない。


第4話

 「男は家事だって育児だってお手伝い感覚だもの。たとえ共働きでもこっちがだまっていたら男は絶対自分からは家事はやらないわよ」これは中学生の牧村が言った台詞(何で知ってるの?/驚)。牧村は大人っぽく悟っていて、将来の夢もしっかりしている少女でした。でも実際は口さきだけで何をやっても長続きせず、年齢とともに愚痴ばかりのやけくそ発言が増えていきます。そんな牧村に友人の佐伯は昔の夢を思い出して欲しいと投げかけますが、「佐伯はまだ子供だね」とあしらわれてしまいます。
 佐伯自身もなりたかった職業には就けませんでしたが、ある日友人から転居ハガキが届き、それには中学の時の夢をかなえた雪子の近況がしるされていました。

 人は大人になるつれ才能の限界やとりまく環境の厳しさから妥協を覚えます。本当にやりたかったことを挫折せずに続け、それで生計を立てている人は果たしてどの位いるのでしょう?
 学生時代威勢がよくて何でもできた友人が小さくまとまっていたり、とても不運な状況になっているのを見かけると世の中こんなものか・・人の一生は終わってみないと分からないと諦観することがあります。それゆえに頑張っている人やイキイキ楽しそうにしている友人には尊敬と嬉しさを覚え、ささやかな夢を実現している同級生に涙する佐伯の気持ちには深く同調できます。


 第4話でハッとさせらたのは「ふとしたことで記憶が一本の糸につながることがあるけど」という佐伯の独白。佐伯は牧村がDVの被害者だったのではないかと気付くわけですが、大人になってから察しがつく友人の状況というのはけっこうあるもので、学生時代に分かってあげていたら違う接し方ができたかも・・と思うことが実際あるのです。

最終話 

 雪子の祖母には美人を鼻にかける意地悪な友人が居ました。その人のように麻里がなっては困ると考えたおばあちゃんは娘の容姿をけなし続けます。このため「可愛くない」と言われて育った麻里は美しいのに容姿に自信がありません。この話を聞いた雪子は、しつけと言いながら完全に自分の主観で子育てをした祖母に驚きを感じ、「母というのは要するに一人の不完全な女の事なんだ」と悟ります。
 現在親になってしまった私はこの台詞に「そうです、そのとおりと」大きく頷いてしまいましたが、親を不完全体と認めてはじめて母子は対等な関係が築けるように思え、そして分かりあえるのかもしれません。ただ大橋の台詞にあるように
「分かってるのと許せるのと愛せるのとはみんな違うよ」・・なのです。

 大橋は高校時代、実の叔母に恋心を抱いたため、かなり年上の女性しか受付られない人間になりました。が、開き直ったことで幸せを掴んだ彼はとてもしっかりしたイイ男。親に「可愛くない」と刷り込まれた麻里さんに
「綺麗だよ」と頻繁に告げる上書き治療もしています。
 中年になってもこんな素敵な人にめぐり合えたらどんなにイイでしょう・・・無神経な母に育てられた麻里さんですが、これで結果オーライな気がします。

  「愛すべき娘たち」は誰もが考えたことがあるリアルな感情がそこらじゅうに点在し、共感できる台詞満載な物語です。よしなが先生自身は雪子に近い年齢ですが、各世代に対する洞察力の鋭さには脱帽で「どうしてこんなに深いのか」と驚きを禁じえない作品です。


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