夜の狭間


外は霧雨。薄く開けた窓から土の香りがふわりとした。
こんな夜は急に淋しくなって泣きたくなって眠れなくなる。
思い出すのはいつも故郷のこと。
レイチェルが女王になりアンジェがその補佐官に就任してからまだ半年しか経っていないが時の流れが違うアンジェの故郷はもうすでに十数年の時が流れ一度だけお忍びで訪問したアンジェはいつのまにか変わり果てた両親や友人と顔を合わせることが出来なかった。
モウ、ドコニモカエレナインダ・・・
そう思うたびに胸が締め付けられる。大好きなゼフェルのそばにいるのに。
「・・・・・ゼフェル様。寝ちゃいました?」
アンジェはゼフェルに背中を向けたまま小さくつぶやいた。
「・・・んだよ?」
背中からしっかりとした腕がアンジェを抱き寄せる。
少し吐息交じりのゼフェルの声は半分眠りに落ちていたのだろう。
ゼフェルの固くてごつごつした手を頬にあててそっと息を吐く。
背中に感じる温もりに安堵してアンジェは瞳を伏せた。
「眠れねえのか?」
「ちょっとだけ」
答えてアンジェはゼフェルの腕を解くと寝返りをうってゼフェルの胸に耳をあてた。
「ゼフェル様の音がする」
ゼフェルは花の香りのするやわらかい栗色の髪をそっとなでた。
アンジェが最近眠れないときに何を考えているか。
あの日から朝時々泣きはらした目をするようになった理由はきかなくても痛いほど分かる。
一人で泣かないようにどんなことがあってもゼフェルはアンジェと一緒の時間に寝ることにしている。
「オレが。ずっとそばにいてやる」
すこしうるんだ海の浅瀬色の瞳がゼフェルの紅い瞳をじっと見つめる。
「だから何も怖いことはないんだ」
「うん」
安心したように微笑むアンジェをゼフェルは更にきつく抱きしめる。
アンジェはゼフェルの首筋に軽くキスをしてふかく息を吐いた。
「おやすみなさい。ゼフェル様」
「あぁ」
ゼフェルもアンジェの額に軽くキスをすると瞳を閉じた。
ほどなくして聞こえる寝息。
優しい夜のかおりとゼフェルにつつまれてアンジェもやがて眠りについた。


END