逆 |
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「んんんん〜〜〜〜〜」
こそり。
「んーー。んーー。」
かさり。
「んんんんん」
ぽさり。
どうしてもとれないのである。
釣り棚の上のポプリ。
なまじゆったりと大きな袋で包まれているものだから、指が触れる度に袋ごと傾いて逃げてしまうのだ。
「あ〜〜〜〜もうぅ〜〜〜〜」
アメリアは頬を膨らませつつ振り返った。
「ゼルガディスさんも手伝って下さいよ〜〜〜」
アメリアの数歩後ろに立っているゼルガディスは町中とあって例の怪しい覆面姿である。いつものように腕を組み、彼女を眺めている視線から伺える表情は、何やら微妙にあきれ顔だ。
釣り棚はそう高い位置にあるわけではない。だから小柄なアメリアが精一杯背伸びをし、がんばって腕を伸ばせば袋が指に触れるのである。しかしなまじその位置にあることが彼女の闘魂に火をつけてしまったらしい。ジャンプしたり片足立ちになったり、指先を振ってみたり突き出してみたり、「ん」の音をやたら連発しながらかれこれ十分近く大奮闘している。たとえばそこの踏み台に昇って取るとか、軽く浮遊を唱えて浮いて取るとか、あるいは向こうの店員に声を掛けてとってもらうとか、そういうことはこの際考えてもいないらしい。
ゼルガディスも手伝ってやろうと思わなかったわけではないのだが、やたら真剣なアメリアの雰囲気と見ていて飽きないころころと変わる彼女の表情につられて、ついタイミングを逃してしまった。
「一つでいいのか?」
軽く肩を竦め、膨らみまくった白い頬を一瞥して、彼にとってはすぐ目前の包みをとってやる。
「ありがとうございます!!」
ポン。
勢いよく弾みをつけて、小さな手がそれを受け取った。
「ゼルガディスさんだったら何にだって手が届きそうですねっ」
「お前はもう少し周りを見渡す練習をしろ。あんなに苦労しなくてもそばに踏み台だってあっただろう」
「ゼルガディスさんわかってませんね?! 苦労は経験してこそ意味を持つんです!」
そういう種類の苦労ではないと思うが。
密かなツッコミを心の中だけで入れつつ、思わずため息を漏らした瞬間。
がば。
ゼルガディスは思わぬ力で前のめりに屈まされていた。
「それにですね」
息がかかるほどの近くに、アメリアの得意そうな笑顔。
「ほんとうに届かなかったらこうやって届かせたらいいんですっ。「逆もまた真なり」ですよ!」
甘い香りに包まれ、アメリアの両腕に上半身を囚われた姿勢のまま、ゼルガディスはもう一度軽く肩を竦めてみせた。
まあ−−−−それでいい。
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