Written by SHIMA


 日の曜日にゼフェルはアンジェリークを誘いに来た。それは毎週日の曜日に恒

例になったこと。どちらかが言い出したわけじゃない。何時の間にかそれが当たり

前になっていた。

「今日はエアバイクで出かけようぜ」

 ゼフェルが言うとアンジェリークは嬉しそうにこくんと肯いた。そんなしぐさがゼ

フェルをどきりとさせることも気付かずにアンジェリークはニッコリ笑いかける。



「うわぁすごーい」

 エアバイクを降りると大人しい少女が歓声を上げた。両手を広げて駆けて行く。

ゼフェルはそんなアンジェリークに満足そうに笑いながら声をかけた。

「おい、そんな走らなくったって逃げねぇぞ」

 ゼフェルが連れてきたのは聖地で唯一四季がある場所だった。女王も主星出身

のせいか、常春の聖地で1個所だけ、四季がある場所があった。今の時期は春だ

と聞いてもしかしてと思い昨日のうちに下見に行ったらやはり桜が満開だった。

 絶対アンジェリークが喜んでくれると連れて来たのだが、予想以上に喜んだ姿に

ゼフェルは嬉しさが隠せなかった。

「聖地で桜が見られるなんて思いませんでした」

「女王が主星出身のお陰だな。ここだけは四季があるんだぜ」

「そうなんですか」

 薄い桃色をした花びらが空を覆い尽くし薄桃色のトンネルを作っている。アン

ジェリークはうっとりと桜を見上げた。

 風が吹くと花びらと一緒にアンジェリークの栗色の髪も舞い上げた。風が吹くた

び甘い香が漂う。それが桜の花の香りではなく、アンジェリークの髪の香りだと気

付いたゼフェルはパッと真っ赤になり横を向いた。ドキドキと騒ぐ心臓に手を当て

落ち着かせようと深呼吸する。

 ゼフェルが一人であたふたしてるのも気付かずアンジェリークは無邪気ににこに

こと微笑んで言った。

「ゼフェル様、桜のおまじないってご存知ですか?」

「何だそれ?」

 ゼフェルが首を傾げるとアンジェリークは手の平を上に挙げた。

「自然と落ちてくる桜の花びらを手のひらで受け止めると幸せになれるんです」

「はぁ? そんなの簡単じゃねぇか」

 ゼフェルもアンジェリークと同じように手のひらを上に向けて桜の花びらを受け止

めようとした。しかし、風に乗ってヒラヒラと落ちる花びらを受け止めるのは意外と

難しかった。手のひらに落ちる間際に風に流されてしまうのだ。

「結構難しいですよね」

 花びらを掴むのに悪戦苦闘しているゼフェルにくすっと笑うとアンジェリークも花

びらを受け止めようと上を見上げた。



 しばらく二人して桜の花びらを取ろうとしていたが風がやみ花びらが落ちてこなく

なった。

「ダメだな」

 ゼフェルが諦めかけたころ、

 ヒラ・・・ヒラ・・・。

 1枚の花びらが落ちてきた。

『今度こそ!』

 半ば意地になっていたゼフェルは花びらを睨むと手を出した。偶然にもアンジェ

リークもその花びらを狙っていたようでゼフェルの手の下にアンジェリークの手が

来て二人の手が重なった。まるでそれを狙っていたかのように花びらがゼフェル

の手の上に落ちてきた。

「ゼフェル様すごいです。取れましたね」

 アンジェリークが嬉しそうに言う。ゼフェルは黙ってアンジェリークの手の中に花

びらを落とした。

「おめーにやる。オレの手がなかったらおめーの手の中に落ちただろうしな」

「でも」

「オレはそんなの興味ねぇからいらねぇよ」

 ゼフェルが言うとアンジェリークは花びらを握りつぶさないようにそっと握った。

「ありがとうございます」

「お礼言うことじゃねぇだろ」

 テレくさそうに頬をかきながら言うゼフェルにアンジェリークは微笑んだ。



☆ ☆ ☆

 桜の花びらが舞い散る中、アンジェリークは隣にいるゼフェルを見上げた。

 あの年以来、毎年桜の季節には必ずここへ二人で来ている。あの花びらは押し

花にして今でも大切に仕舞っている。

 あの日から数年の時が流れた。女王候補だったアンジェリークは試験を降り、

王立研究員の研究員となり聖地に残った。

 数年の間に色んなことがあった。ゼフェルとは恋人同士となり、数え切れないほ

どのキスをして、抱き合って。小さなケンカもあった。季節が変わるたび二人は大

人になったが気持ちは変わること無くお互いがお互いを大切に想い合っていた。

 そして、1週間後に二人は恋人同士から夫婦になる。恋人としては最後の花見

のせいか二人ともさっきから言葉を交わさず感慨深気に桜を見ていた。

「オレ、おまじないとかジンクスなんて信じてねぇけど・・・」

 黙って桜を見ていたゼフェルが口を開いた。アンジェリークは穏やかに微笑み聞

いている。

「桜のおまじないは本当にあるのかもな」

 どうやらゼフェルも同じことを思い出していたようでアンジェリークは嬉しくなっ

た。

「うん・・・」

「ま、桜のおまじないなんか無くたってオレはおめーを幸せにするけどな」

 ゼフェルがアンジェリークの左手を取って言った。左手の薬指に光るプラチナリ

ングを確認し、にっと笑う。

「おめーはオレといる限りぜってぇ幸せにするからな」

「ゼフェル。私もあなたを幸せにしたい」

 アンジェリークに言われゼフェルは虚を衝かれたような顔をするがすぐに笑顔に

なりアンジェリークを抱き寄せた。

「オレの幸せはおめーが幸せでいることだぜ」

 1週間後に結婚式を控えた二人は早めの誓いのキスを交わした。



 私の幸せはあなたの側にある。

 オレの幸せはおめーの側にある。



〜fin〜