とぼとぼと、一人歩いていた俺は、カップルばかりが行き交う町並みに嫌気を覚え、
目の前の、これまたクリスマス使用となっている店に入った。


店内に入った瞬間、一気に脱力してしまった。
なぜならそこは、さっき俺がいた所よりもカップルで溢れていた場所だったからだ。
うんざりして、入ってきたドアに手をかけようとした瞬間、
俺はその店にどう考えても似つかわしくもない人物を見つけた。
背の高い、その人物は一人タバコをくわえ何かを物色していた。
あまりにも不自然な場所にいるその人に、俺は声をかけた。


「寺ずまさん・・・ですよね?」

何かを探していたのか、急に俺に声をかけられた寺ずまさんは、
勢いよく手に持っていたものを落とした。

「な、何で黒崎!!?お前がこんな所にいるんだ!?」

それはこっちのセリフである。
寺ずまさんみたいな大の大人の男がここにいる方が
絶対、おかしい。
でも、あえてそんな事は聞かないでおく。

「別に。ちょっと寒くて入ったんですけど・・・。
それより寺ずまさんこそ どうしてこんな店にいるんです?閂さんと一緒なんですか?」

閂さんの姿を探そうと、周りを見渡した俺に
寺ずまさんが慌てて左右に手をふる。

「違うぞ?!あいつとは一緒じゃねえ!あいつは確か課の女達と
パーティーやるとかで 帰ったみたいだから・・・
・・お、俺は・・・一人だぞ!?」

何をそんなに慌ててるんだろう?別にそんなに力説する事か!?
まあ、別にいいけど。

店の中は、色々なアクセサリーや食器、カバン、靴下日記など・・・
ここは世に言う”雑貨屋”だ。
雰囲気としては悪くない店なのに、今は何だか居心地が悪い。
だって、周りの感情がとてもうるさいから。
皆幸せなのはいいけど、それは二人だけで感じればいい事。
よけい者の俺なんかが聞いても、ただ煩いだけだ。
こういう時、なんで俺は精神感応力なんてやっかいな力、
もって生まれてきたんだろうって思う。

・・・今更だけど。

「寺ずまさんは、何か買いに来たんですか?ここに。
そういえばさっき落としましたよね?何か。」

寺ずまさんの後ろに隠されているもの、それがさっき落としたものだろう。
こんな所に来るぐらいなんだから、誰かのプレゼントに決まってる。
誰だろ?
寺ずまさんだったら、やっぱり閂さんなのかな??

「・・・・なんでもない・・・。俺はもう出る。
・・・黒崎はまだここで買いもんすんのか!?」

ぶっきらぼうな喋り方してる。
最近分かったけど、これは照れ隠しの為なんだって。
最初会った時は怒ってるのかと思ったんだけど。

「いえ、さっきも言いましたけど、俺寒くてここに入っただけですから。
俺も出ます。」

「・・そうか・・・。」

二人で外に出る時、寺ずまさんがドアを開けてくれた。
何気に親切。気付いてないだろうな、寺ずまさん。きっと無意識。
今度は二人で町並みを歩く。
通り過ぎる人たちは皆カップルばかりだけど、
さっきまでの沈んだ気分はどこへやら。
二人でいるって、何だか安心するっていうか、暖かい。
隣を見ると、寺ずまさんがタバコ吸ってる。

・・・ん?あれ?吸ってない??
もしかして・・・、くわえてるだけ??

「寺ずまさん、あの、そのタバコ火、ついてないですよ?」

言ったら寺ずまさん、俺の方を見て少し笑ったんだ。

「ああ?これか。だってよ、お前タバコ嫌いなんだろ?
お前の相棒さんがお前に会う時は絶対にタバコ吸うなって言ってたからよ。
でも俺ヘビースモーカーだから。これねえと落ち着かなくて。
だから火つけないでくわえてんだ。」

そう言って寺ずまさんはタバコを口から離した。
・・・俺の事、考えてくれてたんだ・・・・。
何か、嬉しい。

「あのよ、黒崎・・・。さっきの事なんだが・・・」

歩幅を俺に合わせてゆっくりと隣を歩いている寺ずまさんが
何だか言いにくそうに 顔をしかめたり、頭を掻いたりしている。
・・・何?どうしたのかな?

「さっきって?」

何か意を決したかのように寺ずまさんが俺を歩道脇に連れていった。
腕を引く力は強い。
道行く人達をかき分けながら俺達は細い裏道に入った。

「どうしたんですか?こんな所に来て?」

何か様子がいつもと違う。
寺ずまさん、本当にどうしたんだろう?

「あのな、黒崎。さっきの店に俺がいたの、気になっただろ?」

「は、い・・・。?」

真剣な眼差しで見つめられた。
寺ずまさんはそのままの姿勢で俺に話し続けた。

「あそこに入ったのは、本当は・・・。
選んでたんだ、クリスマスプレゼント。お前の。」


沈黙。

突然の事で、事態が上手く飲み込めない。
何って?寺ずまさんが俺の為に?
プレゼントを??

「でも、失敗した。だってイキナリ黒崎がいるんだもんな・・・?
ビックリし過ぎて、結局何にも買えなかった・・・・。
すまん、黒崎。」

ポケットに両手を突っ込んだまま、ばつの悪そうな表情で俺の顔を覗き込んでくる。

「本当はお前に買ってやりたかった。プレゼント・・・。
生まれて初めて、誰かに何かをやりたいなんて思った。
でもなかなか上手くいかねえな、難しい・・・。」

そう言って、寺ずまさんは両手をポケットから出して
俺の両手を包んだ。

「悪い、何わけわかんねー話してんだか?
忘れてくれよ。
・・・それより、すっかり冷えちまったな、お前の手。
氷みたいに冷たいぞ?」

手袋をしていなかった俺の両手は寺ずまさんが言う通り氷のように冷たい・・・
というか、もう指先の感覚なんてほとんどないと
言ったほうがいいのかもしれない。

「こうすりゃ、ちったあマシかもしんねえぞ?」

寺ずまさんはそう言うと、おもむろに自分の手袋を片方だけ外した。

「そっちの手にはめとけよ、そんでほら、もう一方の手、貸せ」

寺ずまさんがいない方の手に手袋をはめるように言われ、俺は素直にはめた。
そして寺ずまさんに言われるままもう片方、手袋をつけていない方の手を差し出した。
差し出した手を、寺ずまさんは躊躇いなくコートのポケットの中に入れた。

手を、繋いだまま。

「あ、あの・・!?寺ずまさん!??」

握り締められたままポケットに入れられた手は、
寺ずまさんのぬくもりを感じて 序序に暖かさを感じる様になってきた。
繋がったそこから熱いものを感じる。

「・・・黒崎、・・・お前今日、これからなんか予定とかその、誰かと待ち合わせとかねえのか?」

お互い顔もまともに見られずに会話だけが続いてる。
なんとも気恥ずかしい、今時中学生だってこんな風にはしてないと思うのに。
・・・・って事は俺達はこうゆう事に関しては中学生以下って事になるのかな??

「・・・ない、ですけど・・・。」

「そっか・・・。そうか・・・。」

それ以降、会話は続かなくなった。
というよりも、言葉なんていらなかった。

二人、ゆっくりと歩幅を合わせて街を歩く。
もちろん、繋いだ手をポケットに入れたままでーーーー。




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このまま寺ずまさんとクリスマスを迎える!

やっぱり寺ずまさんじゃなくって次の人の所に行く!