きっと、たぶん


都筑とケンカをした。
理由は些細なことだった。お互いに譲れなくて言い争いをしてそこからはもう、ドツボってヤツだ。それからもう何日か口を聞いていない。
周りは、やれやれまたかって言う目で見てくるし、よからぬ噂は立ち始めるし、いい加減うんざりしてきた。仲直りしてやってもいい、と思う。ただし、都筑が謝ってきたらの話しだ。

俺がそう言う気持ちになってるって、気がついてないのか、都筑はいっこうに謝ってこない。
おまえ。どうすんだよ。もうすぐ誕生日だろ。いい加減謝れっての。
買ってしまったあいつへの誕生日プレゼントを睨み付けて、内心そう毒づいた。
でも。
都筑との中は相変わらずそのままで、もう明後日は都筑の誕生日だ。
どうすればいいのか分からなくて、焦りだけが募っていく。
そんなとき、亘理さんにラボに来ないかと誘われた。

「まぁ、座ってや。ちょお、汚いけど。」
「はい…。」
思い切って相談しようと思って、ここに来ていた。どうすれば、都筑に誕生日プレゼントを渡せるのか。思い切って聞いてみようと思ってる。
コーヒーが入ったマグカップを渡されて、
「坊な。自分から謝ったらええやん。」
口を開こうとした瞬間、亘理さんにそう言われた。
「え?」
「喧嘩しとるんやろ?んで、坊は仲直りしてもええかなーっておもっとる。違うか?」
何で、亘理さんはエンパスでもないのにそんなことが分かるんだろう…。
「はい…。あいつがゴメンって言ってきたら許そうかな、とは思ってますけど…。」
「それじゃあ、都筑が絶対謝るのなんか嫌やて思ってたらどうする?」
「え…。」
考えてなかった。今までケンカしたら絶対あいつが先に謝ってきたから。
「でも…自分からなんて…」
「実はな、都筑からだいたいの理由は聞いてん。それなぁ、どっちが悪いとかないと思うで?
まあ、強いて言えばどっちも悪いんと違う?それでお互いに自分は悪くないって思ってたら永遠に仲直りなんかされへんで?現に都筑はこぉ、頑なに自分は悪ないってゆっとったし。」
「えいえん…に?」
「そ。ずーっとや。」
それでも坊はええの?と亘理さんは付け足した。
確かに、都筑が謝りたいと思わなかったら、俺はずーっと待ってるんだろうか。そしてずっと、今のままで口も聞かないで?
そんなの、嫌だ。
「あのっ…俺。…ありがとうございました。」
ぺこ、と頭を下げると、亘理さんは頭をくしゃくしゃって撫でてくれた。

謝ろう。そう思ったけどなんて声掛けていいか分からなくて、結局都筑の誕生日は明日だ。
数時間後には日付が変わって、それで、俺は謝れなかったら、何か本当に永遠にこのままのような気がしてきた。だから、そんなの、嫌なんだって。
自分に言い聞かせて、部屋を出る。リュックにかって置いたあいつへのプレゼントを詰め込んで。

都筑の部屋は明かりがついてなくて、ドアを叩いても誰も出てくる様子がない。
まだ帰ってきてないのか?
腕の時計を確かめると、もう11持を回っていた。何やってんだよ、ばか都筑。
そう思って、ドアにもたれて座り込む。膝におでこをくっつけて深呼吸すると、何でか涙が出てきた。
「かっこわりぃ。」
小さく呟いて、にじんだ涙を拭くと、聞き慣れた声で、鼻歌何か歌いながら足音が近付いてきた。
のろのろと顔を上げると、やっぱり都筑がたっている。
「何、やってんの?」
ちょっとビックリした顔で言ってすぐ不機嫌な顔になる。答えずにいると、都筑も黙ったままで部屋の家具をあけた。
「入ったら?」
振り返りもしないで都筑が言う。都筑の後ろについてはいると都筑はさっさと自分の位置に腰を下ろした。何となくその横のいつもの位置には座りにくくて、都筑と向かい合って座る。
気まずい空気が流れているけど、一生懸命声を出した。
「何、やってたんだ。今まで…」
「残業…してたら課長が来て。夕飯おごってもらってた。」
また少し沈黙。今度は都筑が口を開いた。
「…密こそ。うちの前で何してたんだよ。」
「………んだよ。」
「え?」
「お前、待ってたんだよ!」
あ、ダメだ。と思った瞬間には涙がぼろぼろ出た。リュックから乱暴に包みを取り出すと都筑の胸元に押しつけた。
「これ、渡して謝ろうと思ったんだよ!そしたら、お前、いないし!だから…。」
「密…」
「嫌なんだ。お前と口聞かないのも。ずっとケンカしたままなのもっ…!」
「………。」
「だからっ……ゴ、メン。」
ぎゅっと抱きしめられた。髪の毛をよしよしって撫でられた。子供扱いって、思ったけど今日はそれでもよかった。
「俺も。ゴメン。」
自分からぎゅうっと抱きつくことで、返事の代わりにした。
「これ、何?」
二人の間にある包みをさして都筑が言った。
「誕生日プレゼント…。ちょっと早いけど。」
「ありがと。密。すっごいうれしい。密とまたこうやってぎゅってできるのも嬉しい。密と話せるのも嬉しい。アリガト。」
都筑はそう言って俺の顔を両手で包んでそっとキスをした。いっぱい、都筑が好きだと思った。

都筑とケンカして永遠に仲直りできないなんてことはないだろう。どっちか(どっちも?)すぐに我慢できなくなるはず。だってお互いに、こんなにいっぱい好きでから。

きっと、たぶん。

fin.

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