「おはようございます!」 |
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−−−ずるいなあ。
アメリアは思う。
床に座ってシーツに頬杖をついた姿勢のまま、大きな瞳を見開いてじっくりと眺め入っているその先にあるのは、窓越しに差し込む朝焼けの赤に染められたゼルガディスの寝顔。
んんん。
首をさらに傾ける。
・・・やっぱり、
(ゼルガディスさんて、かわいい)
静かな呼吸にあわせてかすかに動くまつげも、閉じられた形の良い唇も、そんなことを聞いたら本人は間違いなくむっかりするだろうけど。
いつもはあんなにクールで大人びたカッコ良さでわたしをドキドキさせて。
眠ったら眠ったでこんな天使みたいな顔でわたしをドキドキさせて。
−−−ずるいなあ。
いつだったかリナとはしゃぎ疲れてうっかり寝過ごしてしまい、寝こけた姿を見られたことがあったが、ゼルガディスはといえば相変わらずのポーカーフェイス。むしろ何やら悟りの境地さえ窺わせる声音で一言、
「せめてヘソぐらい隠したらどうだ」
なんて言われたものだ。
ベッドサイドの小さなテーブルには伏せられた本とブラックコーヒー。
昨夜も遅かったに違いない。
夢のために。旅の目的のために。あてのない答えを探して。
本当は。
言って欲しいと思う。
それほどまでに追う「夢」のわけ、時折見せるかなしみの理由、隠し通す苦しみの意味、そして、たまに見せてくれるはにかむような微笑のことを。
・・・・・です。
声にならないほどの小ささで、そっと耳元に囁いてみる。
ぴくん、と青いそれが動いた。
・・・・き、です。
もっと小声で囁く。
クールでドライな心に届くように。
悪い夢を見ないように。
せっかくの新しい朝なのだ。
こんなにも鮮やかな。
リナもガウリイもゼルガディスの寝顔をよく知らないと言う。近づくとたいてい目を覚ましているのだそうだ。
言われてみればゼルガディスは自分の前だと寝顔を見せていることが多い気がしないでもない。今日とて勢い良くノックして挨拶付きでドアを開けてなおこうなのだから。
いつだったかゼルガディス本人も苦く笑っていた。
「お前さんの気配は変わってるな」
触れないことがあるらしい。彼が自分を警戒していない証拠なのか、あるいは多分に重要視していないためか。アメリアは前者と思うことに決めている。警戒されるよりはずっといい。たとえどんな理由があったとしても。
日の出を告げる街の鐘が響き始めた。
ゼルガディスの青い目蓋が動く。
実のところ寝起きのリアクションはわかっている。
「っ・・・・・・・・どうやって入った?」
だの、
「いつからそこに居た?」
だのといったおよそ物騒な問いかけからそれは始まり、彼女が話をすると彼は唖然とし、「気づかなかった」などと独りごちつつ黙り込む。普段のわかりにくい表情からは想像できないそういうシンプルな態度も寝起きならではだ。
ゼルガディスが身じろぎし、小さく吐息を漏らす。
あと少し、ほんの数瞬で、その瞳に自分が映されることだろう。
だから笑って。
こんなふうに共に迎える朝が、彼にとって良いものとなりますように−−−−−−
二度目の目覚めの挨拶は、なおいつも通り元気良く。
アメリアは息を大きく吸い込んだ。
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