灯

  

「嫌われてはいないと思うんですよね」 
「・・・・」
「でもなんていうか、わたしにはそれだけというか・・・・。つまり、たぶん、その」
「・・・・」
「ゼルガディスさんはリナさんが好きなんだと思うんです」
「なぜそう思う」
「リナさんといる時のゼルガディスさん、とっても楽しそうですもん。ガウリイさんが居るから、リナさんがガウリイさん好きなの知ってるから言わないだけです」
「ずいぶん穿った見方だな」
「わたしといる時はいつもしかめっ面で怒ってばかりなのに」
「それはお前さんがしかめっ面になるようなことばかりするからだ」
「そんなことないですっ! 愛と正義を広めているだけでっ!!」
「大木のてっぺんから地面に衝突したり、町中で迷子になったりすることがか?」
「ぐ・・・・そ、それは・・・っ」
「子供子供してるからそういう対象になりにくいというのは客観的に見て間違っていないと思うが」
「・・・・すぐ泣くし、すぐ怒るし、何も考えてなくて。そうですね。そういうところ、自分でも子供だなぁって思う時あります。でもリナさんは・・・・。・・・・だから、ゼルガディスさんも、きっと・・・・」
「気になるなら聞けばいいだろう」
「何をです?」
「俺にリナが好きなのかと。お前さんが悩んだところで答えが出るものでもあるまい」
「な、な、な」
「?」
「そそそそそんなこと聞けるわけないじゃないですかっっっ!!!」
「どうして」
「どーしてって! はずかしいですよ!! そんなこと聞いたらぜったいぜったい変に思われちゃいますっ。わたしがゼルガディスさんのこと好きだってわかっちゃいますよぅ〜〜」
「・・・・・・・・」
「それに、いいんです」
「いい?」
「ゼルガディスさんがリナさんを好きって分かったとしても、わたしの気持ちは変わりません。やっぱりゼルガディスさんが好きです。ゼルガディスさんはめいわくかもしれませんけど・・」
「・・・・」
「だからいいんです。今は。ちょっと苦しいです。でも・・・・ゼルガディスさんの傍にいるだけで、幸せだから」
「・・・・」
「ゼルガディスさんも・・・・こんな気持ちなんでしょうか」
「それはない」
「よぅーし!! リナさんにお話したらなんかすっきりしちゃいました!! 明日もがんばってゼルガディスさんに話し掛けるぞー! えいえいおーーーっっっ!!!」
「・・・・」

 なお栗毛の娘と話をしているつもりらしい小さな酔っ払いは彼の背中で何やらぼそぼそ言っているが、もはやその内容は聞き取れない。
 春の夜風が二人を撫で過ぎた。
 ゼルガディスの視線の先で、街灯が淡く揺らめいている。
 風の音だけを拾っていた耳に、程なく規則正しい静かな寝息が聞こえてきた。
 ゼルガディスは宿に向かってゆっくりと歩き出した。
 二つの影もゆっくりと揺らめきながら重なり延びてゆく。
 長く、いずれはすべて宵闇に溶け込んで−−−−
   
 ゼルガディスは顔を上げた。
     
 あまりに明るい月がなお影をくっきりと映し出していたのだった。  
   
              
       

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