言わない |
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アメリアいきつけのカフェのマスターが彼女を気に入っているらしい。「どこから来たの?」「年はいくつ?」などと聞いてくると言う。
「けっこうハンサムな人よね。長髪でちょっとタレ目の優男風でさ。ゼルとはぜんぜん違うタイプ」
「そーですね。ゼルガディスさんとはぜんぜん違いますね」
この形容にもちろん深い意味はない。
「で? なんて答えたの?」
「なんてって。そのままですよ?」
本人的にはいたって大真面目にアメリアがまたとぼけたことを言う。
「でも今日はなんか、彼氏いるの?って聞かれました」
「ふぅん」
リナがちらと向いを見やる。
「ですってよ」
「何がだ」
テーブルを挟んで本を開いていた覆面男はあっさり流し、興味なげに本のページを捲った。
「今日は「どんな人が好みなの?」って聞かれちゃいました」
「そういやアメリアってどんな奴がいいんだ? リナみたいに白馬の王子様で玉の輿か?」
「白馬の王子ってのはむしろなりたい方よね、あんたは」
「そんなことはないですよ!ヒーローには憧れますけどっ。やっぱりカッコ良くて、いつも何考えてるのかよくわからないけどほんとはすっごく優しくて、強くて、頭も良くて、クールビューティーな感じの・・・えと・・・・そーゆーオウジサマがですね・・・・」
「そりゃむずかしいわ(ぞ)アメリア」
「そ、そんなことないです! ね、ゼルガディスさん!!」
「さあな」
白頭巾男は俺には関係ないとばかりの無表情で剣の手入れに余念がない。
「今日は「今度一緒に遊びに行こう」って誘われましたよ」
「へえぇ。急展開じゃない」
「でももうすぐこの街を出発するでしょう? だからお断りしました」
「何、あんた行きたかったの?」
「とっても夕陽が綺麗に見えるところがあるんだそうです。やっぱり見てみたいじゃないですか〜。なんだかロマンチックだし!」
ロマンチックな雰囲気の意味を理解していない無邪気な笑顔でアメリアが笑う。
ゼルガディスは小さくため息をつき、手元のコーヒーを呷った。
「なので、今日で最後なんです。美味しい紅茶、ありがとうございました」
「そっかー・・・・」
お代を支払い、ぺこりとお辞儀をするアメリアを、マスターはしげしげと見つめた。
「ね、アメリアちゃん。あのさ−−−−」
言いかけてアメリアの肩に手を伸ばした、その時。
ちりん。
凛とした響きとともに入り口の扉が開いた。
ノブを手に男が立っている。
全身白尽くめ、背の高い、覆面姿の−−−−
「ゼルガディスさん!」
アメリアの笑顔が弾けた。
「どうしたんですか? 今日は図書館に行ってくるって言ってたのに!」
図書館は正反対の方向にあるのだ。しかしゼルガディスはそれには答えず、ただ一言、
「そろそろ帰るぞ」
「はい! それじゃあ失礼しますね!」
「・・ああ。じゃあね」
アメリアの手が軽快に振られ、マスターの笑顔は扉の向こうに消えた。
アメリアが納得できなかったのは、宿につくまでの間中ゼルガディスが一言も口を聞かず言いようもないほど不機嫌だったことである。
アメリアが訳がわからぬままながらどれほどなだめても、ゼルガディスの機嫌は結局街を出るまで直らなかったのだった・・。
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