宇宙最強!!
第0章 〜少年少女の話〜


 聖地にある公園、そこで少年と少女が剣の試合をしていた。
 少女の方は年は8〜9歳。紅色の瞳に栗色の肩ほどある髪を黄色のリボンで束ね、動きやすそうな白いキュロットパンツの下に膝上の黒いスパッツをはき、オレンジ色のTシャツを着ている。
 少年の方は年は10〜11。紫の瞳に所々跳ねている薄茶色の髪を短く切り、空色のタートルネックのセーターを着、動きやすさを重視したらしい焦げ茶のズボンをはいていた。
 キィンと刀と刀が打ち合う音が辺りに響く。
 どちらも剣の扱いに長けているようで勝負は五分と五分のように見えるが・・・体力の分、若干少年の方に分があるようだ。
 それでも少女は諦めずに少年に剣を振るう。少年もそれに応じてしばらく打ち合いを続けていたが・・・少年の動きがいきなり鈍くなり、隙ができた。
 少女はその隙を狙って最後の力を振り絞って少年の剣を弾き飛ばし・・・そして・・・その場に座り込んでしまった。
「手加減は無しっていったのに!!なんで手加減するのよ!フェイン!」
 そう叫んでへたり込んでいた少女は息も荒くきっと目の前の少年を睨んだ。
 フェインと呼ばれた少年は頭を罰が悪そうに掻くと目の前の少女に瞳を向けた。
「だって、リーフェやめようとしないだろ?このままじゃ大変だと思って・・・。」
「大きなお世話よ!お情けで勝たせてもらっても、ちっとも嬉しくないんだから!」
 リーフェは深呼吸して立ち上がると剣を鞘に戻しズボンの砂を払うと、髪を束ねていたリボンをはずし、キュロットを脱ぎ、代わりにそばのベンチに置いておいた白のミニスカートをはき灰色の長めのベストを着た。
 ベストのポケットからは金属特有の音をさせていた。 
 フェインは少し困惑した表情になった。
「ごめん、悪かったよリーフェ。でもさぁ、君、一応女の子だろ?体力の差だってあるんだから少しは考えるべきだと思う・・・。」
「女だからって馬鹿にしないでよね?・・・フェインなんてこてんこてんにしてやれるくらいの腕前になってあげるから、・・・覚悟しておきなよ!」
 そういうと、リーフェはその場から駈け去っていった。残されたフェインはやれやれ・・・という感じで手を額に当て・・・ようとしたその時。
「・・・?!」
 後ろから殺気を感じたフェインが振り向いたとたん巨大なハンマーがフェインめがけて空を飛び・・・そして・・・。
 フェインは慣れた様子でそれを受け止める。
「ほんっとに!何考えてるのよ、お兄!!」
「・・・チェリル・・・。」
 物陰から出てきたのは7歳くらいの可愛らしい少女だった。
 ブロンドのショートへアに群青色の勝気な瞳。
 リボン付きの花のコサージュを胸元につけたワンピースを着ている。
「リーフェちゃんは手加減されるの嫌いだって知ってるでしょう?まったく・・・。」
「でもなぁ、俺とリーフェじゃ体力だって差があるし、身長差とかいろいろ・・・」
「それでも!リーフェちゃんは納得しないよ?それにね、リーフェちゃんはそんな事位で負けを認める子じゃないって、お兄が一番良く知ってるでしょう?」
 そういって、チェリルはフェインの横でにこりと笑った。
「リーフェちゃんは、なにがあっても諦めない人だもん。」
 それを聞いたフェインは、少し罰が悪そうに頭を書いたあと、チェリルに笑いかけあぁ、と呟いた。


 リーフェは剣を持ったままずんずんと歩いていた。
 その顔は怒りと屈辱に歪んでいる。
「あ〜!もう!腹立つ腹立つはらたつぅぅぅ!!」
「何をそんなに怒ってらっしゃるんですか?リーフェさん。」
「?!リ・・・リシテア!」
 リシテアと呼ばれた少女はにこりと笑うとその幼い金の双眸を楽しげに細めた。
「またフェインさんに手加減でもされたんですか?」
「・・・そうよ!あいつぅぅ・・・。私が女だからって馬鹿にしてぇぇぇ・・・。」
 そういって、リーフェが歯軋りをすると、リシテアはあらあらと呟きリーフェに手招きをした。
 ピンクのリボンで結った青髪の長いポニーテールが動作につられて揺れる。
「私、昨日お父様から美味しいお紅茶を頂きましたの。良かったら一緒に私の家で飲みませんか?」
「え?紅茶?」
 リーフェの顔から険しさが消える。
「お茶菓子もありますわ、私が作りましたの。」
「リシテアの作ったお菓子?!食べる!!リシテアのお菓子大好き!!」
 一気に満面の笑顔になったリ—フェを見て、リシテアはにこりと笑った。
「それでね!あいつ『女の子だろ?』だって!普段は女扱いもしないくせに・・・」
「でも、フェインさんは紳士的だと思いますわ。力加減をなさるなんて・・・。」
「でも!私は納得しないの!ってかできない!勝負に手加減するなんて!!」
 そういって、リーフェは感情に任せてカップをソーサーの上に置いた。
 がちゃん、と乱暴な音がした。
「あぁ・・・もう!」
「まぁまぁ、クッキーもどうぞ。」
 そういってリシテアがリーフェに薦めたとき・・・
「あ!リシテアのクッキーだ!俺にも頂戴vv」
「あ、できたら僕にもくれませんか?」
 二人分の少年の声が聞こえた。
 視線を後ろに回してみると、そこには金髪の6歳くらいの少年が二人。全くそっくりの顔をしていた。
 一人称を俺とした少年は瞳が緑でもう一人の少年がすみれ色の瞳で、性格は全く反対・・・といったようだった。
「あら、トリスさんにクレイスさん。えぇ、いっぱいありますから、良かったらどう
ぞ。」
 そう言ってリシテアがにこりと笑うと緑色の瞳の少年はやっりーと大きな歓声を上げた。
「俺さぁ、もう腹へって死にそうだったんだよ!」
「僕もなんです。」
「一体何してたのよ?あんたたち。」
 リーフェが不思議そうに聞いた。
「僕はフルートの練習ですけど、トリスの方は主にヴァイオリンの練習でしたね。さっきまで僕たち、リュミエール様のところに行ってたんですよ。楽器って、結構神経つかっちゃって・・・お腹減るんです。」
 そう言って、すみれ色の瞳の少年はリシテアから手渡されたクッキーの一つを齧った。
「俺はどっちかって言うとフェイン兄ちゃんに剣の稽古つけてもらう方が良かったんだけどな。でも、フェイン兄ちゃんの教え方って、優しすぎてさぁ・・・。だからってヴィク先生は怖いし・・・。」
 そういってトリスは唇を尖らすと、やはりクッキーを齧った。
「なら、私がつけてあげようか?稽古。」
「え?!マジで?!リー姉!いいの?!」
「うん。こう見えても、剣の扱いは結構得意だし。でも、私の稽古は厳しいよ?」
「いいよ!俺、頑張る!」
 トリスがにかっと笑うと、リーフェもつられて笑った。
「じゃぁ、僕も稽古つけてもらっていいですか?」
「いいよ、クレイス。」
「それじゃぁ、私は日取りさえ教えていただければ差し入れを作りますね。」
 そういって笑うリシテアに歓声が上がったのは言うまでもなし。


 これが少年少女達の日常生活。
 宇宙最強の子供たちの日常生活。
 そして、これから始まる話のプロローグ。


〜続く〜


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