You'll Be in My Heart


はぁ……。
何度目だろう。
私は机に座ってどこを見るでもなく溜息だけを繰り返している。
あの日からずっと……。
自分の気持ちが信じられなくなってる。

「ったく、いい加減にしなよ、。」
「えっ?」
突然後ろから声をかけられ、振りかえろうとした刹那抱きしめられた。 「?」
そう声の主は一番下の妹である
私の憧れの人。

だったら、こんなに悩まないのかなぁ…何て考えてしまう。
自分の気持ちにいつだって正直な彼女。
気持ちがちゃんと言葉になる人。
ずっとずっとそれが羨ましいって思ってる。
「ったく、コレ結局ゼフェル様に渡せなかったの?」
は机の上に置いたままにしてあった封筒を手にとって光に透かせる。
「あっ…」
私がそれを取り返そうと手を伸ばすより早く、はクスクス笑ってそれを返してくれる。
「ちゃんと渡しなよ。じゃないと後悔するよ。」
「…でも…」 思わず俯いてしまう。


『勇気がない。』


何に対してかはわからないんだけど……恐い…気がする…。
を見習ったほうがいいよ。」
分かってるよ、ちゃんと頭では分かってるもん。
はさ、優しすぎるんだよね。誰に対しても。自分の気持ちよりも人の気持ちを考えるでしょ。」
そんなことないよ。
だって私は……。
「…っ…」
何も言葉にできない私には構うことなく言葉を続ける。
「まぁ、の場合自分の気持ちに気づいてないってこともあるけどね。」
そう。
少なくてもこの前はそうだった。
それでも心はちゃんと涙を流して私に教えてくれた。
だから…これをゼフェル様に渡そうって決めたのに…
バレンタインには渡せなかった。
だからせめてホワイトデーまでには渡したい。
俯いたまま、黙り込んでしまった私にはにっこり笑いかけてくれる。
「そんなが初めて自分の気持ちを自覚した人じゃない。ちゃんと言葉にしないと可愛そうだよ。」
心がね。とは、ウインクを一つして私の背中を押してくれる。
『天使』何てよく知らないけど、きっとこんな感じなんだろうなって思ってしまう。
に精一杯の笑顔を向けてさっきの封筒を持ったまま部屋から駆け出した。


『ゼフェル様に私の言葉を……。』
そう繰り返しながら。


彼の執務室の前。
私は息を整えてから、ノックする。

「開いてるぜ。」
相変わらずぶっきらぼうな彼の口調。
でも安心する。
「失礼します。」
私が中に入ると彼は慌てて作業をしていた手を休めてくれた。
「何だよ?今日は日曜って決めたから育成できねぇだろ?」
「あっ……えっと…」
本人を目の前にするとどうしても言葉が上手く紡げない私。
本当に嫌になる。

「なっ…」
「?」
ゼフェル様の声に不意に顔を上げると目の前には彼がいた。
「…ゼフェル…様…?」
涙している自分に気づいた。

何で?
どうして泣いてるの…?
「おめぇ、どうしたんだよ?!」
ゼフェル様は困ったような表情をする。
当たり前だ。
そんな彼の表情は見たくないのに…。
でもそうさせたのは私。
いろんな感情がミックスされて涙は止まることを知らない。
?」
でも言葉にしないと伝わらないことがたくさんある。

「…っ…私…ゼフェル様の事が…好きです…」

消えてしまいそうなほど小さな声。
涙に隠れた私の気持ち。
「なっ…」
ゼフェル様真っ赤な顔をしてる。
「ゼフェル様?」
刹那、視界が遮らせた。
温かい、彼の唇。


手から封筒が落ちる。


「俺もおめぇのことが好きだ…ずっと好きだった…。」
それはクリスマスにも聞かせてくれた答え。
心は軽くなって自然と笑みがこぼれる。

そんな私をゼフェル様は抱きしめてくれた。
その体温が愛しい。
心が動かされる。



ヒラリと風に乗って封筒から一輪の花が姿を見せる。
小さな白い花。
ゼフェル様は覚えてらっしゃるだろうか?
長い戦いの旅での一夜の休息の時に洞窟で見つけたあの想い出の花を。
小さな恋を結んだこの小さな奇跡を……。


おしまい?