夏 空





あたし、夏の空の色は違うと思ったの。


春は淡い、消えてしまいそうな水色で
秋はほんのりと優しい色で
冬は消えてしまいそうなほどに透き通った色
この3つの季節の空は何処か共通点があるの。
其れはどれも色が淡いということ。
でも、夏の空は違うんだ。
凄く濃くて、春とかみたいに雲が同化しない、白がしっかりと
自分を保っているような、其の位に濃い青色。
此れが本当の空色っていうのかな、って思ったくらい
夏の勢力は強いってよく云うけど、あたし、今ならその意味、凄くよくわかると思った。

あたしの前を、ゆっくりとオレンジ色の頭が揺れる。
彼の頭の色は凄く綺麗で
夏の空の濃い色と、物凄く綺麗に合う。
どうしてだろう、其の頭を何時か追っていた。
例えあたしに、彼の気持ちが向かなくとも
きっと彼を祝福することが出来るんだ。
「…井上?」
「あ、ああっ!黒崎くんッ!?何?」
「…?俺、ちょっと急いでるんだ。…歩調、もう少し速くてもいいか?」
「あ、ああっ、どうぞ」
彼が少し歩調を速める。
あたしが無理やりついてきたのに、嫌な顔ひとつしないで居てくれる。
そんな彼の不器用な優しさは、あたしにとってとても魅力的だった。
同じように兄も不器用だったと思いながら、自分自身の歩調をもう少し速める。
「…黒崎くん」
「何だ?」
「あたしね、思うんだ、毎年、この季節になると」
「…何を?」
「空の色が全然違うなあって」
「空の色?」
「うん。ほら、雲が浮き出てるみたいに、空が濃い色でしょ」
「ん、ああ…そうだな」
黒崎くんは空を見上げて、あたしの話に相槌を打った。
黒崎くんの髪の色と、白い雲と、青い空。
あたしの眼で見ると、其れは物凄く綺麗な色合いだった。
「それでね、他の季節とは色が違うと思うの。匂いだって全然違う」
「…匂い?」
「うん。春は桜の匂いがするの。秋は焼き芋とか、落ち葉とか、そんな香りがして、冬は雪の匂い」
「待て。今の井上の話、夏が入ってなかったぞ」
「夏?夏はね、濃い緑の匂い…かな」
あたしの隣で、葉がさわさわと音をたてる。
まるで鼓動を打つような、息を潜めるような、其処にある存在。
あたしはそんな存在が大好きだった。
アスファルトが日に焼ける。
靴の底が熱く感じる。
「ふーん」
黒崎くんはそう云うとまた前に向き直り、少し、少しと距離を開いていく。
あたしは、其の後をひっそりとついていく。
まるで、空のように、葉のように、『其処にある存在』のように。



「…黒崎くん」
「ん?」
「夏は、嫌い?」
「別に」
「あの----」

あたしは、嫌い?

頭の中でそう問いかけるけど、喉の奥で押しつぶされそうになる言葉。
あたしは、あなたが、とても、とても好きです。

「…ううん、なんでもない。ごめんね、変なこと云って」
彼の好きな人が誰かなんてあたしは知らない。
多分彼の気持ちはあたしのものではない。
そんなことは十分承知の上で、あたしはこの人をとても好きでいる。
其れは、あたしの意思だ。
「そういう井上は、夏が嫌いか?」
「え、あたし?あたしは…」

貴方と一緒です。
貴方はあたしにとって、其処になければならないもので
空も空気も緑もアスファルトも雲も学校も人間も
同じくらいあたしは好きです

「…あたしは、とても、好き」

其れは、あなたも、という意味合いも込めて。




ねえ、あなたは、どうですか?



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間違ってもイチオリじゃありません。(断言)
オリ→イチ→ルキみたいな。
片思いひたすら。
夏の空の話は何時か書きたいと思ってたので消化できてほっとしました。
此れ、10分もかかってないなあ。
久保氏と違ってあたしはルキアに気合が入るので。ええ。