つくり笑顔はもうイヤだ。心から出てくる笑顔を見せてほしいよ……。
人の多いこの家で。自分を居場所が見えなくなるよ。どうして……?



 ただ過ぎていく日常。
 機械的にでてくる笑顔、台詞。

(——何やってるんだろう?ボク……)

 同じ事の繰り返しの日々。色褪せた時間。

(ついていけばよかった……)

 いつも隣で光っていたフェア・ブロンドの髪。
 その光が恋しい。

(さみしいよ……、カルマ君)

 小さな膝を抱え、顔を埋める。
 普段見ることのない、姿だった。

 カルマ-KARMA-。
 フェア・ブロンドの髪、ブリリアント・グリーンの瞳、絶世の美貌の持ち主だ。
 人工海上都市リュケイオンの市長となるべくして造られた彼は、今、そのリュウケイオンと離れようとしている。
そのため、ここ、音井家を離れている。
 優しい笑顔の彼。その笑顔は、今ここにはない。
 カルマが家を離れていった日から、ハーモニーは落ち込んでいた。
——誰にも悟られないように、前より明るく振る舞っているが。

 がたんっ、という音が誰もいないリビングに響く。
 ふさぎ込んでた身体をぱっと起こし、音のした方へ飛んでいく。

——今日は皆出かけていて、夜まで帰らないことになっている。無人があり得ない音井家で、今日の留守番はハーモニーだった。

 音の出所は玄関だった。

(ど、泥棒!?)

 そう考えるのも無理はない。ここは、かなり広い-人数が多いのでそうは感じないのだが-研究所兼住まいだ。ロボット工学に興味がない人でも、裕福なんだ、と感じるだろう。
 そして、泥棒に入る。この家では珍しくないのだ、泥棒などは。
 それでも今日はやばい。いつもいる戦闘型のロボット達はみんな出払っている。今いるのは妖精のような姿のハーモニーだけだった。

「なぁんだ……」
 玄関についたハーモニーは安心して声が出た。
 玄関に立ててあったほうきや傘などが横たわっている。さっきの音はこれらが倒れたときの音だったのだろう。

「泥棒だったら楽しかったのになぁ」
 そういいながらほっとした表情を見せる。
 彼なりの強がり——、なんだろう。『カルマ君がいなくても大丈夫だもんね』と。
 
 いつもこんな時は、綺麗な髪を揺らしながら金の彼が見に行く。
その後、少し遅れて6枚の羽が姿を表す。そんな日常が懐かしい。

(いつ帰って来るんだよぉ)



「ハーモニー、行ってきますね」
そう笑顔で言ってきたのはカルマ君。
「うん、行ってらっしゃい♪」
笑顔で返したのは、ボク。
「……」
その後カルマ君の表情が曇ったんだ。
「どーしたの?カルマ君」
その理由がわからなかった。
「ハーモニーは平気なんですか?その、離れていること…」
そう言って彼は、少し寂しそうな顔をした。
「うん。別にぃ。慣れてるもん♪」
——嘘。ホントは平気なんかじゃない。でも、自分だけそう思ってたらイヤだから強がって見せた。
「そう、ですか……。行ってきますね」
最後に無理矢理造ったような笑顔を見せて、彼は行ってしまった。



「——嘘だよ」

(だから早く帰ってきてよ)

 続けて言いそうになった言葉を飲み込む。
 もう夕方だ。照明のついてないリビングは昼間とは違った顔を見せる。



暗闇の中で、悩み、そして答えを -金の光の出口を- 捜し彷徨っているみたい。
急いで、急いで 辿り着く場所はきっと……。



-Trrrrrrr Trrrrrrrr Trrr…-

 突然なり出したその音に、びくっ、と身体を震わせた。

(!!……びっくりしたぁ)

「はいは〜い、今出ますよ〜」
 そう言いながらかすかに溜息をついて、渾身の力を入れて受話器を取る。
「は〜い、音井研究所で〜す♪」
 いつもと変わらぬ明るい声で対応する。
『あ、ハーモニーですか?カルマです』

どくん

 胸が弾む。
「あ…、ああ、カルマ君♪ど、どうしたの〜?」
 動揺を悟られないように、平静を装うとする程、声が震えてくる。
『いえ、別になにもないんですが……。元気ですか?』
 忙しいはずなのに、大事な用件のない電話なんて、らしくない。
思ったことをそのまま口にする。
「ん?皆元気だよ〜。珍しいね、用もないのにカルマ君が電話なんて…」
 心に一筋の光が差す。それは優しく広がっていって。
『……貴方の声が聞きたかったから』
 雑音[ノイズ]と共に聞こえてきた言葉は、その光を全体に行き通らせた。
「カルマ君……」
 上手く言葉が紡げない。
『いえっ、あの、その…貴方に会えなくて寂しい、です…』
 なおも続けられるその言葉はハーモニーのずっと欲しかったモノだった。
『……貴方は寂しく、ないですよね……』
(そんなことっ……!!)
『すいません。私、どうかしてますね。またかけます、皆さんによろしくお伝えください』
(ダメッ!切らないで!!)
「ボクもっ!!」
 それはとっさに出た言葉。
『……?』
「ボクも!ボクもカルマ君がいないと寂しいよ…、なんでかなぁ?分かんないけど、早く帰ってきてほしい…」
 今、言わなければいけない気がした。
「ホントは平気なんかじゃない…。カルマ君がいないと、ボク、ここで、自分の居場所がないみたい」
 感情をを上手く言い表せない自分に腹が立つ。
『ハーモニー…』
「だからっ、だから早く帰ってきてね。待ってるから!!」
 会いに行くことはできないけれど、ここで、変わらず待っているから。
『あ、ありがとうございます。ハーモニーからそんな言葉が聞けるとは、正直思っていませんでした……、嬉しいです。
 必ず貴方の元に帰るので待っていてくださいね。では、失礼します』

「切れちゃった……」
 最後に聞こえてきた声は、明るかった。最後に見たカルマのつくり笑顔とはミスマッチな優しい声だった。
 ハーモニーの中で最近のカルマを思いだそうとしたら、きっとこの声が出てくるだろう。

(よかった。しばらく逢えないのにカルマ君を思い出す度あの笑顔だったら悲しくなるもんね ♪)

 胸のしこりがとれたみたいだ。
強がって、平気なフリをした別れ。あの時から何かがひっかかっていた。寂しかった。
 自分の心[なか]をゆっくり考えて。彼がいないとダメなのだと…、大切なことに気付いたら、つっかえていたモノが取れたみたいに楽になった。
そしてその寂しさは、彼の優しい声に包み込まれて、消えていった。
 自分の心を、素直に自分の心の中をカルマに伝えたら。
寂しい気持ちの裏にある、優しく彼を出迎えたいという気持ちに気付いた。

 その瞬間、モノクロだった世界が、天然色[カラー]へと変わっていった。

「ただいまー、ハーモニー。留守番ご苦労様〜」
 信彦の元気な声が玄関から聞こえる。
「おかえり〜、信彦」
 心からの笑顔で迎える。


貴方がいてくれるから、ボクはひとりじゃない。みんなひとりじゃない。
大切な人がいるから、いてくれるから、人はひとりじゃない。
-カルマ君、ダイスキ!-






はい、苦情は受け付けません。(死)
一応ボクの中では甘甘という部類に入る様な小説にしてみたつもりです。甘甘むずかしいですよぉ!!
カルハーです。カルハー趣向ではないです、樹碧は。
でもキリリクのリクエストなので書いてみました。どおよ、碧月?これで許して(笑)
お気に召さなかった方々、すみませんm( _ _ )m


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