聖前夜
どきどきする胸を押さえて、ドアを開いた。
キィ…。
夜更けのしん、とした空気の中では微かな音もすごく響く。
やっと通り抜けられるスペースに、身体を滑り込ませた。
ひんやりとした空気のが顔にあたって、はや上気した頬を少し覚ましてくれる。
音を立てないようにしっかりとドアを閉めて。
待ち合わせは、AM12:00 きっかり。
クリスマス・イブまで、後、少し。
夜の庭園。
外灯の光に、噴水のしぶきが淡く反射していた。
縁に腰掛けて水面を見てる彼の姿も、今日は普段とはまるで違う色をしていて…。
銀色の髪が…、闇の中で彼だけが光を放ってるみたいに、見える。
いつもは真っ直ぐに向けられる紅い瞳も、今夜は薄く伏せられていて切ないような、そんな風に見えた。
ぎゅっ、と締め付けられるように、胸が、痛い。
好きだって思う度に、少し泣きたいような・・・そんな気持ちになる。
ふいに目線を上げた彼と視線がぶつかった。
「…アンジェ。」
ふわ、って笑う顔に、またどきどきした。
ずっと見てた事、気付かれたかな?・・・どうしよう・・・。
彼が立ち上がって、たたっと走って来る。
近くまで来て、怪訝そうに首を傾げた。
「?何か、顔、紅いぞ?…大丈夫か?」
ふるふるっ。
首を思いっきり振って、大丈夫だと答えた。
「そっか?なら、いーけど・・・寒かったら言えよ?」
寒いというより、暑いくらいなんです・・・。
胸の中で答える。
最近、貴方が側にいるだけで熱に浮かされたみたいなんです。
好きだって・・・そう、言われた、あの瞬間から。
今も、声が出せないくらいに、どきどきしてます。
「あの、さ…」
頬に手をやって、少し照れたように目線を逸らせて彼がポケットから何かを差し出した。
小さな小さな、リボンに飾られた箱。
震える手で受け取る。
「・・・やる、それ。」
遂にそっぽを向かれて、でも小さな声で、そう言われた。
そっとリボンを外して、箱を開けると。
細い綺麗なリングが入っていた。
「クリスマスプレゼント。・・・ちょっと早いけど。明日は他の連中もいるだろ?・・・だから。」
そおっと指で取り出して、てのひらに乗せた。
きらきらと光る、彼の髪と同じ色。
「ずっと、一緒に・・・居ような・・・。」
彼の手がそれを摘み上げて私の薬指に飾った後、耳元に消えそうな囁きが落ちた。
そのまま抱き寄せる彼の腕で、時計が 12:00 を示す。
今までで一番幸せな、クリスマス・イブ。
〜fin〜