そんな毎日


一瞬、密が短く、ア、と声を発した。
「どうしたの?」
「誕生日だ。」
今度は俺が、ア、と声を発する番だった。
たった今、時計の針が俺の誕生日が来たことを告げた。

誕生日。
おめでとう。

それだけ言うと密は俺の胸におでこをくっつけるようにして眠ってしまった。
もしかして、それを言うために待っていてくれたんだろうか。
特別なキスもしないで眠ってしまうなんて、この恋人らしくて。喉の奥で小さく笑った。

無理に頑張る必要なんて、ないのかな。
密の寝顔を見ているとそう思えてきた。
特別なことを、特別だって騒ぎ立てなくても、こうやって受諾してくれる相手がいる。
毎日と、ちっとも変わらないんだ。
ただ、儀式もなしに小さな王冠をそっと被されたような、そう言う感じ。
密の声を、もう一度思い出した。

密が、好きだよ。

今日、密が目を覚ましたら一番に伝えようと思った。
誕生日を過ぎたからって、変わることなんて今更ないけれど、毎日毎日、どんどん密のコトが好きになっていくから。
特別なことをしてるわけでもないけれど、密も俺のコト、ちょっとずつ好きになってくれたら嬉しいな、なんて。

普通でいいよね。無理に頑張らなくっていいよね。
けど、時々無茶するのは、密にいいとこ、見せたいからだよ。
そう言ったら笑われちゃうかな。それでもいいよ。

密に出会ってからは、一日一日がとても大事なものなんだって思えるようになってきた。
俺って、成長してるじゃん。体は成長しないし、年の数は無意味に増えてく。
でも。
密、心はいつまでも成長するみたいだよ。そんなこと、密はとっくに気がついてるかもしれないけど。

だから、毎日好きだって伝えたいし、毎日キスもしたい。時々、ケンカして、仲直りもしよう。
そして、気がついた頃にまた来年の今日になってるといいなあッて思ってる。
来年も、今年と同じことを考えられたら、きっと幸せだなって感じてる。

今日から、またいつもと変わらない、そんな毎日が始まる。

fin.

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