Christmas for you
「よーおめー、次の日の曜空いてるか?」
ゼフェルの執務室。育成にやってきたアンジェリークにゼフェルは声をかけた。
「ごめんなさい、ゼフェル様。・・・その、次の日の曜はちょっと・・・レイチェルと約束があって・・・」
というと、アンジェリークは申し訳なさそうにうつむいた。
「そ、そっか。いや別におまえがヒマだったらかわいそうだからゆっただけだ。約束があんなら仕方ねえよな。」
内心のがっかりした気持ちをかくしながらゼフェルは慌てて言った。
「あっ、あのでも次の次の日の曜は、もしよかったら・・・予定をあ・・・空けておいてもらえませんか?」
アンジェリークは顔を真っ赤にしながらゼフェルにこう言った。
「何だよ、気の早いやつだな。まっ、おめーがどうしてもっていうんなら空けておいてやるぜ。」
ゼフェルはそっぽを向きながらOKした。
アンジェリークはほっと息をつくと、ふわりと微笑んで、
「良かった・・・お約束ですよ。じゃあ失礼します。」
「おう、またな」
アンジェリークはぺこりとお辞儀をすると、パタパタと執務室を出て行った。
「ちぇ、何だよ、じゃあこれを急いで完成させることないな・・・」
ゼフェルは、アンジェリークが執務室に入ってきたときに慌てて隠したモノを取り出してつぶやいた。
日の曜、前の晩夜更かししたゼフェルはお昼頃やっと起きだした。
「腹減ったな。カフェテラスにでもいくか。」
ぷらぷらと庭園まで歩いていくと、
「ん、あのリボンは・・・」
今まさに庭園に入ろうとしているアンジェリークを見かけた。
アンジェリークはゼフェルには気づかず、謎の商人の店に向かっているようだ。
アンジェリークを見つけた商人が店の裏に回って紙袋を取り出してきた。
それをアンジェリークに渡すときに、何かからかうようなことを言ったのだろうかアンジェリークは真っ赤になりながらそれを受け取っている。
『何だよ、誰かへのプレゼントか』
なんとなく、声をかけそびれたゼフェルはこっそりアンジェリークの後をつける形となった。
アンジェリークはそのままカフェテラスのほうへ歩いていく。
『レイチェルと約束してるってゆってたな。レイチェルには悪いが割り込んでやろうかな・・・』
アンジェリークをはさんで、レイチェルとは仲の悪いゼフェルがそんなことを考えているとカフェテラスについたアンジェリークが手を振った。その先にいたのは・・・
『ル・ルヴァ!?』
アンジェリークはうれしそうにかけよると、さっきの紙袋をルヴァに見せている。
ルヴァのほうもなにやら本を取り出してアンジェリークに差し出して話しかけている。
『ナンデ、アンジェト、ルヴァガ・・アノカミブクロハルヴァヘノプレゼントカ・・・?』
ゼフェルは自分でも気づかないうちに二人の前へ進み出ていた。
「・・・これなんかいいんじゃないですかねー。・・・えっ、ゼフェル!?」
「きゃっ、ゼフェル様!?どうしてここに・・・?」
二人は慌てて持っていたものを後ろに隠した。
「・・・今日はレイチェルと約束があるんじゃなかったのか?」
ゼフェルは低い声でアンジェリークに詰め寄った。
「あーゼフェル、落ち着いて、まあここに座ったらどうですか?」
ルヴァが慌てて声をかける。それを無視して、
「おめーが嘘つくようなやつだとは思わなかったぜ。嘘ついてまで他の男と会いたかったのかよ。みそこなったぜ!!今日もこれからも別に気兼ねなしに他の男に会いに行けばいいだ
ろ!!!」
「ちがっ、ゼフェル様、誤解です!」
泣きながらアンジェリークが言ったが、ゼフェルはそれを無視してくるりと後ろを向くと、走って庭園を後にした。
その夜遅く、エアバイクでむしゃくしゃする気持ちを吹き飛ばすかのようにあちこち走り回ってくたくたになったゼフェルが私邸に戻ると、地下室の前に誰かがしゃがみこんでいるのを見つけた。
