魔剣士小話              晴天

  
                  
              
 リナと買い物に行く。
「旦那はどうした」
「知らないっ。その辺できれーなねーちゃんでも引っ掛けてんじゃないのっ」
 犬も食わぬなんとやら。
 おとなしく随行させてもらうことにする。
         
「ケーキも買ったし果物も買ったし。・・・ん?ねえ、あそこマジックアイテム屋じゃない?」
「らしいな」
「行ってみよっか。・・・ほらっこの本あの人のよ!300年前砂漠に旅に出てそのまま行方不明になった!」 
「黒魔法専門の魔道士か。エルフの愛人だったとかいう」
「夢のない言い方すんじゃないの。恋人同士だったって言うのよそーゆー時は」
「同じことだろう」
「あんたねえ」
 あきれられつつ本を数冊、アイテムを数個購入。無事宿に帰還。
「まあ命あっての物種だからな」
「何よそれ(怒)」
   
    
        
 あいつと買い物に行く。
「晴れましたね〜!気持いい〜!」
 うっとりと目を閉じ大きく背伸びなどしている。
 買い物と散歩はこいつにはそう違うものではないらしい。
  
 迷子になって泣きじゃくる子供や財布をどこに入れたか忘れて困り果てた年寄りを目敏く見つけて世話を焼くのはいつものことだが、
「パン屋さんですよパン屋さんっ。いい匂い〜〜!」
「見てくださいゼルガディスさん!あそこにゼルガディスさんに似合いそーなかっこいい服が!!(←レディスファッション)」
「あっ新しいシャンプーが出てる!「これで貴女の髪もしっとりつやつやに」・・・へえ〜。使ってみようかなあ?ゼルガディスさんもいかがです?」
 広い通りをものともせず右に行ったり左に行ったり、ろくに前に進まない。
「で、何を買うんだ」
「何って?」
「買い物に来たんだろう。買いたいものがあるんじゃないのか?」
 うーん、とあいつはおもむろに首を傾げ、ないわけじゃないんですけど、などとつぶやきながら、
「ほんとはこうやって歩きたかっただけなんです。ゼルガディスさんといっしょに」
 どこかいたずらっぽい、透き通るような笑みを浮かべて俺を見上げた。
「だってゼルガディスさん、お買い物って言わないといっしょに町に出てくれないんですもん。こんなにいいお天気なのに〜」
 ・・・なんだそれは。
「あ、でもさっきかわいいブラウスを見つけたんでしたっ。おいしそうなピザ屋さんも〜。あそこの雑貨屋さんもおもしろそうですよね〜〜!」
 白い、温かい手が何のためらいもなく俺の袖をとる。
「行きましょうゼルガディスさん!ね!!」
 艶やかな黒髪がふわりと風に揺れた。
 青い瞳に俺のあきれ顔が映る。
 まったく、こいつにはふりまわされてばかりだ。
 見上げた空は果てしなく、憂鬱になるほどの晴天である。
 それでもいっしょに行くんだろうな、俺は。 
 
 −−−−どこまで、
 いっしょに行けるのだろうか。俺は−−−−
       

  
       

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