「好きやからな・・・」

 

アイツは振り返ってそう言った

 

 

 

 

 

 

 

ボタンと桜とアイツ

 

 

 

 

俺たちは普通の中学生で普通に部活して普通に女と付き合って普通に日常を満喫していた

卒業式の日、俺の回りにはやっぱり女がいっぱい居てアイツの回りにもいっぱい居た

泣いていた後輩を優しくなだめていて

アイツは苦笑しながらも優しい瞳を女子たちに向けていた

 

桜の花が無情にも舞う

俺らしくもない。感傷的になっていたのを憶えている

 

 

ざぁーーーっと桜の花びらと共にアイツは俺に気付いた

 

いつもはうざく感じる関西弁があの時はまだ聞いていたいと思ってしまった

 

「景ちゃん・・・」

 

第二ボタン以外は全て外されていた

「困ったわ」何て言って苦笑したアイツ

 

「景ちゃんはとられなかったん?」

「バーカ。何で俺が女にやんなきゃ何ねーんだよ」

「ははは。景ちゃんらしいわ」

忍足はそう言って俺の隣に座った

 

少し嫉妬したかもしれない

簡単にボタンをやったから

馬鹿らしいと思った。

女に嫉妬するなんて・・・。

 

「卒業式にボタンやるなんてベタな事してんじゃねーよ」

アイツは少し目を丸くさせて笑った

「もてるあかしやん」

「バーカ」

桜の花びらがアイツの髪に付いた

 

「なぁ景ちゃん、ええものあげるわ」

「あ?」

アイツはブレザーに手をかけてボタンを力任せに引っ張った。

ブチッっといきおいがいい音がした

「あっ!おい?」

手の上にのせられたのはアイツの第二ボタン

「あげるわ。ソレ。」

アイツは立ち上がってパンパンと手でズボンのはらう

「な!女じゃねーんだぞ?!」

しかも第二ボタン・・・・。

欲しがった女はいっぱい居ただろう。

「憶えとってな・・?」

アイツの声が少し寂しそうになったのが気がかりで・・・

「・・・何をだよ・・?」

自分でも分かるほど声がか細くなっていただろう

アイツとみつめあった

「・・・・・・そのボタン・・・もっとたら俺のこと忘れへんかもしれへんやろ?」

忘れるだと?

忘れる訳ねーだろ・・・・・・・

「・・・・忍足・・」

「あっ!そんな辛気臭い顔せんといてや〜な?」

そう言ってアイツは俺の事をなだめるようにして笑った

 

俺もブレザーのボタンに手をかけてボタンを思いっきりひっぱった

「な・・!?景ちゃん?!」

アイツは驚いて俺の顔を覗きむ

無言でブレザーについていた二番目のボタンを差し出す

アイツはとても穏かな顔で礼を言った

「・・・・・・・ありがとな・・」

 

 

「大事にするわ」って言ってアイツは俺とは反対方向を向いた

 

さよならは言わない

決して別れでは無いと思ったから

「またな・・・。」

俺はそう呟いた

 

 

急に大きな風が吹いて俺の髪がウザイくらい桜の花びらと共に舞った

 

アイツはコッチを振り向いてこう言った

 

 

「好きやからな・・・・」

 

 

「バーカ・・・」

 

アイツの背中が見えない位になった時

 

 

俺はボタンをポケットに入れた

 

 

「好きだ・・・・。忍足・・・・」

 

呟いた言葉は桜の花びらと共に風にとけた

 

 

 

 


後書き
切ない系。季節はずれすぎだ!!春に書けよ!あたし!!