「・・だれだ?・・・なっア・アンジェリーク」
いつ頃からいたのだろう。そこにいたのはすっかり冷え切って震えているアンジェリークだった。
「・・・ど・どうしてもゼフェル様にお会いして誤りたくて・・・あれは、ご・誤解なんです・・・」
「ばかっ、こんなに冷えて・・・風邪ひくだろ!?とりあえずなかにはいれっ」
ゼフェルはとりあえず地下室のソファーにアンジェリークを座らせ、熱いコーヒーを入れてやった。
それを飲んで少し顔色の戻ったアンジェリークはあらためてゼフェルを正面から見つめると、
「・・今日のことは本当に誤ります。ごめんなさい。でも、嘘をついたわけではないんです。あれは・・・」
「もういいよ。俺もいいすぎたんだ。・・・べつにおめーは俺のものじゃないんだし。おめーが誰と会おうとおめーの自由なんだよな・・・」
アンジェリークが何か言おうとするのをさえぎって、少しは頭の冷えたゼフェルは言った。
「ちがうんです!私が好きなのはゼフェル様だけです!!」
アンジェリークは思わず言ってしまってから、見る見る真っ赤になってうつむいてしまった。
ゼフェルも突然の愛の告白に真っ赤になって、
「おっ、おめー今なんて、お、俺のことをす・す・すきだって!?」
アンジェリークは真っ赤になったまま、もじもじしている。
「それならなんで、ルヴァなんかと会ってたりしたんだ。」
アンジェリークはようやく顔を上げると
「ゼフェル様、次の日の曜何の日だかお分かりですか?」
「次の日の曜って・・24日だろ。あ・・・クリスマス・イブか!?」
アンジェリークはこくんとうなづくと、
「そうです。私、ゼフェル様と二人であのお祝いがしたくて・・・それでプレゼントにゼフェル様のお好きなスパイス料理を作ろうと思って。私こう見えても料理は得意なんですけど、
スパイス料理はあんまり作ったことがなくって・・・。それでルヴァ様に相談したら『私邸にスパイス料理のレシピ集があったはずだから』っておっしゃってくださって、今日貸していただけることになってたんです。」
「何だよ、それで会ってたのか。んじゃレイチェルとは・・・」
「レイチェルには私が作った料理を試食してもらうことになってたんです。初めて作るので一度練習しておこうと思って・・・」
「じゃ、商人の店で買ってたあの紙袋は・・」
「それもご覧になってたんですか?あれはスパイスです。聖地ではなかなか手に入らないので商品さんにお願いして取り寄せていただいたんです。『こんなに大量に購入して誰に食べさせるん?』ってからかわれちゃいましたけど。」
この聖地に辛党はゼフェル一人だ。商人はわかっていてからかったのだろう。
「そうなのか・・・わりい。おれのはやとちりだったんだな。」
「いいんです。私がへんに誤解されるような行動をとったのがいけなかったんです。」
二人はお互いに顔を見合わせて微笑んだ。
「そっか、クリスマスイブ楽しみだな。おめーの手料理。」
「あっ、でも結局試食できなかったので味の保証は出来ませんけど・・・」
「ばーか。おめーが作ってくれるもんならなんでも食ってやるぜ!じゃあ、俺からもなんかプレゼント用意しないとな。」
「いいんです。気にしないで下さい。」
「実はもう作ってあるんだ。別にクリスマスプレゼントのつもりじゃなかったんだけどよ。」
昨夜、遅くまでかかって作り上げたオルゴールを思い浮かべながらゼフェルはいった。
クリスマスイブの日、アンジェリークの手料理を食べながら、ゼフェルはオルゴールとあれから急いで作り上げたペアリングをアンジェリークにプレゼントした。
「来年もそれから先もずーっと二人でお祝いしような・・・」
「はい・・ゼフェル様」
〜fin〜