ホワイトデイ


 3月14日。
 今日はゼフェル様と約束がある。
 1ヶ月前のバレンタインに、私はゼフェル様にチョコレートを渡した。
 好きですという言葉と一緒に。
 物凄くドキドキしたけど、どうしても伝えたかったから。
 ゼフェル様はビックリしてたけど、私の気持ちに答えてくれた。
 そして、あの日から私たちは恋人同士になった。
 まだお互いに馴れないから、ちょっとギクシャクしてるけど・・・。


 ・・そろそろ行かないと約束の時間に遅れてしまう。
 出かける前に、もう一度かがみの前で全身をチェックして、私はドアを開け、外へ出た。


「わぁ、いい天気ー。」
 空は雲一つ無い青空。風もずいぶん春めいていて暖かい。
 約束した森の湖も、光が乱反射して眩しいぐらいだった。
「・・・ゼフェル様?」
 まだ来てないのかしら?
 湖の周りには人影が見え無い。
「あ・・・。」
 いた。湖の奥にある滝の側。一本の木の下で、横になってるのは・・・。
「ゼフェル様・・・。」
 そっと近づいて声をかける。なぜか小声になってしまったけど。
「・・・。」
 わぁ・・。ぐっすり寝てる・・。
 隣に座って覗き込んでみる。
 こんなに近くで顔を見るなんてはじめてよね・・・。
 まつげ・・長い、な。それに鼻筋通ってるし・・。
 くちびるの形・・綺麗・・。
 どきん!
 私ってば、何考えてるの〜?
 だめ・・だめだってば・・。
 でも身体はまったく動けない。いや、更にゼフェル様に近づいていく。
 気が付いたときには眼を閉じていた。
 くちびるに微かに柔かな感触。
「・・・。」
 次に眼を開けたとき、赤い瞳と視線が合った。
「!!」
 ・・・どうし・・よう。
 一気に頭に血が上った。
「ゼフェル・・様・・。」
 離れようとした頭にゼフェル様の腕が回され、もう一度引き寄せられた。
 さっきより強く唇が重なる。
 心臓が止まるほどドキドキしてる。
 会わせた唇の間から、私の口の中にコロン、と何かが入ってくる。
 ミントの香り・・・。
「・・・キャンディ?」
 顔を上げると、そっぽを向いたゼフェル様がいて・・・。
「・・その・・お返しだ、バレンタインの。」
 そういった後、こっちを向いてニヤリと笑い、
「・・にしても、まさか、おめ〜に襲われるた〜な。」と言った。
「!!」
 いつから起きてたんだろう?もしかして始めから?
 尋ねたら思ったとおりの答えが返ってきそう・・・。
 何も言えずに真っ赤になっている私に、ゼフェル様はもう一回、ミントの香りのキスをくれた。


 来年のホワイトデイも、キャンディが欲しいな・・・もちろん、ゼフェル様のキス付きで。


〜fin〜