チョコなふたり |
---|
お菓子屋さんの一角にて。
にこにこにこ。
満面笑顔のアメリアの手のひらに載っているのは、できあがったばかりの小さな二つのお人形。
もちろんチョコ製(笑)
親指ほどの大きさの、2頭身ゼルガディスと2頭身アメリア。
ゼルガディスはお菓子の剣を佩き、アメリアはヒーローの決めポーズと、ちびっちゃいわりになかなかきまっているのはアメリアの苦労の賜物だ。
これなら量も少ないし、甘味も抑えてあるし。おとなっぽく(?)中にお酒も入れられたし。
きょろ。
きょろ。
辺りを見回して、
えい。
人形ゼルガディスにこっそり・・・願掛けのキス。
−−−ゼルガディスさん、受け取ってくれるかなあ。
大切に箱に詰めて、アメリアは宿屋へ駆け出した。
その途中−−−−
「この辺りに花屋さんはないかしら?」
「さっき向こうの通りで見かけたような。はい。わたしがご案内します!」
「おじいさん、どうかされたんですか?」
「パイプをのう・・・落としてしまったようなんじゃ・・・」
「まあたいへん。お手伝いしますわ。二人で探せばきっと見つかります!がんばりましょう!」
「うわあああん」
「どうしたの?おなかでもいたいの?」
「おかーさんがいないのー。わあああん」
「まいごになっちゃったのね。大丈夫。いっしょにさがしてあげる。ほら、泣かないで。ね?」
「・・・うん。ぐすん」
「おかーさーん。どこですかー」
「・・・・」
子供がきれいな袋(チョコ入り)を興味深げにいじくり回し始めたことをアメリアは知らない。
「大変だ!ケガ人が!!」
「しっかりしてくださいっ!わたしがすぐに助けてあげますから!気を確かに持って!!行きますよ!リカバリィ−!」
「どろぼうだーっっ」「あっ逃げていくぞっ」
「お待ちなさいそこの人!・・・わかりました。あくまで刃向かうと言うのなら容赦はしませんッ。正義の名のもとにこのアメリアが鉄槌をくだしてあげます!とおおおおおお!!」
宿屋についたのは陽もとっぷり沈んだ頃。
「あれ?」
宿屋の入り口に見慣れた細い人影。
「ゼルガディスさん!」
「遅かったな」
「すみません。今日はいろんな人に会っちゃって。・・・わたしのこと、待っててくれたんですか?」
「メシにするぞ」
そっぽを向いた横顔が少し照れているよう。
うれしい。・・・とっても。
「あ!待って下さいゼルガディスさん。あのう−−−−はい。これ。・・・」
「なんだ」
「チョコレートです。えぇと、その・・・今日は・・・ですね、この国では、女の人が男の人にチョコをあげ・・・る日だって聞いて。わたし、ゼ、ゼルガディスさんに−−−−」
博識ゼルガディスが実は由来も目的もチョコレートの意味もちゃんと知っていたりするのは言う間でもない。でも姫にはないしょ(笑)
「ゼ、ゼルガディスさんのお口にあうかなと思って、砂糖も控えめにして、中にお酒も入ってるし、そんなに甘くないと・・・思うんです。あの・・・よ、良かったら・・・」
ゼルガディスは無言で箱を受け取ると、包みを解いて、
「お前が作ったのか?」
ふたをあける。
「は、はい!」
「・・・・
!!?」
「がんばってつくっちゃいました。えへへ。−−−どうしたんですか?」
「・・・」
「あれ?もしかして・・・くずれちゃってます・・・?途中ちょっと走り回ったりしたから−−−」
「あ−−−ああ。少し、な。いや、気にしなくていい」
にこ。
さり気なく中身をアメリアの視線からかばったりなんかして。
アメリア、こちらは安心してにこにこにこ。
部屋に戻っていく彼女のうれしそうな笑顔が完全に見えなくなってから、ゼルガディスはおそるおそる箱の中身を見直した。
ヒーローアメリア人形。
何故かみごとに無傷。
その足下・・・
アイシングの目を無惨に溶け流し、頭はもげ、菓子の剣を胸に突き刺し、傷口からどっくどっくと赤い酒の血を流して−−−−
人形ゼルガディスはどうみても、
こと切れていた・・・ (汗)
「走り回って、か」
あのアメリアのこと。
チョコを抱えつつ熱い正義を広めまくっていたのだろう。
ため息まじりに自分の人形を見やり、それからヒーローアメリアをつまみとる。
しばらく眺め、そっと小さく微笑んで、ゼルガディスはその甘い口元に口づけた。
戻ってきた姫が後ろで真っ赤に立ち尽くしているのも知らず−−−−。
トップへ | 小説トップへ |
---|