チョコレートの事情


「都筑さん。これっ。」
「ありがとう。」
四角い包みを受け取ってにっこり微笑む。
今日ばかりは犬モードになるわけにはいかない。ビシッと大人のオトコを決め込まなければ。
なぜなら今日は男の戦いの日。その名は“セイント・ヴァレンタインディ”だからだ。
今年ももらえるチョコの総数はきっと密が一番多いんだろうけど。(そしてそれを俺が食べちゃうんだろうけど。ゴメンよ、恋する乙女たち。)
朝から暇を見つけては他の課の職員までもが顔を覗かせている。さすが召喚課職員は顔で採用されたと噂されるだけのことはあるな。なんて思っていたらお昼を過ぎるまでにデスクの上はラッピングされたチョコレート(であろう品)でいっぱいになった。

「密、何個?」
「わかんねぇ。朝来たらロッカーにも何個か入ってたし、直接もらってないのに何でか増えてんだ。」
気味悪りぃ、と密は毒づいた。
密君、女心ってーのをもうちょっと理解しなさいよ。
ジロ、と一瞥くれてから密はぼそりと呟いた。
「その女心のこもった俺へのプレゼントを食えるお前の神経も相当だよな。」
うっ!痛いところを。でもね、密!俺の密への愛心(と書いてラヴハートと読む)はそこいらの女の子には負けてないんだよ!!とこころの中で力説すると、密はガンとすねを蹴ってくれましたとさ。
「お前、仕事しろよ。」

終業のチャイムが鳴ってみんなが帰り支度を始めた頃、本日の最終陣が召喚課へやってきた。みんな思い思いの人へ熱い想い(もしくは熱い物欲?)を込めて走り寄る。密なんか数人に囲まれて固まっている。
「はい!都筑さん。」
「あ、ありがとう〜。千鶴ちゃん、弓真ちゃん、さやちゃん。」
俺のところでは召喚課の女の子たちが集まっている。
「実は、誕生日プレゼントも兼ねてるんですの。私たち二人と千鶴さん、当分また戻れないでしょう?」
「ああ、そっか。気使ってくれてアリガトね。」
そう言って笑いながら顔を上げるとなぜか密と目があった。
???
別に密の知らない子達でもないのに何でそんなに見てるんだ?もしかしてヤキモチ?嬉しいなぁ。なんて思ってたら口だけ、バーカと動かして目を逸らされてしまった。
「あー、でも割と一緒にされちゃうんだよね、2月生の男って。」
誕生日まで大量にチョコが残るんだぁ、なんて言って笑ってみたけど、それって結構切ない!?

帰り道、自分の分と密の分のチョコレートが詰まった段ボールを抱えて密と並んで帰った。
そう言えば去年はこの勢いで密んちにお泊まりしたんだっけ。もちろん…vvもね。
なんてしみじみ考えてたら同じくチョコレートの詰まった紙袋で尻叩かれた。
密、食べ物は大事にしないとダメなんだよ。
「なぁ、お前さ。」
「んー?」
「さっき、バレンタインと誕生日一緒にされるって言ってただろ。」
「うん。」
「それってそれでいいと思える?」
「うーん。別にものが欲しいワケじゃないからなぁ。気持ちがこもってたら一緒でもいいんじゃないかな?」
「ふーん。」
「何で、急に?」
「別に。」
それっきり密は何事か考え込んでいるようであんまり話してくれなかった。寂しい。

結局、お泊まりすることになりました。(だだこねました)
ご飯もおいしかったし。食後のコーヒーもおいしかったし。お風呂も気持ちよかったし!
残るところ、アレだね!なんてね!オヤジだね!(何だとぅ)
1人でそわそわしている俺を後目に、密はミネラルウォーター片手にニュース番組なんて見ている。しかも、ソファーに足を投げ出し、長くなった格好で。(つまり俺はソファーに座らせてもらってなかった!)
「ねー密ぁ。」
「…何。テレビ見えねー。」
「いーじゃん、テレビなんか。」
「したいのか?」
およ?今日の密、いつもと違う!もしかして密もその気?だったら早く言ってよね!
「ちょっと待て!最後まで話を聞け。」
そう言って密はいじわるな微笑みを浮かべた。あ、やばい。この顔は何か企んでる顔だ。そう思ったら、首に手が回されてぎゅっと、密の顔の寸前まで引き寄せられた。
こんなの初めてで、ちょっとドキドキしてしまう。
「今日もしたいんだろ。バレンタインだから。」
「はい。」
「24日もしたいよなぁ。誕生日だから。」
「はい。」
「じゃあ、どっちかにまとめようぜ。」
「は…はぁ!?」
「だから、気持ちをいーっぱいこめてやるからどっちか一日だけにしろ。」
「そんなぁ!それとこれとは別っ!」
「さっきそれでもいいって言っただろ?」
そう言うとしれっと密は体を起こした。買った、という顔をしている。
でも。甘いね、密。さっき食べたチョコレートより甘いよ。
ぎゅっと、後ろから密を抱きしめると耳元で囁く。
「密?プレゼントは一緒でもいいけど。なくても良いけど。俺は、密だったら毎日欲しいんだ。」
そして勢いよくソファーに押し倒した。やっぱり俺の勝ちでしょう?
「卑怯だ。」
「なんとでも。」

そうして重ねた唇はちょっとだけチョコレートの味がした。

fin.

back