クリスマスダンス


 ある日女王の謁見で女王が言った。

「クリスマスパーティをします」

 至極楽しそうにニッコリ笑って言う女王。年少の者たちは素直に喜んだが、年長者、特に

守護聖首座は顔を顰めて反対した。

「今は女王試験なのです。陛下、パーティなどと浮かれている場合ではありません」

 眉間に皺を寄せて反対するジュリアスに女王はあっけらかんと言った。

「だからこそやるのよ。女王候補達もたまには息抜きしたいだろうし」

 本当に息抜きしたいのはどこのどなたですかと思ったが「ダメ?」とおねだりするような瞳

で見つめられそれを口にせずジュリアスはしぶしぶ承諾した。

 そんな具合に決まったクリスマスパーティ。女王主催なので正装でとなりかなり大仰なも

のとなった。

 

☆ ☆ ☆

 煌びやかに飾られた宮殿のホールで正装をした守護聖や教官、協力者、女王、女王補

佐官が談笑する中、鋼の守護聖ゼフェルは周りの雰囲気に似つかわしくないぶすくれた表

情で壁際に立っていた。

 少し拗ねたようなゼフェルの視線の先にいるのは女王候補アンジェリーク。

 スモルニィの制服ではなくドレスを着、いつものサイドを結んだだけの栗色の髪は上で結

い上げられ雰囲気が違って見えた。

 いつもより大人っぽいアンジェリークに声を掛けることに戸惑い躊躇しているうちに他の

男達に先を超されてしまった。

「これじゃ近寄れねぇじゃねーか」

 面白くなさそうにぼそっと言うと音楽が流れ出した。ダンスの時間が始まったらしい。ゼ

フェルはアンジェリークを見た。

 本当はアンジェリークと踊りたくて興味のないパーティに出たのだ。

 本音ではクリスマスはアンジェリークを誘って自分の家で二人っきりのパーティをしたかっ

たのだ。

「あいつら!!」

 アンジェリークは困ったように手を振っていたがオスカーがやんわりそれを止めてアン

ジェリークをホールの真ん中に連れ出した。

 成り行きでアンジェリークはオスカーに手を取られ踊るはめになってしまった。

 二人で踊る姿はお似合いでゼフェルは視線を逸らした。

 しばらくして視線を戻すとアンジェリークはランディと踊っていた。

 次にセイラン、ティムカ、オリヴィエ・・・次々と相手が代わっていく。

「ゼフェル様は踊らないんですか?」

 ムカムカしながら見ているとふいに笑いの含んだ声で話しかけられた。

「レイチェルかよ。おめーと踊る気ねぇよ」

「ワタシとじゃなく、アンジェとですよ。アンジェと踊りたいんじゃないですか?」

 図星を差されドキッとしたが興味なさそうに答える。

「何でオレがアンジェと踊らなくちゃいけねぇんだよ。おめーこそ踊らねぇのか?」

「ワタシはもう踊りましたよ」

 クスクス笑いながらレイチェルもアンジェリークの方を見た。

「あーあ、あのコ今度は商人さんと踊ってるよ。アンジェ断ってるのになあ」

 レイチェルが呆れたように言うのを聞きゼフェルはピクリと反応する。

「あいつ、断ってんのか?」

「そうですよ。でも皆さん積極的だから結局押しきられちゃうんです」

「何だよ、断ってんのか」

 ホッとしたようなゼフェルにレイチェルがにやにやと笑う。それを見てカッと赤くなった。

「べ、別にオレはあいつが誰と踊ろうが関係ねぇからな!」

「ワタシは何も言ってませんけど?」

 墓穴を掘ってしまいますます赤くなってしまう。怒ったようにぷいっと横を向きアンジェリー

クを見た。

 アンジェリークは今度はマルセルと踊っている。それを見たゼフェルはムッと口を尖らせ

たが次に怪訝そうに眉を顰めた。

「あいつ・・・」

「どうしたんですか?」

 レイチェルがたずねたが答えずアンジェリークとマルセルに近づいていった。

 踊っている二人に近づきアンジェリークをマルセルから離す。

「ゼフェル、 アンジェは僕と踊ってるんだよ! ちゃんと順番守ってよね!」

「うるせぇ!」

 マルセルがぷっと膨れたが一喝して黙らせる。そしてアンジェリークの手を引いてその場

を離れた。

 有無を言わせないゼフェルの行動に周りは唖然と見送るだけだった。

 

☆ ☆ ☆

 バルコニーに出たゼフェルはアンジェリークに向いた。

「ちょっとそこにもたれてろ」

 怒った口調で言われアンジェリークは大人しくゼフェルの言う通りにバルコニーの手すり

にもたれかかった。

 ゼフェルは物も言わずにしゃがむとアンジェリークの足を取った。アンジェリークの履いて

いる踵の高い靴を脱がせる。

「ゼフェル様!?」

 アンジェリークは突然のゼフェルの行動に焦るがゼフェルに睨まれ黙った。

「おめーバカか! 靴擦れおこしてんじゃねぇか。どうしてこうなるまで踊ってたんだよ!」

 踊っているアンジェリークがほんの少し足を引きずっていることに気が付きもしかしたらと

思ったら案の定、足が痛々しいことになっていた。

 アンジェリークは叱られてしまいしゅんと落ち込んでいる。

「嫌なら嫌ってはっきり言えよ」

「ごめんなさい」

 しゅぅんと肩を落としているアンジェリークを見たらそれ以上何も言えずゼフェルはため

息を吐いた。

「そんなんじゃ歩くのも痛いだろ? 寮に送ってやるから帰るぜ」

「嫌です」

 きっぱりと拒否されてしまいムカッとする。「嫌なら嫌ってはっきり言え」と言ったのは自分

なのだが、だからといって何も今ここで言わなくてもいいのに。

「まだ踊ってないもん・・・」

「ああそうかよ! じゃおめーは皆と楽しく踊ってろよ! オレは帰るかんな!」

 腹が立ち怒鳴るとアンジェリークがポロポロと泣き出した。

「ゼフェル様と踊りたいのに・・・。帰っちゃやだぁ」

 ふぇーんと泣くアンジェリークを驚きで目を丸くしながら見つめる。

 アンジェリークも自分と踊りたがっていたのかとやっと気付いたゼフェルは今度は自分に

腹が立った。

「もっと早くおめーを誘えば良かったんだな」

 ふぇっ・・・ふぇっ・・・としゃっくりを上げているアンジェリークの頭を自分の胸に押しつけ

る。

「早く泣き止めよ。そんな顔で踊る気か?」

 ぶんぶんと頭を振って両手でゴシゴシと目を擦る仕草が可愛くてくすっと笑う。

 しばらく待ち何とか泣き止んだアンジェリークに靴を履かせた。

「もし歩けなくなってもオレがおぶってやっからな」

 ゼフェルは赤くなって頷くアンジェリークの手を取りホールへ戻った。

 

「アンジェ! 次はメルと踊って!」

 メルが駆け寄ってきたがゼフェルはアンジェリークを自分の方へ引き寄せて周りに聞え

るような大声で言った。

「悪いな、こいつと踊れるのはオレだけなんだ」

 どよめいた周囲を尻目にゼフェルはアンジェリークにニッと笑ってみせる。

「そうだよな」

 アンジェリークは恥ずかしさで真っ赤になったがそれでもしっかり頷いた。

 それ以来毎年クリスマスパーティはアンジェリークのパートナーはゼフェルだけになった

という。

 

〜fin〜